日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #37

  1. 人生

文豪・夏目漱石が愛読した『方丈記』には、心に響く言葉が、散りばめられていた

歴史の風雪に耐えて読み継がれる古典

生きていると色々なことがあるものだな、と感じるようになりました。
ましてや、世の中がこんなに変わってしまうとは、ほんの半年前までは、夢にも思っていませんでした。

ですが、思いもよらない世の中の変化というのは、今に始まったことではないんですよね。歴史を見れば、激動の時代を生き抜いた、先達たちの記録が刻まれています。

「こんな時代だからこそ、歴史の風雪に耐えて読み継がれてきた古典を読みたくなる」と、新聞などで目にするようになりました。
ずっと読み継がれてきた古典には、どこか、安心感があるのかもしれませんね。
じわじわっと、古典ブームのようです。

文豪・夏目漱石が愛読した『方丈記』には、心に響く言葉が、散りばめられていたの画像1

夏目漱石は『方丈記』を愛読していた

歴史の転換期といえば、みなさんは、どの時代が思い浮かびますか?
日本史の中でも、非常に大きな変化に直面したのが明治時代でした。

明治時代は、政治体制が変わりました。そのため、武士は仕事を失い、新しい生き方が迫られました。
鎖国から、開国へ。
「文明開化」の名のもとに、西洋の価値観が、どーっと入ってきます。
そして日清戦争、日露戦争も勃発します。
まさに、激動の時代だったんですね。

そんな明治時代に活躍した文豪といえば、夏目漱石。『吾輩は猫である』『坊っちゃん』『こころ』など有名です。
実は夏目漱石は、『方丈記』を愛読していたそうです。それは、日本で初めて『方丈記』を英訳するほどの愛読ぶり。
「西洋かぶれ」に熱を上げていた世にあっても、漱石は日本文化の血となり肉となってきた古典の力を大切にしながら、新しい時代にあった文学作品を書いていきました。

文豪・夏目漱石が愛読した『方丈記』には、心に響く言葉が、散りばめられていたの画像2

『草枕』の書き出しは、『方丈記』のアレンジバージョン

小説『草枕』は、こんな書き出しで始まります。

山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

この部分は、『方丈記』の文章を、そのまま漱石がアレンジしたものです。
『方丈記』のその部分を、木村耕一さんに意訳してもらいました。

『方丈記』をわかりやすい意訳で

とかく、この世は、住みにくく、つらいものです。
京都を襲った五つの災害は、全てのものは無常であり、移り変わっていくことを教えています。私たちが、家や財産を得た喜びは、ある日、突然、消滅し、苦しみに変わることが、いくらでもあるのです。
それほどの災難に遭わなくても、一人一人の立場や環境によって、苦しさを感じることは、数え切れないほどあるでしょう。
もし、自分が身分の低い立場でありながら、権力者の隣に住むことになったら、どうでしょうか。
とても気を遣いますので、うれしいことがあっても、大声を出して笑うことができません。非常に悲しいことがあっても、声をあげて泣くこともできません。何をするにも、びくびくと緊張して、恐れている姿は、まるで、タカの巣に近づいたスズメのようです。

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もし、自分がひどい貧乏でありながら、大金持ちの隣に住むことになったら、どうでしょうか。
毎日、みすぼらしい自分の姿を恥ずかしく思いながら、金持ちにお世辞を言ったり、ご機嫌をとったりせざるをえなくなります。
妻や子供が「隣は、いいなあ」と、うらやましがるのを見ると、心が痛みます。金持ちから、見下げられたり、バカにされたりすると、腹が立ってきます。何かあるたびに、心が動揺して、少しも安らかな時はありません。

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もし、町に住むと、生活は便利ですが、住宅が密集しているので、近くで火事が起きると、その災難から逃れることはできません。
もし、町から遠くに住むと、どこへ行くにも往復する苦労が多く、盗賊に襲われる危険も高まります。

では次に、住む場所ではなく、心の内側を見つめてみましょう。
権力や地位を持っている人は、幸せそうですが、人間の欲には限りがないので、どこまで求めても満足できません。
地位も立場もない人は、周囲から軽んぜられ、不満や不安がなくなりません。

大金持ちは、いつ火災や盗難に遭って、財産を失うかもしれないという恐怖心を強く抱いています。
貧しい人は、「何で、自分ばかり」と、不平、不満、他人をねたむ気持ちを強く持っています。

他人を頼り、世話になって生きると、自分が自分のものでなくなります。その人には逆らえないので、自由に生きることができなくなるのです。
逆に、他人の世話をすると、恩愛の情に振り回されるようになります。「こうしてやりたい」「ああしてやりたい」という気持ちが、過剰なまでにわいてきます。相手が、感謝して受け取ってくれないと、「こんなに世話してやっているのに」と、人間関係に苦しむようになります。

世間の慣習や、しきたりを守ろうとすると、とても窮屈で、自由が奪われ、苦しくなります。
しかし、世間の流れに合わせないと、「非常識なやつ」「気が狂ったのではないか」と、つまはじきにされるので、余計に苦しくなります。

いったい、私たちは、どこに住んだら、何をしたら、ほんのしばらくの間だけでも、心を休ませることができるのでしょうか。

(『こころに響く方丈記』より 木村耕一 著 イラスト 黒澤葵)

心に響く一言

木村耕一さん、ありがとうございました。
鎌倉時代に書かれたとは思えないほど、現代の私たちも日々感じている苦しみが、切々と書かれているのに驚きます。
こんな時代だからこそ、いつか読みたかった古典に出合うチャンスかもしれません。

1万年堂出版では、「第2回『意訳で楽しむ古典シリーズ』感想コンテスト 『方丈記』心に響く一言」を実施します。
今回のテーマは、『方丈記』です。『こころに響く方丈記』の中から、あなたの心に響いた一言と、それにまつわるエピソードや思い出を教えてください。

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