日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #33

  1. 人生

『徒然草』からの生きるヒント 〜心が近づく、手書きの文字

手書きのメッセージが話題に

コロナ禍で大きな影響を受けている飲食業界。様々な工夫がニュースで紹介されています。
中でもインパクトがあったのは、東京・中野のフレンチビストロの窓ガラスに貼り出された、手書きのメッセージです。

「#助けてください #中野の中心で愛を叫びながら #テイクアウト #始めました」

模造紙に、一文字ずつ、手書きで書かれていました。SNSでおなじみの「#」も手書き。
これだけSNSが浸透している世の中に、温かみのある手書きのメッセージがふっと現れると、とても心を惹かれます。
このメッセージを見て「なんとか、応援したい!」という思いを抱いた多くの人が、お弁当を求めて、大きな反響になりました。
手書きで「心」が伝わり、それを見た人の「心」が動きだす……。助け合いの精神も、手書きによって、より強くなったのかもしれませんね。
『徒然草』にも、手書きのよさを伝えるこんな一段がありました。

たとえ字が下手でも、手紙は自分で書きましょう

(意訳)
手紙を書くときには、たとえ字が下手であっても、自分で書くほうが、心が伝わります。恥ずかしがらずに、どんどん書いたほうがいいのです。
字が下手で見苦しいからといって、他人に代筆を頼むのは、わざとらしく、嫌みな感じを受けます。

(原文)
手のわろき人のはばからず文かきちらすはよし。見ぐるしとて人にかかするうるさし。(第35段)

「字が下手であっても」と言われると、文字を書くのが苦手な私でも、やる気になります!
ですが、せっかくなら、憧れの「美文字」で手紙を書きたいですよね。文字を上手に書くポイントを、書道の達人・木村泰山さんにお聞きしました。

書道の達人・木村泰山さんに聞く

(「月刊なぜ生きる」令和元年8月号に掲載した内容です)

木村泰山さんは、実用細字部達人・かな部達人・詩書部達人です(「達人」は、書道指導者の最高位)。そんな木村泰山さんが、気さくに答えてくれました。

──どうしたら、字がうまくなるのでしょうか?

よく私は字が下手だからと言う人がいますが、下手は当たり前なんです。書の勉強をしていないし、しかも心を入れて書いていないのだから。皆さん、雑なんですよ。

──ごもっともです。でも、そんな者でも上達する道はあるでしょうか。

大切なのは、ゆっくり心を込めてていねいに書くことです。それだけで文字というのは、相手の心に伝わりますよ。ぜひ今日からそうしてください。字が変わったねと言われると、自信になります。
それには、紙に筆を下ろしたあと、一呼吸おいてから筆を動かすのです。筆を置いたその時に、体から字に心が伝わるのです。文字は自分の分身みたいなもの。心を伝えるために文字があるのです。ラブレターもパソコンではなく、やっぱり手書きですよね。心を込めて書けば、下手でも上手に見えるのです(笑)

『徒然草』からの生きるヒント 〜心が近づく、手書きの文字の画像1

心を込めて手書きで書こう

木村泰山さん、ありがとうございました。
反省しますと、今まで文字を書く時は、ササササーっと走り書きでした。それでは、下手なのは当たり前……。

手紙を書く目的は、「心」を伝えるためです。

あの人に伝えたいと、一文字、一文字、心を込めて、手書きで書いてゆく……。それが相手に伝わるんですね。

「ヒト」と「ヒト」との距離は、ソーシャルディスタンスで離れていても、「心」の距離は、手書き文字で、ぐっと近づける! と分かりました。

さあ、お茶をいっぷくしたら、あの人に手紙を書こう。
いつもよりゆっくり、ていねいに、思いを乗せて……。

『徒然草』からの生きるヒント 〜心が近づく、手書きの文字の画像2

(イラスト 黒澤葵)


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