日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #40

  1. 人生

【平家物語の人物紹介】平宗盛 ~ご用心! いい気になると失敗する

ラクラク順境コースの落とし穴

「楽あれば苦あり」という、ことわざがあります。
楽しいことばかりも続かないし、苦しいことばかりも続かないんですよね。

そうは分かっても、できれば何でも思い通りになる「ラクラク順境コース」がいい!と思っていました。

しかし順境の時には、思わぬ落とし穴が……。
『美しき鐘の声 平家物語』を編集していて、気がつきました。

それを教えてくれたのが、平宗盛。平清盛の三男です。
三男ですが、長男、次男とも亡くなったため、やがて平家の棟梁になります。
しかし、絶頂期の自分勝手な振る舞いが、まさかこんな事態に……。

木村耕一著『美しき鐘の声 平家物語』から、私なりにかいつまんでご紹介したいと思います。

<今回の登場人物>
平宗盛(たいらのむねもり)……清盛の三男、のちの平家の棟梁
源頼政(みなもとのよりまさ)……以仁王に謀反を勧めた武将
源仲綱(みなもとのなかつな)……頼政の長男
以仁王(もちひとおう)……後白河法皇(ごしらかわほうおう)の息子

欲しいものは、なりふり構わず手に入れる

平清盛が頂点に昇り詰めた頃。三男の宗盛にこんなことがありました。

源頼政は、長年、平清盛に従順に仕えていました。もう70歳になります。
頼政の長男、仲綱は、評判の名馬の持ち主。

【平家物語の人物紹介】平宗盛 ~ご用心! いい気になると失敗するの画像1

ある時、宗盛が「仲綱の名馬を見たい」と言ってきました。
取り上げられると思った仲綱は「馬は休養中で田舎へ送った」とウソをつきます。
宗盛は、アッサリ、あきらめました。
ところが、平家の侍たちから「その馬なら見ました」という声が聞こえてくるのです。
「俺にうそをついた、憎いやつ!」と宗盛は怒り、「馬を連れてこい!」と、再三再四の要求。

仲綱の父・頼政は、
「たとえ黄金で造った馬であっても、それほど人が欲しがるものを惜しんではならない。その馬を、すぐに平家へ送り届けなさい」
と戒めました。
仲綱は、しかたなく、父の言いつけを守ったのです。

頼政のこの時のオトナ対応は、さすがだなと思いました。
波風を立てないように、長年、清盛に仕えてきた、人間の大きさを感じます。

やらかした宗盛

名馬を手に入れた宗盛が、「こんなによい馬を譲ってくれて、ありがとう」と仲綱に感謝していれば、未来は変わっていたかもしれません。

しかし宗盛は、地位も権力もあり「何でも思い通りになる」と有頂天になっていたのでしょう。
こんなことを命じてしまいました。
「ああ、素晴らしい馬だ。しかし、持ち主が、あまりにも惜しんだのが憎たらしい。持ち主の名を、焼き印にして馬につけよ」
鉄で「仲綱」の文字を作り、赤く熱して、馬の体に焼き付けてしまったのです。無残にも、美しい茶褐色の毛並みが、台無しになってしまいました。

しかも来客に「評判の名馬を見せてください」とこわれると、宗盛は「仲綱めに鞍をおいて引き出せ」などと言って戯れたのでした。

これを伝え聞いた仲綱は、
「権力を笠に着て、大切な馬を取り上げる行為だけでも腹立たしいのに、その馬を使って、仲綱を天下の笑いものにするとは、もうがまんできない」
と、憤慨したのです。

頼政は、これを聞いて、
「どうして平家の人々は、我々を侮り、愚弄するのであろう。このような恥を受けては、命を永らえても意味がない。報復する機会を狙うことにしよう」
と、仲綱に語ったのです。

ささいな出来事が、平家一門を追い詰める

頼政は、息子の名馬までは我慢できても、息子を笑いものにされて、堪忍袋の緒が切れてしまったのでしょう。
頼政は、私的に報復しようとはせず、以仁王に謀反を勧めたのです。
頼政の謀反は、あっという間に鎮圧されましたが、頼政が以仁王に頼んで書いてもらった
「平家を打倒せよ」
という命令書は、各地にひそんでいる源氏へ届けられたのでした。

つまり、宗盛にとっては「仲綱の名馬で戯れた」というささいな出来事でしたが、頼政、仲綱の怒りを買っただけでなく、全国の野原に火をつけてしまったのです。
その火はやがて燃え広がって、大きな火となり、平家一門は都を追われ、壇ノ浦で滅ぼされてしまいました。

怖いですね。
いい気になっている時は、なかなか気がつかない「落とし穴」。
宗盛さんの人生から、勉強させてもらいました。

【平家物語の人物紹介】平宗盛 ~ご用心! いい気になると失敗するの画像2
(イラスト 黒澤葵)


意訳とイラストでよくわかる!
この記事のエピソードは『美しき鐘の声 平家物語(二)』に掲載しています。
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美しき鐘の声 平家物語(二)

美しき鐘の声 平家物語(二)

木村耕一(著) 黒澤葵(イラスト)

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