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認知症ケアのこれが知りたかった!医師が語るいちばん大切なこと

あなたの大切な人、ご両親パートナーが認知症にかかったとわかったならば、どんな気持ちになるでしょうか。

2025年には65歳以上の5人に1人が認知症にかかると予想されており、決して他人事ではありませんね。

もし認知症のケアをするとなったときに、いちばん大切なこととは何なのか、精神科医にお聞きしました。

もしある日突然、あなたや、あなたの大切な人が「認知症」と診断されたらどうしますか。

実際、51歳にして若年性アルツハイマー型認知症と診断された佐藤雅彦さんは、次のように語っています。

認知症についての知識が増えれば増えるほど、希望が失われていく」〔佐藤雅彦著(2014).『認知症になった私が伝えたいこと』 大月書店〕

いざ自分の問題として「認知症」を調べてゆくと、そのマイナスの知識にしかたどりつけないのが現実だったのでしょう。

しかし本当に知りたいのは、そんなことではないはずです。

認知症について、ぜひ知っておかなければならないプラスの知識、考え方をお伝えします。

「役割の喪失」が「その人らしさ」を奪ってしまう

認知症の方が困ること、苦しまれていることは、記憶障害や判断力・実行力の低下など様々ですが、もっと深刻な問題が別にあります。それは「役割の喪失・孤独感」です。

「役割の喪失」とは、親として、夫・妻として、会社員として、教師として、地域の役員としてなど、様々な役割、自分らしさ(アイデンティティ)に誇りをもって生きていたのに、それらの役割が果たせなくなってしまうことをいいます。

すると、「○○として」生きてきた自分は、もういなくなってしまいます。「居場所がなくなった」と表現されることもあります。

認知症を発症するほとんどの高齢者は、それまで誰かの「世話をする」「頼りにされる」存在として頑張ってきた人たちです。

それが徐々に、あるいは突然に、「世話をする」立場から、「世話をされる」立場に180度変わってしまうという現実に直面します。かといって世話にならずに生活していくこともできない場合が多いのです。

これは多くの人にとって受け入れがたいことです。そして、周囲の人たちの自分を見る目が変わってしまうことにも気づきます。

自分自身も、周囲の人にとっても、元気に活躍していた頃のイメージが強いほど、その時とのギャップが大きくなり、自己肯定感が失われてしまいやすいのです

認知症の問題の本質は「自己肯定感の低下」

このような現実を知ると、認知症ケアの大前提となることがあると分かります。それは「“自己肯定感”を大切にする」ということです。

自己肯定感とは「自己評価」「自尊感情」ともいいます。ひらたくいうと「自信」ですが、単に自信が持てないということではありません。

年をとっても仕事はできる、家事ができる、そういう自信ではありません。

「自己肯定感」とは、自分は生きている意味がある、存在価値がある、大切な存在だ、必要とされている、という感覚のことですこれが生きていくうえで一番大切なのではないでしょうか

この安心感を持てなくなると、認知症の人の「周辺症状」といわれる症状(暴言や暴力、周囲を巻き込んだ妄想など)が現れてくるようになります。

認知症ケアでいちばん大切なのは「自己肯定感を保たせること」

「『ありがとう』といわれるとすごくうれしい。自分もまだ生きていていいんだと思えるから」といった方がありました。

裏を返せば「周りにうとまれ、迷惑ばかりかけている自分みたいな人間が、これ以上生きていていいのか、いつも不安に思いながら生きている」ということだと思います。

認知症は「周囲との関係を壊す病気」とまで言われることもあります。このような孤独感をもつ方は決して少なくありません。

認知症になった自分も肯定し「生きていていいんだ、大切な人間なんだ」という気持ちで生きていけるようにサポートすることが、認知症のケアにおいていちばん大切なのです

そのような関わりがもてれば、本人の不安や孤独感も和らいでいくでしょう。突然なんらかの行動を起こして周囲を困らせてしまう悪循環も減っていくはずです。

フランス発祥の認知症ケアの技術『ユマニチュード』も、「人間らしさ、本人の尊厳を大切にする」という哲学のもとに構築されたもので、「自己肯定感」を損なわないようにするための技術です

ユマニチュードには「目を見る」「丁寧に話しかける」「やさしく触れる」という行為があり、それぞれ以下のような効果があります。

  • 相手の目を見ることは存在を認めることです。
  • 丁寧に話しかけ、驚かさないことは、相手を大切に思っていることを伝えることになります。
  • やさしく触れると、互いのぬくもりを感じ合い、穏やかな気持ちにしてくれます。

相手の存在を尊重しようとする気持ちと、それが伝わるように伝える技術。この2つが認知症ケアの両輪です。

認知症は不便であっても、不幸ではない

冒頭に紹介した「認知症について知れば知るほど希望が失われていく」と語った認知症の方は、一方で次のような希望の言葉を残されています。

認知症は確かに不便ですが、けっして不幸ではありません

「『何かができる』『誰かの役に立てる』ことが善いこと」という社会の価値観で生きている私たちにとって、それができなくなることは、「生きる意味」という根本を揺さぶられる問題です。

しかし、何もできなくなった途端に失われてしまう、そんなものが生きる意味ではないはずです。

たとえ誰の役に立てなくても、何もできなくても、「生きている意味がある、大切な存在だ」と思えるのが本当の意味での自己肯定感でしょう。

認知症であっても、その自己肯定感を一人一人が持てたならば、けっして不幸ではないと思います

認知症の正しい知識をもとに、認知症の人の心に寄り添い、認知症になっても安心して生きていける社会になってほしいと願っています。

まとめ

  • 認知症で深刻な問題は「役割の損失・孤独感」です。認知症にかかると「その人らしさ」がなくなり、自己肯定感が失われていきます
  • 自己肯定感は「自分は生きている意味がある、存在価値がある」という感覚のことで、生きていく上でいちばん大切です。ゆえに「“自己肯定感”を大切にする」ことが認知症ケアの大前提なのです
  • 相手の存在を尊重しようとする気持ちと、その気持ちが伝わるように伝える技術。この2つが認知症ケアの両輪であり、もっとも大切なことです
  • 認知症となり、何もできなくなった途端に生きる意味を失うのではありません。自己肯定感が保たれたならば、決して不幸とはならないでしょう

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