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認知症の家族への対応に必要なこと 医師が語る認知症患者の”こころの世界”とは

身近な人が認知症にかかったとき、どのように対応すればいいのでしょうか。適切な対応をするには、まず、認知症への偏見をなるべくなくし、認知症の方の心情とはいかなるものか、をよく知っていただきたいと思います。

認知症患者の「こころの世界」を、精神科医にお聞きしました。

認知症になると「何も分からなくなる」と思われがちですが、決してそうではありません。

確かにできないことが増えたり、言葉も出てこなくなったり、人が変わってしまったように思うことも増えてくるかもしれません。

しかしそれは「人間としての終わり」「別人になってしまう」「何もできなくなる」ということにはなりません。この哀しい誤解が今なお少なくないように思います。

変わってしまうところもあれば、変わらないところもある」。その違いを知ることが、認知症の本質を知る第一歩であり、悩める認知症の人に寄り添う大切なポイントです。

認知症患者は“困った人”ではなく“困っている人”

かつて『恍惚の人』(有吉佐和子著、1972年)という小説が話題となりました。

認知症(当時は痴呆症)になると「人格が崩壊し、人間として終わってしまう、おかしくなって周囲に迷惑をかけるだけの存在」などの強烈な印象を世間に与えました。

また日々のニュースで、徘徊老人が隣町で発見されたことや、認知症介護の疲れでボロボロになっている家族が報じられることもしばしばです。

確かに認知症になると、家にいながら「家に帰る」と言って出ていってしまう、同じことを何度も聴くなど、なぜそんなことを言ったりやったりするのか分からない、一見不可解な言動が多くなるのは事実です。

しかしそれは「認知症の人なりの理由」がちゃんとあるのです。

「何も分からなくなった」のではなく、「人間としてごく自然な反応であるための言動」であることが分かってきています

しかし徘徊、暴力、妄想などの意味不明な「症状」のイメージが先行し、不安や困惑、孤独など、認知症の「こころの世界」はまだまだ知られていないように思います。

認知症の人たちは “困った人” ではなく、 “困っている人”です

そのように視点が変わると、認知症そのものの見方が変わってきます。「人の憂い」に気づければ、もっと「優しく」なれるのです。

語り始めた認知症患者たち

2004年に行われた国際アルツハイマー病学会で、越智俊二さん(当時57歳)が認知症の常識を根底から覆す発表をしました。越智さんは、渡辺謙主演の映画「明日の記憶」のモデルになったとされる方です。

越智さんは若年性認知症である自分の状態や気持ちを、以下のように語られています。(2012年9月26日朝日新聞デジタルより)

2004年10月、京都で開かれたアルツハイマー病の国際会議で、越智は演台に立った。2千字ほどの文章を一語ずつ丁寧に読み上げる。

「私は57歳です。物忘れの病気になり、ずいぶん苦しんだ時期がありました。でもいまはデイで仲間と笑い、家族に感謝して生きています。物忘れがあっても、いろいろなことができます。安心して普通に暮らしていけるように手助けをしてください……。」

2千人で埋まる会場が拍手に包まれた。涙を流す人もいる。越智は誇らしげだった。

また、文藝春秋(2014年8月号)で「重度認知症ケアハウスおやまのおうち」での取り組みが取り上げられました。

話しかけても返事が返ってこず、何も分からなくなってしまったと思われていた重症認知症患者の手記が紹介されたのです。(2015年『NHKスペシャル 認知症革命』でも放映)

何とかしたいが、何とも出来ない、如何ともしがたい物忘れによる苦しみについて語られていました。

最近物忘れをするように成った

物忘れは悪い事です なさけない事です

物忘れするのはもうどうしようもないがどうする事も出来ない

(中略)

何かしたくてもやる気があっても何をしてよいかわからない

(中略)

何もする事がないから死んでも良いと思ふ

する事が有ればまだまだ長生きも良い

(82歳・男性)

長生きして物忘れが上手になりそれが私のなやみです。

思い出した時はすでにおそい

どうしてこんなんかなとさびしい気がする

(79歳女性)

(以上、文藝春秋2014年8月号〔株式会社文藝春秋〕より抜粋)

症状の裏に隠された不安や寂しさに寄り添う

認知症の代表的な障害の一つに、見当識障害があります。

「今日がいつなのか」「自分はどこにいるのか」「目の前にいる人は誰なのか」など、時間や場所、人の顔などが認識できなくなる障害です。

「いま自分は何をすればいいのか」
「ここはどこなのか」
「周りの人たちは誰なのか」

それら「安心の土台」がぐらついてしまう不安はいかばかりでしょうか。

不安にさらされると、人は周囲に対して過剰なほどに敏感になります。何気ない一言、表情、雰囲気から、今自分が置かれている状況を察しようとするからです。

記憶に残るのはあなたが何を言ったかではなく、どんな風に話したか、ということだ

私たちには感情はわかるが、話の道筋はわからない。

(中略)

共感することが私たちを癒してくれる

〔クリスティーン・ブライデン著、馬籠久美子・桧垣陽子訳(2004).『私は私になっていく』 クリエイツかもがわ〕

認知症になっても何も分からなくなるのではありません。本人なりの想いがあって生きているのであり、周囲の人の気持ちも伝わっているのです

脳の障害からくる記憶障害、認知機能障害など、改善の見込みは難しい症状もあります。

しかし周辺症状、いわゆる「困った症状」は、本人の不安な気持ちの「暴走」であることがほとんどです。症状の裏に隠された不安や寂しさに寄り添うことが、認知症のケアの一番のポイントなのです

言葉や行動の裏にある「心」を知る

記憶力や認知機能などの低下という「ひとひねり」はありますが、認知症になると複雑な思考ができなくなるために、気持ちと症状の関係はむしろシンプルです。

さまざまな症状は、本人なりに困っていることがあるサインであり、不器用なりに必死で生きている姿でもあります。そのように受け止めることができれば、本人も周囲で支える人も、誤解やすれ違いのためにツラい思いをすることは減るはずです

言葉や行動の裏にある「人の心」を知ることこそ、認知症を理解することにつながるのです。

まとめ

  • 認知症患者は「 “困った人” ではなく、 “困っている人”」。行動の一つ一つには理由があり、その理由に思いを馳せることが寄り添ううえで大切
  • 重度の認知症患者でもあっても、何も分からなくなってしまったのではなく、心は生きていて、悩み苦しんでいることがある
  • 「いつ・どこで・誰と」を忘れてしまう認知症患者は常に不安にさらされている。その不安・寂しさから症状が暴走してしまう
  • 症状の裏に隠された不安・寂しさに寄り添うことがケアのポイント

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