人生は、川の流れのようなもの

古典には、ふと口ずさみたくなる文章との出会いがあります。
『方丈記』の書き出しは、学校で暗唱した方も多いのではないでしょうか。

(原文)
 ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人と栖(すみか)と、またかくのごとし。

(意訳)
 さらさらと流れゆく川の水は、絶えることがありません。しかも、よく見てください。新しい水と、常に入れ替わっています。勢いよく変化しています。
 流れが止まっている水面には、ぶくぶくと泡が浮かんできます。しかも、大きな泡も、小さな泡も、生まれたかと思うと、すぐに消えていきます。いつまでも、ふくらんでいる泡なんて、見たことがありません。
 まさに、人の一生も、同じではないでしょうか。
 川の流れのように、幸せも、悲しみも、時とともに過ぎていきます。

 ゆく川の流れが、目に浮かんでくるような文章ですね。

ずっと続くように思うけれど

 川の流れは、遠くから見ると一枚の「布」に見えます。
 そういえば、小学校の学芸会の時に、白い布を、舞台の袖から袖へ、広げて、揺らし、「川」を表現したのを思い出しました。

「川」と「布」との違いは、どこにあるのでしょう。
「川」は、鴨長明が書いているように、新しい水と常に入れ替わって、変化してゆきます。
「布」は、流れることはなく、固定しています。
 この違いに、悲しみを癒やすヒントがあるようです。

 何か悲しいことがあると、「この悲しみが、癒やされることがあるのだろうか」「笑顔になれる日が、戻るとは思えない」と、ずっとその悲しみが続くように感じます。その出口の見えない不安が、余計に、悲しみの底へと沈ませてしまう……。

 そんな「悲しみ」も、実は、ずっと変わらないものではなく、「川の流れのように、時とともに過ぎていきます」と鴨長明は教えてくれました。

 今までの人生を振り返ってみると……。
 悲しみばかりではなく、大学に合格した喜び、好きな人と結婚できた幸せ、マイホームを建てた満足など、いろいろありました。
 しかし、どんな悲しいことでも、どんな嬉しいことでも、時間が経つと、人間は慣れっこになってしまうものです。どんなことも、続かない──。

「悲しいときは、『時間』が『救い』になる」と言われる理由は、ここにあるのかもしれません。

挫折と絶望の一生を振り返って書いた『方丈記』

 鴨長明が、58歳の時に、挫折と絶望の連続だった一生を振り返って書いたのが『方丈記』です。
 御曹司の鴨長明は、わずか7歳で、朝廷から「従五位下」の位階を授けられます。まさに順風満帆のスタート。
 ところが、18歳の時に父が急死すると、人生の歯車が狂い始めます。
 父の死後、親族の間でゴタゴタがあり、長明の前から、将来の地位も、財産もなくなってしまいました。
 さらに、長明が23歳から31歳の間には、大火災、竜巻、遷都、大飢饉、大地震と、住んでいた京都が次々と大災害に襲われます。いずれも、建物が崩壊し、燃え尽き、大地が割れ、伝染病が蔓延するなど、悲惨な現実に直面しました。
 悲しんでいる時に、「大変ですね」「頑張ってください」といくら励まされても、心は晴れなかったと、長明は痛感していたのかもしれません。
 人生をありのままに見つめた『方丈記』には、鴨長明からの応援メッセージが、詰まっているようです。


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