推しが見つかる源氏物語 #3

  1. 人生

女性なら共感しちゃう!インテリ美女・六条御息所の恋愛事情と大きな悩み

今回から、六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)について2回に分けて紹介します。

六条御息所は、頭も切れ、センスの良さも教養の深さも抜群のインテリ美女です。
しかし、一般的にはプライドが高くて嫉妬深く、“物の怪”になって光源氏の妻たちにまとわりついた怖い女性、というイメージがあるようです。

はたして、六条御息所はどんな女性なのでしょうか。
「女性からの共感度ナンバー1」と言われる彼女の心情をたどりながら、紹介していきたいと思います。

女性なら共感しちゃう!インテリ美女・六条御息所の恋愛事情と大きな悩みの画像1

年下の恋人・光源氏との関係に悩む

六条御息所は、16歳で皇太子の妃になり、翌年に女の子を出産したものの、20歳で皇太子と死別し未亡人になりました。
その後何年か経って、光源氏から真剣な告白を受けたようです。

最初は光源氏がどれだけ素晴らしい男性といっても7歳も年下、元皇太子妃で未亡人である自分が彼の恋人になどなれない、と受け入れませんでした。
しかし、光源氏のアタックは猛烈で、とうとう根負けしてしまったのです。

二人が付き合うようになると、六条御息所が光源氏にのめりこみます。
源氏はこの世の人とは思えないくらい美しい男性で、教養やセンスのレベルも高く、魅力ある人だったのでしょう。

ただ、年上であることの引け目や元皇太子妃のプライドもあってか素直になれず、源氏と逢っていても彼の心を癒すことができません。
口説き落とすまではすごい熱意で言い寄ってきたものの、光源氏の足は次第に遠のいていきます。

六条御息所のプライドはひどく傷つき、くよくよ悩んで悲しみに沈みました。

正妻・葵の上とのバトル「車争い」

そんな光源氏との関係が続いていた時に起こったのが、光源氏の正妻・葵の上との「車争い」でした。
葵の上については、こちらの記事で紹介していますので、ご覧ください。

車争いのとき、六条御息所がどんな思いでいたのか、その心情を見ていきましょう。

******

御息所が29歳の時のこと、彼女の一人娘が伊勢(今の三重県)に行くことになりました。
光源氏を頼りにしたままではだめだと、娘と一緒に伊勢に行くことを考え始めます。

源氏は自分を丁重に扱ってくれても、正式な妻として認める気がないのはわかります。
御息所はどうしても、自分の方が年上という恥じらいや遠慮で何も言えず、思い詰めることしかできません。

その頃、光源氏が賀茂祭に関わる行列へ参加することが決まりました。
光源氏の晴れ姿を一目見て、少しでも心を慰めたい、と御息所はお忍びで出かけます。
早くから見物場所の一条大路に着いて、ほどよい所で牛車を止めました。

日が高くなると、隙間なく物見車が立ち並び混雑してきます。
その中で、むりやり割り込んでくる牛車がありました。力ずくで辺りの車を立ち退かせているのです。
葵の上の従者たちでした。
 
彼らは六条御息所の牛車にも手をかけてきました。
「光源氏様の愛人ふぜいが…、こちらは正妻の葵の上様のお車だぞ」とさんざんに乱暴をはたらき、御息所の牛車を破損させて、奥に押しやってしまったのです。

光源氏を愛する六条御息所の悲しみ

奥に押しやられてしまい、御息所は何も見えません。
しかも、こっそりと光源氏の姿を見にきたことや、正妻側に牛車まで壊され押しやられたことを世間中に知られてしまい、恥ずかしさにうちひしがれます。

帰ろうとしても、出ていく隙間がありません。
そこへ「行列が来たぞ」という声が聞こえます。

六条御息所は、光源氏の姿をなんとか一目見たいと思ったでしょう。
御息所からは光源氏の姿が見えたものの、源氏は奥に押しやられた彼女の車には気づかず、ちらりとも見ません。

その様子に御息所の心は千々にかき乱されます。
源氏は葵の上の車には気づいて、きりりと表情を引き締めて通っていきました。
 
六条御息所は自分だけ無視された、とみじめな気持ちです。
側にいる女房(お世話する人)たちに見られてしまうと分かっていても、流れる涙を止めることができません。

女性なら共感しちゃう!インテリ美女・六条御息所の恋愛事情と大きな悩みの画像2

しかし一方では、こんなに輝く源氏を見なかったらさぞ残念だっただろう、という思いもありました。
光源氏のことを本当に愛していたのです。

車争いの一件を聞いた源氏は驚いて謝りに行きましたが、六条御息所は会いませんでした。
彼に謝ってもらうことでもなく、いっそうつらくなると思ったからかもしれません。

周りから大切にされる葵の上への嫉妬

このあと御息所は、以前にもまして悩むことが多くなりました。
光源氏にはもう愛されないだろうとあきらめているものの、都(京都)を離れて伊勢(三重県)に行くのも心細く、世間は自分を笑い者にするだろう、と悩みます。

