日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #143

  1. 人生

【イソップ物語】井戸へ飛び込んだヤギ〜よく考えてから行動しないと……

今年の夏の暑さは特別ですね。
クーラーの設定温度を低くして眠ってしまい、風邪気味に……。冷たいものを飲みすぎて、夏バテに……。つい、後のことを考えずに失敗することってありませんか。
こんなイソップ物語の一話がありました。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。

井戸へ飛び込んだヤギ

夏です。
太陽が、まぶしく輝いています。
野原を歩いているヤギは、喉が渇いてきました。

「どこかに、水がないかな……」

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すると、大きな穴を見つけました。
古い井戸のようです。
そっと中をのぞいてみると……。

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ありました。
清らかな水が、井戸の底にわいています。
しかも、一匹のキツネが、先に中へ入っているではありませんか。
ヤギは、話しかけます。
「キツネさん、そこの水は、おいしいの?」

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キツネは急に頭の上から声がしたので、びっくりした様子です。
実は、キツネは、足を滑らせて井戸に落ちてしまい、困っていたのでした。

でも、とっさに悪知恵が浮かんだようです。
すぐ、ニコニコ笑って、ヤギに優しく語りかけます。

「そりゃ、もちろんだとも! 冷たくて、おいしい水だよ。夏の暑い日には、ここは最高の場所なんだ。ねえ、君も来ないかい。一緒に飲もうよ。さあ、おいで!

ヤギは、もう我慢できません。

「早く、水を飲みたい!」と思って、井戸の底へ跳び下りたのです。

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キツネが言ったとおりでした。
井戸の水は、とてもおいしくて、ヤギは満足しました。

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でも、冷たい水が喉を潤す快感は、しばらくの間のことでした。
いつまでも飲んでいるわけにはいきません。

「さて、もう家へ帰らなくっちゃ」
井戸の底から上を見上げたヤギは、急に、心細くなりました。
なぜかというと、自分の力では、この井戸から出られないことに気づいたのです。
ヤギは、泣きそうになりました。

すると、横にいたキツネが、ぽんと手をたたいて、
「そうだ! 君と僕が、一緒に助かる方法を思いついたぞ!」
と叫びました。
「えっ、どんな?」

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「まず、君が前足を井戸の壁にかけ、背伸びをしてくれないか。君の体を土台にして、僕が壁をよじ登ってみるよ。そうすれば、きっと外へ出ることができるはずだ。僕が先に出たら、君を引っ張り上げてあげるよ」

「それはいい考えだね」

ヤギは喜んで協力しました。

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キツネは、ヤギの背中から頭、そして角へ登って、ようやく外へ出ることに成功しました。

でも、キツネには、ヤギを引き上げる力なんてありません。

「君は、なんてバカなんだ。後のことも考えずに、井戸へ飛び込むなんて……。
 たとえ、おいしい水を飲めても、井戸から出られなかったら、どうなると思う? 死ぬしかないじゃないか」

キツネは、こう言い捨てて、どこかへ去っていったのです。

井戸の底に残されたヤギは、やがて哀れな最期を迎えました。

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イソップは、

「今、自分がやろうとすることが、どういう結果を招くか、よく考えてから行動しなさいよ」

と教えているのです。

(『月刊なぜ生きる』 令和2年8月号「イソップ物語 人生にこんな場面ありませんか?」 文 木村耕一 絵 黒澤葵 より)

よく考えてから行動

木村耕一さん、ありがとうございました。

ヤギと同じ失敗をしているな、と共感してしまいました。

キツネのように、うまくおだててくる人もありますが、そんな時こそ調子に乗らずに、冷静に、よく考えてから行動するのが、失敗しない秘訣だなと思いました。

2500年前からのイソップのアドバイス、勉強になりました!