1. 子育て

【育児マンガ家 高野優さんにインタビュー】自分を大切にすると、子どもにも優しくなれる

幸せな親子関係をつくるには?高野優流・イライラしない子育て術

育児マンガ家として、テレビ番組の出演や、各地で子育て講演を行っている高野優さん。

最近の新型コロナウイルスによる外出自粛で、世界的に子どもの虐待が増えているといわれています。不安なニュースが続く中、幸せな親子関係を築いていくにはどうしたらいいのでしょう。

自らの子ども時代や、三児の母としての体験を交えて、高野さんに語ってもらったインタビュー記事を、改めてご紹介したいと思います。

(1万年堂ライフ編集部)

高野優さん

――昨年には、子どもの虐待防止を目指す改正児童福祉法などが成立しました(今年4月から施行)。今の子育て環境をどう思いますか。

ワイドショーなどでも「親なのに…」という声をよく聞きますが、私は逆に「親だから…」こそと思うのです。

自分のイライラや辛いことを、子どもにぶつけてしまう。他人に向けると問題になりますから。子どもを自分の所有物と思っているのですね。

私の子ども時代の体験からもわかります。法規制も必要ですが、子どもに感情をぶつけてしまう心に目を向けることが大事だと思っています。

――高野さんは、家庭でどんな子育てを受けましたか?

親から、ひどい言葉の暴力を受けて育ちました。

姉は、勉強もスポーツもできましたが、私はその逆で毎日、怒鳴られるんです。ののしられて、「何でおまえは生まれてきたんだ」みたいなことも言われていました。

だから私は、「苦しむために生まれてきたんだ」とずっと思っていて、「何で生きていなければいけないの?」と考えていました。

幸い私は、親以外の人たちに大切にしてもらえたので、恵まれていました。そんな人たちがいなければ、どうなっていたことかと思います。

――親との関係は、ご自身の育児にも影響がありましたか。3人の娘さんを立派に育てられました。

大変だったのは、私が親からされたことを、そのまま娘に伝えられないことでした。

例えば、私が折り紙を作ったとき、親から「上手だね。ありがとう」って言われて育っていれば、私も娘にそのまま話すことができます。
でも私は、折り紙を作っても親は見もしない、という寂しい環境で育ってきました。

だから、娘が折り紙を持ってきても、私は一度、立ち止まって自分に聞き返すんです。
「自分は親からこうされて嫌だったから、じゃあどうすればいいんだっけ?」と。
心の中で、そんな「変換作業」をしてから、娘に言葉をかけました。
ちょっとしたことですが、それがすごく大変なんです。

今朝、20歳の次女の部屋から、すすり泣くような声が聞こえたので、驚いて部屋に入ると、鼻がつまって鼻をすすっていただけでした。娘も驚いちゃって。

でも私の口から変換作業なしで「大丈夫?」って出たことが、とても嬉しかった。
「大丈夫?」も、私は親からはもらえなかった言葉なんです。
いろいろ模索して、やっとたどり着けたかなって感じです(笑)

虐待の連鎖を断ち切るために「自分を知り、自分を大切にすること」

―子どもへの対応について、講演会などでは、どんなアドバイスをしていますか。

親は、子どもに接する前に、まず自分を知り、自分を大切にすることが大事だとお伝えしています。

子育てとなると、親はついつい自分を犠牲にしてしまいます。でもそれは、逆なのではないかと思うのです。
まずは、自分を大切に思えないと、周囲の人も大切に思えませんから。

――自分を知る、とはどういうことでしょうか。

自分が、何でもできる完璧な人間ではない、という自覚を持つことです。そんなすごい人は、もともといないんです。

でも、子どもを持った途端、「立派ないいお母さんになろう」とシフトチェンジして、無理しすぎてしまう。それも、自分や子どものためでなく、世間や親戚の手前というのが多いのではないでしょうか。それで結局、自分を見失ってしまうのです。

出産後に、急にダイエット、と張り切っちゃう人もいますが、もともとモデル体型だったっけ?っていうことがありますよね(笑)

たいていはそんなにいい娘でも、模範的な学生だったわけでもないので、親になったからといって急に立派になれるわけがない。そんな自分の現実をしっかり確認したいですね。

――そうした自分を大切にするために、どんな工夫を?

私も、子どもが思いどおりにならないと、カッとなってしまいます。そんな自分をコントロールするには、ブレイクタイムが必要。

以前、カナダでホームステイをしていたお宅では、子どもが悪いことをすると、壁に向かわせて気持ちを落ち着かせるタイムアウトという時間を作っていました。
しばらくすると感情も冷めて、親も子も冷静に話し合えます。

私の場合はそんなとき、好きな香りのハンドクリームを塗って、気持ちを落ち着かせていました。
自分は何をすると心地よいのか、よく知っておくいいと思います
おかげで、手の甲ばかりがツヤツヤになってしまって…(笑)

また、お風呂場に行って「イロハニホヘト チリヌルヲ ワカヨタレソ ツネナラム……」を繰り返し称えて心を落ち着かせてもいました。
「アイウエオ カキクケコ…」は、ダメなんです。「オ!」で終わるから、だんだん力が入ってきて(笑)

――イロハ歌には「色は匂えど 散りぬるを わが世誰ぞ 常ならむ…」という無常観があるので、冷静になるにはいいかも知れませんね。

そうですね。親子でいられるのも、わずかの間と思えば、子どもにつらい思いをさせる自分が愚かしくもありますね。

冷静になれば、ものごとが見えてきます。

我に返ろうキャンペーン(高野優)

すべてを手放さくてもいい、子育てを楽しんでいいという内容に共感の声

――自分を大切にする必要性に気づいたのは、どんなことからですか?