しかし、京に残れば今回の車争いのように大恥かかされて、人々に見下される。それも耐え難いことでした。
寝ても覚めても悩んで、意識もうろうとした状態です。

そんなとき、葵の上が病を患い、源氏や帝をはじめとする世間中が彼女の容態を心配していることが聞こえてきます。
六条御息所は穏やかでいられません。
私のことを本気で心配してくれる人などいないのではないか…という気持ちでしょう。

六条御息所は、これまで葵の上に敵対心を持ったことはありませんでした。
ところが、車争いがあってから憎しみの感情が涌き出てくるのです。

こんな夢を見るようになりました。

少しうとうとすると夢を見る。夢では、葵の上らしき人が美しく着飾っているところに出向き、彼女をつかんだり小突いたりする。
そのうちにいつもとまったく違う荒れた気持ちになり、葵の上が起き上がれないほど激しく叩く。そんな夢を何度も見ている。


【原文】
すこしうちまどろみたまう夢には、かの姫君とおぼしき人の、いときよらにてある所に行きて、とかく引きまさぐり、うつつにも似ず、たけくいかきひたぶる心いできて、うちかなぐるなど見えたまうこと、度かさなりにけり。

六条御息所の物の怪のうわさ

葵の上の容態はどんどん悪くなり、とても苦しんでいるとか。
世間では六条御息所の物の怪では、とうわさされているのが耳に入ってきます。

物の怪とは、死霊、生き霊、魔物の類いをまとめて言います。
当時は人にとりついて、病気にさせたり死なせたりするものだと信じられていました。

「自分の不幸を嘆くことはあっても、他人を悪く思うことなどないのに…」

【原文】
身一つの憂き嘆きよりほかに、人をあしかれなど思う心もなけれど…。

他人の不幸を願うなど考えられない。
でも、もしかしたら私は物の怪になって葵の上に取りついているのかも…。
六条御息所は自分の心を見つめて苦しみます。

女性なら共感しちゃう!インテリ美女・六条御息所の恋愛事情と大きな悩みの画像3

やがて葵の上が無事に男の子を出産したという知らせが入りました。
六条御息所はますます穏やかでいられません。
危篤という噂もあったのに安産だとはいまいましい、という思いが心をかすめるではありませんか。
自分でも驚いたことでしょう。

葵の上の急死…。光源氏からの手紙

ところが、世間中から祝福されていた葵の上は、しばらくして急死してしまいました。
葵の上の両親、兄弟、光源氏はもちろん、人々はたいへん驚き悲しみに暮れます。
 
六条御息所も驚いて、源氏にお悔やみの手紙を送りました。
しかし、御息所の物の怪が葵の上に取りついたのをはっきり見た、と思っている源氏は嫌でたまりません。

次のような歌を送ってきました。

とまる身も消えしもおなじ露の世に心置くらんほどぞはかなき
生き残った者も亡くなった者も同じ、露のようにはかないこの世に執着しているのはつまらないことです

あなたは儚いこの世の男女のことや、恥をかかされた憎しみに執着していませんか。
執着しているから、物の怪になってわが妻・葵にとりついたのでしょう…。
何とつまらないことでしょうか、と。

やはり私が物の怪になって葵の上に取りついていたと源氏は言いたいのだわ。
年甲斐もなく恋に夢中になって、こんなみじめな状況になってしまった…と六条御息所は消え入りたい気持ちになりました。

物の怪とは何か?作者・紫式部の考え

怖い女性というイメージのある六条御息所ですが、彼女の心情を見ていくと、いろいろと悩んでいたことがわかりますね。
葵の上と自分の立場を比べて、嫌な心が出てきてしまうのも無理はないように思います。

彼女が怖いイメージを持たれている理由の一つには、物の怪が挙げられるでしょう。

当時、人にとりついて病気にさせたり死なせたりする、死んだ人や生きている人の怨霊が深く信じられていました。
作中でも、六条御息所の生霊が葵の上にとりついたのではないか、と光源氏も御息所自身も思っています。

ところが、作者・紫式部の考えは違うようです。
物の怪について、『紫式部集』で次のように詠んでいます。

「物の怪になって自分にとりついた」と、死んだ人に濡れ衣を着せて苦しんでいるけれど、本当は自分の心の鬼ではありませんか。

【原文】
亡き人にかごとをかけてわずらうも おのが心の鬼にやはあらぬ

紫式部は“物の怪”の正体を、物の怪がとりついたと苦しむ人の心の鬼、疑心暗鬼などではないか、と主張しています。
光源氏が六条御息所の悲しみに思いをはせる時、彼のうしろめたさが物の怪となって見えたのではないでしょうか。

******

なんだかかわいそうな印象の六条御息所は、この後どうなるのでしょう。
光源氏との恋愛ばかりが取り上げられる彼女ですが、実は娘のことも大事に思っていました。
後半では、六条御息所の母親としての一面、光源氏に託した思いについて紹介していきます。

これまでの連載はコチラ