こども歎異抄とは
子どものころ、ひそかに感じていた、素朴な疑問。
家族や学校の先生に聞いてみても、「まぁそんなものだよ」「考えてもどうしようもない」とごまかされて、モヤモヤした経験はありませんか?
大人になるにつれ、知りたかった気持ちにはフタをして、目の前のことに追われる毎日。
でも、いざ、同じようなことを子どもから尋ねられたら……。
今さら聞けない人生のギモンについて、700年前の古典『歎異抄(たんにしょう)』を通じて、少し深めに掘り下げるマンガ連載『こども歎異抄』。
第1回目は、“ウソにウソを重ねてしまう本当の理由” に触れてみたいと思います。
それは妖怪のしわざじゃなくて…?
子どもがウソをつくと、「どうして親にウソなんてつくの!」と、頭ごなしに叱ってしまうこともあると思います。
ウソでごまかすようなことを覚えたら、将来、ろくな大人になれないと心配してのことでしょう。
では、ウソをつく子は、特別に“悪い子”なのでしょうか。
人間はウソをつく生き物
「私はこれまで、一度もウソをついたことがありません」と言う人はいないですよね。
(もしそんな人がいれば、それがウソということに……)。
やってはならないこと、知られたくないことをしてしまったとき、それを隠そうとして、ウソをついた覚えは誰にでもあると思います。
むしろ、子どもよりも大人のほうが、世間体を考え、波風立てないよう、平気で思ってもいないことを口にしているのではないでしょうか。
ウソをついてしまう子だけが“悪い子”なのではなく、大人も子どもも、また、どんなに性格が良く見える人でも、「ウソをついてしまう心」を持っているのです。
ウソをついてしまう心の正体は?
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サボりたい心、サボった子だと思われたくないからウソをつく心、それは『煩悩(ぼんのう)』。
ウソをついてしまう心の正体を、『歎異抄』では、「煩悩(ぼんのう)」と言われています。
煩悩とは文字通り、私たちをわずらわせ、悩ませるもの。これは、どんな人にも百八つあると言われます。
生まれたばかりの赤ちゃんや、いつもニコニコしている恩厚そうな人を見ると、煩悩が少なそうに見えますが、108という数に変わりはありません。
朝から晩まで、煩悩に振り回されているのは、どんな人も同じです。
その中でも、最初に挙げられるのが、「欲(よく)」の心。
・お金が欲しい
・ほめられたい
・自分の思い通りにしたい、といった心で、
無ければないで欲しくなり、有ればあったで、「もっともっと欲しい」と限りなく広がっていく心です。
この「欲」には5種類あり、「五欲(ごよく)」と言われています。
- 食欲(しょくよく)
- 財欲(ざいよく)
- 色欲(しきよく)
- 名誉欲(めいよよく)
- 睡眠欲(すいみんよく)
子どもが「習い事をサボりたい」と思った心は、この中の「睡眠欲」にあたります。
睡眠というと、夜眠ることだけを思い浮かべるかもしれませんが、眠たい心はもちろん、サボりたい、なまけたい、楽がしたいと思う心も、「睡眠欲」です。
では、「習い事をサボる悪い子だと思われたくない」とウソをついてしまう心は、どれにあたるでしょうか。
これは、4つ目の「名誉欲」です。
自分を守るウソが、クセになる理由
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ウソつきと思われたくないから、さらにウソをつく心。それも『煩悩(ぼんのう)』。
自分をよく見せたい、嫌われたくない、という心が「名誉欲」ですから、そうやって自分を守るためにウソをつくと、どうなるでしょう?
今度は、「ウソつきな人間だと思われたくない」という名誉欲で、さらにウソを重ねてしまうことになります。
ということは、そこで厳しくとがめると、「叱られたくない」「親に嫌われたくない」という思いから、次はバレないウソを考えるようになります。
「ウソつきは泥棒のはじまり」という諺がありますが、そういった悪循環を教えたものかもしれませんね。
まとめ
子どもがウソをつくとき、その背景には、何かしらの理由や、子どもなりの心の動きが隠れています。「ウソをつく子どもの心は本当」という言葉もあります。
「ウソをつくのはよくないこと」と教えると同時に、「なぜそういうウソをつくのか」という背景を理解することが大切です。
子どものウソを厳しく叱りながら、一方で、大人の私たちも毎日、職場や近所づきあい・親戚・ママ友との会話の中で、自分を守るために、息を吐くようにウソをついています。
自分自身も欲の心に振り回されていることが分かれば、目の前の子どもがウソをついたときも「何か事情があるのではないか」と思えるかもしれませんね。
このように、「心とは?」「人間とは?」「生きるってどういうこと?」を考えるための倫理の古典が『歎異抄(たんにしょう)』です。
「こども歎異抄」(これから隔週連載を予定!)を通して、ぜひ親子で話し合ってみてくださいね。
(1万年堂ライフ編集部より)
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