まず、私の母親がまったく幸せそうに見えなかったのです。私の姉がすべてという人生でした。

今思うと、娘の幸せを自分の幸せと思っているから、いつもピリピリしていました。姉を自分の身代わりのように思っていて、姉の成績が落ちたり、絵画コンクールで落選したりするたびに泣いていました。

子どものことを自分の問題として考えていると辛くなります。それが反面教師だったと思います。

――自分を大切にするということを、マンガにも描かれていますね。

24年前に初めて妊娠したとき、出版社から、育児マンガを描くよう勧められました。

男性編集者からは、「育児はつらくて大変、ということを描かないと読者の共感は得られない」と言われました。当時の育児マンガは、おしゃれもできず、子どもに振り回されるような内容ばかり。

私が描きたかったのは、大変な中でもキラリと光る、育児の楽しさや面白さでした。

その後、担当者が若い女性に代わって、育児の面白さを描いたら、読者の評判がどんどん上がっていきました。

私は、娘の夜泣きも面白かった。子どもはお腹がへっても、のどが渇いても、ヒマでも泣くんですね。そんな面白さをマンガにしたかった。

娘が離乳食を食べず困っていたときもありますが、娘が舌で離乳食を押し出す様子が、駅の券売機から切符が出てくる光景に見えて、笑ってしまったことがあります。子育ての中にもこんなユーモアがあっていいことを伝えたいと思いました。

お母さんも、おしゃれをしていい、旅行もしていい、子どもがいるからこそできることもある。すべてを手放さなくていいんだ、楽しんでもいい、ということに共感が得られたのだと思います。

――そんな育児を実践するために必要な心掛けは?

親と子の関係が世界のすべてだと思うと、苦しい気持ちを子どもにぶつけてしまうことになります。

だから私は、3つの「居場所」を作りましょう、と話しています。母親なら、学生時代の友人、子ども関係のお母さん友達、趣味の仲間などです。

一つに依存すると風通しが悪くなります。子どもも、クラスや部活、塾の友達など、3つくらいの居場所があるといいですね。

子ども時代の私も、学校の先生には可愛がってもらいました。職員室に行って、海外の話や旅行の話を聞くのが好きでした。

祖父母もすごくかわいがってくれました。おかげで家から一歩外へ出ると、人生は楽しいって気づいたのです。大きな発見でした。
両親以外から「愛情」が得られた気がしました。そんな人が、たった一人でもいてくれればと思います。

「人はみんな幸せになるために生きている」1人1人のこの思いが悲劇をなくす

――実は、高野さんは10年前にご主人を亡くし、その後はお一人で子育てをされました。そうした経験は、人生にどんな影響を与えましたか。

命というものを、より深く見つめられるようになったのかなと思います。

重い病を抱えた夫とは、死別を覚悟しての結婚でした。でも現実の別れは、幸せになろうと思ってやってきたすべてのことを失う体験でもありました。

夫はもう音楽も聴けない、映画も見られない、美味しいものも食べられない。だから私もやってはいけないと思うようになりました。それでしばらくは用事がない限り家に閉じこもっていました。

その後、周囲から温かく支えられて回復してきたのですが、『よっつめの約束』(主婦の友社)という絵本を出したことが、大きな起爆剤となりました。
泣きたいときには泣こう、そこから人はまた立ち上がれるんだという内容の絵本です。

より悲しい人の気持ちにも寄り添えるようになり、生きること、死んでいくことへの思いも深まり、命というものを見つめた、もっと深い作品が描けるんじゃないかって思えたのです。

夫の分も生きよう。そうやって一歩前に出ることで、きっと夫も喜んでくれる、とつながっていきました。

――以前、「なぜ生きる」をテーマにした「マンガ大賞」(1万年堂出版主催)の審査員もされました。

いろんな作品が寄せられ、とても楽しかったです。生きる意味を見出していくというのは、とても大きなことですが、まず自分に問いかけることが大事だと思いました。

子育てが始まると、分厚い本も読めず、考えることも疎かになりますが、そんな中でもふと立ち止まって、なぜ生きる、と自分に問いかけてみることは、とても意味のあることだ思います。無駄な命なんてないのですから。

――お好きな言葉は?

人はみんな幸せになるために生きている」。

とっても好きな言葉なんです。これが、なぜ生きる、ということだと思います。

子どもの頃に私が感じたように、苦しむために生まれてきたんじゃない。幸せになるために生きていると胸を張って言いたい。
一人一人が、こんな思いを持てば、虐待などの悲劇は起きないでしょう。大事な言葉です。
生きる意味をいつも見つめて歩んでいきたいと思いますね。

聞き手:西田隆
カメラマン:山本哲志

高野優のオフィシャルブログ:「釣りとJAZZと着物があれば」

高野優さんのマンガエッセイ連載はコチラ

ぜひ読んでいただきたい本

子育てハッピーアドバイス 大好き!が伝わるほめ方・叱り方

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明橋大二(著) 太田知子(イラスト)