ディズニー&ピクサー映画の最新作『インサイド・ヘッド2』の公開決定が話題になっています。
主人公の少女ライリーが幸せに暮らせるよう、頭の中のヨロコビ、カナシミ、ムカムカなどの感情たちが奮闘する物語ですが、第2弾ではシンパイ、イイナーなどの新たなキャラクターが加わるそうです。
「心」について詳しく教えられた『歎異抄(たんにしょう)』には、私達を常に煩わせ悩ませるものに108あると説かれています。
代表する3つが「欲」「怒り」「愚痴」の心ですが、キャラクター風に言えば、ホシイ、イカリ、ネタミの心たちと呼べるかもしれません。
これらの心は、私たちを悩ませ苦しませる元凶なのでしょうか。それとも、新作映画のキャッチコピーのように「あなたの宝物になる」のでしょうか?
歎異抄の全体像を例えた入門編の最初「難病人」が抱えている1つ目の難病について、専門家の先生からお聞きしてみましょう。
(編集部より)
第1章「難病人」
歎異抄の全体像の例え話、1番目。
【1】すべての医師から見放された難病人がいました。
この、すべての医師から見放された難病人とは、古今東西の、すべての人を例えられているのです。
親鸞聖人は、「すべての人は2つの難病で苦しんでいる悪人だ」と教えられています。
その2つの難病と言っても、「治らない難病」と、「完治する難病」があることを、詳細に分けて説かれています。
この2つの難病の違いを正確に理解することが、『歎異抄』を正しく知るには極めて大事なことなのです。
治らない難病──欲、怒り、愚痴
まず、すべての人が侵されている治らない難病とは、どんな病か親鸞聖人からお聞きしましょう。
親鸞聖人はそれは、すべての人が生まれた時から侵されている「煩悩」という難病であると教えられています。
煩悩とは、字のとおり、私達を常に煩わせ悩ませるもので、一人ひとりに108あると、仏教で説かれています。大晦日に除夜の鐘を108回つくのも、ここに由来されます。
煩悩という言葉は歎異抄にも、たびたび出ているキーワードです。
108の煩悩の中でも、特に三毒の煩悩と言われるのは「欲」「怒り」「愚痴」の煩悩です。
限りなく広がる「欲の心」
第1の欲とは、無ければ無いで欲しい、有ればあったでモットモットと、限りなく拡散していく煩悩です。
人間には、いろいろな欲があります。
なかでも深くて強いのは、食欲・財欲・色欲・名誉欲・睡眠欲の「五欲」でしょう。
食欲
食欲は、「食べるだけが楽しみ」「仕事帰りの、1杯のために生きている」と寂しく笑う人もあるように、好きなものを食べたい、飲みたいという煩悩です。
一概に食欲と言っても、この食欲で私たちは、どんな言動をするか分かりません。
あまりに凄惨な話で気が引けますが、大戦中、南方の戦線で飢餓に迫られた兵士たちが、戦友を殺して人肉を食らったと聞きます。
同じような状況に追い込まれれば、食欲が私たちを鬼にする、他人ごととは思えぬ恐ろしい欲でもあります。
財欲
次の財欲は、金や物を求める心です。
どうすれば金を増やせるか、損をしないか、安くあげるにはどうすればいいか、つねに計算に必死です。
色欲
3つ目は色欲です。
恋愛はもちろん、不倫や三角関係の色恋沙汰などで、日々渦巻いている愛欲です。
名誉欲
4番目は名誉欲です。
褒められたい、評価されたい、認められたいなどの心です。
睡眠欲
5つ目の睡眠欲は、眠たい、楽がしたいという心です。
食欲や睡眠欲がなくなれば、生きてはいけません。財欲や名誉欲がなくなれば、腑抜けになってしまうでしょう。
だが一方で、自分は欲のために振り回されて、苦しみ悩んでいるのではないか、この欲さえなければ、どんなにか平静に過ごせるだろう……、と思います。
金や地位や家族が有っても苦しみは消えない
約2600年前、インドで活躍し仏教を説かれた釈迦は、欲の実相を「田畑や家が無ければ、それらを求めて苦しみ、有れば管理や維持のために苦しむ。その他一切も、有っても無くても苦しんでいるのは同じである」と、説かれています。
田なければ、また憂いて、田あらんことを欲し、宅なければ、また憂いて、宅あらんことを欲す。
田あれば田を憂え、宅あれば宅を憂う。牛馬・六畜・奴婢・銭財・衣食・什物、また共にこれを憂う。有無同じく然り。
(釈迦)
