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知っておきたい『方丈記』の雑学!現代語訳と解説をイラストで楽しむ新刊紹介

ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず

よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて久しくとどまりたるためしなし

流れるような名文『方丈記』の、有名な冒頭・書き出しです。

平安末期~鎌倉時代、ほぼ60年間隔で作られたといわれる、『方丈記』『歎異抄』『徒然草』の3つの古典は、名文・美文として名高く、日本を代表する三大古典(古文)と評されています。

長く読み継がれる古典には、いつの時代にも必要なテーマが描かれています。

鴨長明が伝えたかったことは、いったい、何だったのでしょうか。

方丈記の雑学としてもぜひ知っていただきたい内容です。

方丈記

美しい京の都が「まさか!」の大地震に。初めての災害文学

『方丈記』が書かれたのは、鴨長明が58歳の時です。

これまでの人生を振り返って、まず筆を執り書き始めたのが、長明が暮らす京の都を襲った五大災害の記録です。

  • 大火災・・・(長明23歳の時)
  • 竜巻・・・(26歳)
  • 遷都・・・(26歳)
  • 大飢饉・・・(27歳)
  • 大地震・・・(31歳)

中でも地震は、揺れの様子、山崩れ、津波、町の被害、余震の回数まで、被害の状況を詳しくルポし、「恐れの中に恐るべかりけるは、ただ地震なりけり」と書いています。

こういった内容から、方丈記は初めての災害文学ともいわれています。

しかし、あれほど「この世は、無常だ」と思い知らされても、今はどうか…。
時がたつにつれて、「地震があったことさえ、言葉に出して言う人がいなくなってしまった」と、人間の愚かさにも言及していることは、あまり知られていません。

ちょうど7年前に起きた東日本大震災の後、『方丈記』が引用されたり、語られたりすることが増えました。

それは、800年も前に書かれたこの古典が、当時、京都を次々と襲った火災や竜巻、地震などの大災害を、克明に記録しているからでしょう。

美しい都も、あっという間に廃墟になる。一生懸命に働いて建てた家も、跡形もなく崩れていく。

全てが夢と消える世にあって、我々は、どう生きるのか。苦しくても、なぜ生きるのか。

鴨長明は、無常の世の中で、人間にとって本当に大切なことは何かを、『方丈記』の中で問いかけていきます。

手造りの「方丈庵」は、心一つで幸せに生きられる象徴

災害の様子を書き記した後、鴨長明は、挫折を繰り返した自身の生い立ちを語っています。

18歳の時、京都下鴨神社の最高位の神官だった父が急死してから、一気に人生が転落。親族から離縁され、財産も失ってしまったのです。

音楽と和歌に没頭するうち、当代随一の歌人と認められ、新古今和歌集の編纂メンバーにも抜擢されます。しかし、神社のポストが目の前でまたしても奪われてしまうのです。

失意の中、長明は50歳の春に出家し、一丈四方(五畳半)の移動式の家「方丈庵」を造りました。

そこでの自然に囲まれた生活や、尊敬する師・法然上人との出会い、一人琵琶を演奏し、一人歌って楽しむ日々を書いています。

名誉や地位、財産を失ってしまっても、人は「心」一つで幸せに生きていける。いや、もともと名利などというものは、本当の幸せでも、生きる目的でもなかった…と、考えさせてくれます。

夏目漱石『草枕』の有名な言葉は、『方丈記』のアレンジだった!

深いテーマを持つ『方丈記』は、愛読していた文豪や芸術家も多く、次の小説の一節は、よく知られている文章ではないでしょうか。

山路を登りながら、こう考えた。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。

兎角に人の世は住みにくい。

住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

夏目漱石の小説、『草枕』の書き出しです。

漱石は、『方丈記』の、「すべて、世の中のありにくく、わが身と栖みかとの、はかなくあだなるさま、また、かくのごとし」の内容を、このようにアレンジしたといわれます。

夏目漱石と『方丈記』との関係を、『こころに響く方丈記』には、次のように紹介しています。

実は、日本で最初に『方丈記』を英訳したのは夏目漱石でした。

漱石は、親友の正岡子規へ宛てた手紙の中で、『方丈記』の言葉、

「知らず、生まれ死ぬる人、いずかたより来きたりていずかたへか去る。また知らず、仮の宿り、誰た がためにか心をなやまし、何によりてか目をよろこばしむる」

を引用し、「人間とは何か」「心とは何か」が分からず、悩み苦しんでいると告白しています。鴨長明が、『方丈記』で投げかけたテーマに、深く共感していたことが分かります。

『方丈記』には名文がちりばめられています。しかも、近代の文豪が、創作活動の土台にするほど、深い切り口を持った作品なのです。

(木村耕一著 『こころに響く方丈記』より)

松尾芭蕉も『方丈記』を愛読していたことが知られています。

現代ではアニメの巨匠・宮崎駿が、作品の世界観に『方丈記』が大きな影響を与えている、と語っています。

分かりやすい意訳とイラストで楽しめる、『こころに響く方丈記』

著名人に多大な影響を与えた、『方丈記』の根底に流れているものは何でしょうか。

災害や、人生の挫折・絶望という「無常観」を通し、長明が伝えたかったメッセージが、3月に発刊された『こころに響く方丈記』に明らかにされています。

無常を知らされると、どこかへ逃げるのではなく、本当の幸せはどこにあるのか、前向きに探さずにおれなくなります

絶望的な災害や不幸に遭っても、どうか、命を大切にしてください

日本の古典文学屈指の名文と評される『方丈記』は、800年前も今も変わらない無常の世界を描き、私たちに「なぜ生きるのか」を示す書だったのです。

美しいイラストと写真も多く取り入れられ、古典の堅苦しさは感じられません。

巻末に収録された原文には、すべての漢字に読み仮名がふってあります。名文を、音読で味わってみるものいいですね。

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