カフェで楽しむ源氏物語 #8

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源氏物語⑧【葵の巻】美女の心に鬼が棲む

葵祭

光源氏22歳の頃の話です。

源氏の正妻・葵の上(左大臣の娘)は、夫の浮気を不快に思いながらも、いつも取り澄ましています。
源氏もそんな彼女に、「少しはやきもちでも焼いてくれれば可愛いげがあるものを…」と打ち解けられません。
結婚当初から、2人の心はすれ違っていたのです。

しかし、結婚10年めにして、ついに葵の上が懐妊。この時、源氏は初めて彼女に「愛おしい」という感情を抱いたのでした。

一方、源氏の7歳上の愛人・六条御息所は、たまにしか来なくなった源氏を思い、嘆きを深くしていました。
誇り高く、物事を思い詰めすぎる御息所と一緒にいると、源氏はどうしても息が詰まり、足が遠のいていたのです。

そんなおり、葵祭の行列に源氏が加わることになりました。
身重の葵の上も、周囲の強い勧めで夫の晴れ姿を見に、出掛けることにしました。

一条大路には人が押しかけ、立錐の余地もない状態です。
遅くに到着した葵の上一行は、車を止める場所がなく、供の者たちが
「左大臣の姫君、源氏の大将の奥様のお車だぞ」
と、先に場所を取っていた車を次々と強引に退けさせます。

なんとその中に、人目を忍んで早くから来ていた六条御息所の車も交じっていたのです。
左大臣家の不心得者たちは、「愛人ふぜいが…」と御息所の車にさんざん乱暴を働きました。

せつない女心を鎮めかね、光源氏の姿を一目なりとも、とこっそり出掛けてきた御息所にすれば、相手の正妻に大衆の前で辱しめられたのですから、心はずたずたに踏みにじられました。

後で一部始終を知った源氏は、葵の上が供の者たちを制止しなかったことを、情けなく思います。

嫉妬の心は大蛇となって

さて、葵の上のお産が近づいてきました。
産気づき苦しむ姿がただならぬ様子です。
源氏がそばで必死に力づけていたその真っ最中、葵の上がまるで別人の声でうめきだしました。

「ああ、苦しい…、助けて…」

気配も声も六条御息所そっくりです。
光源氏はゾッとして辺りを見回しますが、自分一人しかいません。
誰かが部屋に入ってきたときには、元の葵の上になっていました。

しばらくして、無事に男の子が生まれました。

同じ頃、御息所は嫉妬に狂うあまり、気を失っていました。

“私は命を懸けて源氏の君を愛しているのに、あの方の心は私から離れていくばかり…。しかも葵が子どもを生んだというじゃない。なぜあの女ばかりが幸せになるのよ!?”

光源氏の子が健やかに育ち、左大臣家の節目節目の祝いもたいそう盛大だ、と人々のうわさを聞くにつけ、御息所の心は鬼となり、激しい嫉妬が大蛇となってのたうち回る。心で幾度となく葵の上の身体を打ち、首を絞めるのです。
御息所は、そんな己の醜さにも、いよいよ苦しまずにはいられないのでした。

永遠の別れ

産後、なかなか体調が回復しなかった葵の上は、屋敷が手薄になっていたある秋の日、突然苦しみだし、間もなく息絶えてしまいました。

源氏は愕然としました。
いつかは睦まじい仲になることもあろうと、互いの命をのんびり当てにしていた愚かさを悔やみます。

なおざりのすさびにつけても、つらしとおぼえられたてまつりけん
(気まぐれな浮気を繰り返して、葵につらい思いをさせてしまったものよ)

こんなに早く永遠の別れが訪れると知っていたら、もっと大事にしていたのに…。

しかし、嘆きはもう届きません。

御息所は、己の嫉妬心が葵の上を取り殺したと思い込み、つれない源氏にも絶望して、都を去る決意を固めるのでした。

 

※光源氏が物の怪(け)を見聞きするときは、いつも一人です。理由につきましては、【夕顔の巻】をごらんください。

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