牛馬・六畜・奴婢・銭財・衣食・什物は、今日、馴染みのない言葉でしょうが、一言で言うと、衣・食・住の財産のことをいわれています。
釈迦が「有無同じく然り」と言われているのは、金や財産、名誉や地位、家族など、無ければ無いで苦しみ、有ればあるで苦しむ。有る人も、無い人も、満たされず、不安や苦しみが絶えないのは、同じであるということです。
それを証明するかのように、「あの人が、どうして?」と思えるような、才能も金も人気もある有名人が自殺するニュースは、あとを絶ちません。
釈迦は、有る者は〝金の鎖〟、無い者は〝鉄の鎖〟に繋がれているとも言われています。
材質が金であろうと鉄であろうと、繋がれて苦しんでいることには、変わりはないのです。
〝無い苦しみなら分かるが、有る苦しみといわれても、どうもなぁ〟と、首を傾げる人もあるでしょう。
しかし、私たちも昔の人と比べれば相当「有る側の人」と言えるのではないでしょうか。
例えば江戸時代までは、殿様が移動する最高の乗り物は籠でした。
車も新幹線も飛行機もある今日と比べると、籠は夏は暑いし冬は寒い。ノロノロと一日中揺られて、移動距離も限られます。
馬を使えば速く行けたでしょうが、籠と同じで暑さや寒さも防げないし、風雨や雪にもさらされます。
今日の私たちは昔の殿様よりも、便利で快適な生活を送っていても、それほどの喜びは感じません。
いくら金や物、利便に恵まれていても、決して満たされない欲があるからと言えましょう。
欲しいものが得られれば、一時は満足できますが、欲は無限ですから、その満足は、やがて不満に変わります。
満たされなければ渇き、満たせば2倍の度を増して渇く。これが欲の実態でしょう。
我利我利は冷酷な人殺しの心
また、欲によって「我利我利」で罪を造ってしまいます。
我利我利とは、我(自分)の利(利益)しか考えず、周りはどうなっていようとも……と、他人に背を向ける非情な心です。
金が欲しい、物が欲しい、褒められたい、認められたい、もっともっと……と、自分の利益ばかりを求める。
限りない欲で他人が邪魔になると、「あいつさえいなければ」「こいつさえ消えてくれたら……」と、冷酷な人殺しの心が噴出します。
自分の欲のためには、親兄弟であれ、恩人であれ、友人であれ、恐ろしいことを思ってしまうのです。
そんな本心を察知されぬよう、必死に隠しています。しかし、欲がもとで、言ってはならない事を言ったり、してはならない事をしたりして、他人に迷惑をかけ、恐ろしい罪を造ります。その結果、苦しんだり後悔することもあるでしょう。
「怒りの心」は、欲を邪魔され現れる
このような欲が妨げられると、出てくるのが怒りの煩悩です。
「あいつのせいで儲け損なった」「こいつのせいで恥かかされた」と、猛然と怒りの炎が燃え上がります。
怒りのために言ってはならないことを言い、傷つけ罪をつくり、悔やみ苦しんでいるのではないでしょうか。
他人の不幸をひそかに喜ぶ「愚痴の心」
次の愚痴の煩悩とは、仏教では、ねたみ、うらみの心をいいます。
「勝るをねたむ」と言われるように、自分より優れた相手の、才能や美貌、金や財産、名誉や地位を決して快く思えない心です。
同期が先に昇進したり、後輩ばかりがちやほやされる。優秀な兄弟ばかりが親から期待されると、面白くない心が出てきます。
また、秘かに他人の不幸を喜ぶ、ゾッとする悪魔のような心も愚痴の煩悩です。
災難に遭って泣き悲しむ人に「お気の毒に」と口では言いながら、内心ニヤリとする心のことです。
「他人の不幸は蜜の味」と言われるように、誰もが醜い愚痴の心をもっているのです。
(『歎異抄ってなんだろう』高森顕徹 監修、高森光晴・大見滋紀 著より)
どの心も、身につまされるものばかりではないでしょうか。
「すべての人は108の煩悩の塊である。時代・人種・年齢によって変わらない。死ぬまで減りもしなければ無くなりもしない」と教えられているのが、『歎異抄』です。
多くの心理学者や哲学者たちが、この名著に深く傾倒したのもうなずけます。
ではなぜ、これらの心が「治らない難病」なのでしょうか。また、「治る難病」とは?
この連載では、続けて「はじめての人でも分かる歎異抄」をお届けしていきたいと思います。
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