日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #21

  1. 人生

人の年齢は、あっという間に、過ぎていきます 『枕草子』第241段 ただすぎにすぐる物

一月往ぬる二月逃げる三月去る

「一月往ぬる二月逃げる三月去る」
という、昔からの言葉遊びがあります。

「1月は行く、2月は逃げる、3月は去る」
うまい表現ですよね。

ついこの前、年が明けた!と思ったら、もう3月です。
1カ月が、「あっ」という間に過ぎてゆきます。
ですから、「あっ」「あっ」「あっ」で3カ月が過ぎました。
驚くほど、早いです。

千年前の清少納言も、同じことを感じていたようですね。

人の年齢は、あっという間に、過ぎていきます 『枕草子』第241段 ただすぎにすぐる物の画像1

清少納言も感じていた、人生の速さ

『枕草子』第241段には、「ただすぎにすぐる物」と題して、こう記されています。

(原文)
ただすぎにすぐる物 帆かけたる船。人のよわい。春、夏、秋、冬。

(意訳)
どんどん過ぎていくもの。
追い風を受けた帆かけ船。
人の年齢。
春、夏、秋、冬。

人の年齢は、あっという間に、過ぎていきます 『枕草子』第241段 ただすぎにすぐる物の画像2

追い風を受けた船が、とても速いスピードで大海原を疾走する映像が、目に浮かぶようです。

あー、速いな……。
と、視覚でイメージさせた、すぐあとに「人の年齢」と書いています。

帆かけたる船が、どんどん過ぎ去ってゆくのと同じように、月日も、どんどん過ぎ去ってゆく。

これから10年後……、と思うと、ずいぶん時間があるように思いますが、今までの10年を振り返ってみると、「あっという間だったなぁ」と気がつきます。

まさに月日こそ、どんどん過ぎ去る「帆かけたる船」ですね。

時間の感じかたの不思議

小学生のころは、1年が、とても長く感じました。
1年どころか、1日の時間もいっぱいありましたね。

「もう、いくつ寝ると、お正月……」と歌ったように、「あと、何回寝たら……」「まだ、その日にならないの?」と、楽しいイベントが待ち遠しかったです。
その日までの時間が、ゆっくり、ゆっくり流れている感じがしました。

しかし、そのイベントの日になってみると、楽しい時間は、あっという間に過ぎて、「えっ? もう終わり?」と思います。

反対に、苦手科目の授業など、嫌な時間は長く感じて、時計の針が、なかなか動かず、苦しかったなぁ……。

不思議ですね。

人の年齢は、あっという間に、過ぎていきます 『枕草子』第241段 ただすぎにすぐる物の画像3

それが、成長していくと、20代よりも30代、30代よりも40代、50代、60代と……、年を重ねるほど、「1年」のスピードが速く感じられるのではないでしょうか。

年齢が上になるほど、楽しい時間もあっという間、退屈な時間さえも、足早に過ぎていく感じがします。

清少納言の心に、思いを馳せる

「人生はあっという間」という現実を、「ただすぎにすぐる物」と教えてくれた清少納言の心に、思いを馳せたいと思います。

ものすごいスピードで、時間が過ぎ去ってしまうからこそ、「今」を大切に!というメッセージが、込められているのではないでしょうか。

人生には、いろいろなことがあります。

嫌なことがあると、どうしても、イライラしたり、くよくよしたりします。
しかし、それは過ぎ去った「過去」であり、「今」ではありません。

イライラして、文句や悪口を言っている、くよくよして、愚痴っている、そうしている時間も、どんどん過ぎ去っているのです。

「あ、大切な時間を、こんなことに使っていては、もったいない」と気がつきました!

そして、清少納言の、このメッセージの止めの一行は、「春、夏、秋、冬」。

美しい日本の四季で終わっています。
桜の花を愛でようと思っていたのに、気がついたら、もう葉桜だった……、それくらいに、時間は早く流れてゆく。
だからこそ、「今」の季節の美しさを愛でて、楽まなくちゃ、損ですよね。

過去のことはくよくよせず、凛とした姿勢で今を大切に生きていた、清少納言の心に触れた思いがしました。

人の年齢は、あっという間に、過ぎていきます 『枕草子』第241段 ただすぎにすぐる物の画像4
(イラスト 黒澤葵)

 


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