カフェで楽しむ源氏物語-Genji Monogatari #37

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源氏物語(37)そばにいるのに寂しいのはなぜ?ヒロイン・紫の上の苦悩②【若菜下の巻】

こんにちは。国語教師の常田です。
源氏の献身的な看病で、紫の上は起き上がれるほどに快復します。涙を浮かべて喜ぶ源氏が、紫の上にはあわれに思えるのでした。

消えとまる ほどやは経べき たまさかに 蓮のつゆの かかるばかりを
(露が消えずに残っている、束の間ほども私は生きられるでしょうか。ほんのたまたま、蓮の露がこうして残っているだけの命ですのに)

二条院

紫の上が急病で倒れた知らせを受けた源氏は、女三の宮の元から飛んできて、付きっきりで介抱します。
しかし、快復の兆しは見えません。
どこが悪いかハッキリせず、日に日にただ弱っていくばかりでした。

源氏の意向で、紫の上は、かつて2人で暮らした二条院で静養することになりました。

紫の上は、意識の確かな時には、しばしば、「聞こゆることを、さも心うく」(かねてからお願いしていることのお許しもなく、情けなく存じます)と出家を懇願しますが、やはり許されません。

源氏は片時も彼女のそばを離れようとしませんでした。

ある日、源氏は用事で数カ月ぶりに六条院に戻りました。
するとその間に、二条院の紫の上が”息絶えた”ような状態になったのです。

周囲は大騒ぎで、亡くなったといううわさまで立ち、弔いに来る人までありました。

蓮の露

やがて紫の上は息を吹き返しますが、いよいよ強く出家を願います。

この命、もう長くはない。せめて仏道を一筋に求めて、来世は明るい世界に往きたいと。

源氏は、彼女の病が少しでも癒えるならばと、ようやく髪にハサミを入れる儀式だけは認めましたが、あくまで形式のみで、正式な出家は相変わらず許しませんでした。

とにかく「妻を死なせたくない」と悩み抜き、ふぬけになっている源氏。そんな夫があまりにいたわしく、紫の上は薬湯を少しずつ飲むようになりました。

そのかいあって、半年後には、頭をもたげ、起き上がれるほどに快復したのです。
夢のようと源氏は涙を浮かべて喜びました。

“生き永らえたといっても、はかない命は変わらないのに”
と胸詰まる思いで紫の上がよんだのが、最初にご紹介した「消えとまる」の歌です。

それに対して源氏は
「来世も極楽で同じ蓮の台に生まれましょう。私を置いて、出家するなどと言いなさいますな」
と返しました。

互いの心知らず

さて、六条院では、源氏の留守中に驚くべき事態が生じていました。
正妻・女三の宮が若い男と密通し、懐妊してしまったのです。

事実を知った源氏の衝撃と怒りはすさまじく、女三の宮への関わり方についても悩みます。

紫の上にはとても打ち明けられず、平静を装っていますが、永年連れ添った妻の目には、思い悩む様子がありありと分かりました。

しかし、「きっと、私のせいで六条院に戻ることができずに、女三の宮様をふびんに思っているのだわ」と紫の上は誤解してしまいます。

“源氏は自分よりも正妻を愛しているのでは…”という不安。これが何よりも彼女の体をむしばむのでした。

源氏も紫の上も、互いに相手を最も大切な人と思っているのですが、心の中には全く踏み込めず、それぞれ苦しんでいるのでした。

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  • 六条院:光源氏が暮らす大邸宅
  • 二条院:光源氏の別宅。六条院を建てるまで、源氏と紫の上はここで暮らしていました。

 

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