心に寄り添う認知症ケア #12

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大切な人の認知症と向き合うには?~悲しみを乗り越えるために~

認知症という診断は、本人にとっても家族にとっても大きな衝撃があります。そしてそれぞれに未知の経験が待っています。本人の不安はもちろんですが、支える家族も不安でしょう。

そこで、認知症の人を支えるご家族に立ちはだかる「あいまいな喪失」についてご紹介します。

認知症による小さな別れ「あいまいな喪失」

親しい人が認知症になったとき「あの人は、まだいるけど、もういない」という言葉にしがたい感覚を抱く家族は少なくありません。

認知症は、人格そのものが荒廃する病気ではありませんが、できていたことができなくなり、いわゆる「その人らしさ」が薄れてしまいます。

世話をしていたような人が世話をされる側になると、自信を失い、張り合いがなくなってしまうこともあります。

脳の働きが衰えることで、感情の起伏が激しくなることもあります。

すると「姿かたちとしてはまだそこにあるけれど、私の知っている『あの人』はもういなくなってしまった」という、複雑な悲しみに襲われます。

この「いるけど、いない」どう受け止めればよいのかわからなくなった心理を「あいまいな喪失」といいます。

死別のようなハッキリした喪失感ではありませんが、「あいまい」であるため、気持ちの整理をつけにくくなります。

しかし、「喪失」という言葉が使われている通り、認知症の人とのお別れが少しずつ始まっているのです。

介護者の気持ちも、揺さぶられ不安定になりがちです

認知症の人は、自分で心を制御することが難しく、不安定な状態がずっと続いています。

なので、ちょっとした体調の変化やストレスによって、別人のような表情や口調、態度になることがあります。その中で、ふと、その人らしさが戻ってくることもあるでしょう。

そうすると、「何とかすれば、また以前のお母さんみたいに思い出してくれるかも」と期待したくなります。

かと思えば、その期待が裏切られ続けたりもします。「一体どっちが本当の状態なの?」と叫びたくなることもあるかもしれません。

「何とか治ってほしい」と希望を抱いたり、「治らないならもういっそのこと早く……」と絶望したり、極端に相反する思いの間で揺れ動くため、振り回されるような、弄ばれるような、徒労感も強くなりやすいのです。

「まだ生きているのに『喪失』したとは思いたくない」「そんなことを考えてしまう自分が、薄情な人間に思えてくる」と後ろめたく感じる方もいます。

しかし、これは多くの人が感じることであり、こうした言葉にしにくい気持ちは、否定すればするほど自分の心が醜く感じられ、一層苦しくなります。

「あいまいな喪失」は、多くの認知症の人の家族が持つものであり、自然な気持ちです。

このような気持ちの整理が難しい悲嘆だからこそ、家族や支援者で共有し、支え合うことが必要です。

介護者自身が、このような心理を抱きうることを知っておくこと。

そして、介護が始まってからは気持ちを押し殺したり、無理をし過ぎたりしないことが、ご家族の心を守るために大切です。
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「あいまいな喪失」との向き合い方

では、この「あいまいな喪失」をケアするにはどうすればいいのでしょうか。

悲嘆のケア(グリーフケア)では、「きちんと悲しむ」ことが大切だとされています。

悲しみのあまり現実から目をそらしてしまうと、気持ちのやり場が無くなり、かえって暗い気持ちが長引いてしまうからです。

死別などの明確な喪失では、葬儀などが「きちんと悲しむ」「皆と一緒に悲しむ」場となります。

しかし「あいまいな喪失」は、そのような区切りがありません。

そこで勧められるのが、「小さなさようなら」です。

「まだいるけど、いない」と感じる悲しみは、そのまま受け入れて「さようなら」をしていく。

涙を流すことがあってもいいと思います。

このような喪失は何度もやってきます。症状が進み、変わっていくたびに、何度も喪失に気づいて「さようなら」をするのです。

「まだ亡くなっていないのに別れを告げるだなんて縁起でもない」と思うかもしれませんが、悲しいときにきちんと悲しむことは、自分の心を守るために大切なことです。

この「小さなさようなら」をくり返すことが、現実から目をそらさず、その時その時の相手ときちんと向き合うことだと思うのです。

つらく悲しいことですが、悪いことばかりではありません。本当の最期の別れの前に、伝えたいことを伝える機会がまだあるのですから。

哀しいかな私たちは、追い詰められないと、勇気が出ないこともあります。

あいまいの喪失は、「いないけど、まだいる」という意味でもあるのです。

まとめ

  • 親しい人が認知症になったとき、ご家族が悲しさや喪失感を感じるのは、人間としてごく自然なことです。
  • 「あいまいな喪失」を感じているつらい時こそ、きちんと悲しむことで、現実に向き合う覚悟を持つことができるようになります。
  • 介護者の心のケアは非常に重要です。家族や支援者で支え合い、自分の心を守りましょう。

【参考文献】
『認知症の人を愛すること :曖昧な喪失と悲しみに立ち向かうために』
ポーリン・ボス (著), 和田 秀樹 (翻訳), 森村 里美 (翻訳)、誠信書房、2014

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