Dr.明橋のHSP大全 #22

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「気にしすぎ」は変えられる?HSPの”人間関係疲れ”に効く本【心療内科医・明橋大二】

「人を怒らせることが何よりも怖い……」
「好きな人と一緒にいるときですら疲れる……」
「自分の気持ちより、人からの誘いを優先してしまう……」

人よりも悩みを抱えやすく、すぐに心が疲れてしまうのは、あなたが「ひといちばい敏感な人(HSP)」だからかもしれません。

このたび、明橋大二先生による待望の新刊『HSPのためのハッピーアドバイス』が発刊されました。共感の声が続々と届いた人気連載「HSP大全」を、人間関係をテーマに大幅加筆。

「気質は、学べば学ほど、ストレスは軽くなり、自分にも他人にも寛容になれます。
それだけではありません。つらかった日々の一瞬一瞬が、逆に自分を深く知る、喜びの時間に変わっていきます。」
(本文より)

ひといちばい敏感なHSPが抱えやすい様々な悩みに、専門家からの幸せなアドバイスが詰まった1冊です。

今回は、刊行を記念して明橋先生に本の内容を詳しくインタビューしました。

人間関係で起きる悩みの原因を知り、自分自身をもっと好きになるためのヒントとは?

まずはHSPを正しく理解することが大切

――明橋先生といえば、累計500万部突破の『子育てハッピーアドバイス』シリーズでおなじみです。この度の新刊『HSPのためのハッピーアドバイス』は、“HSPの第一人者による、HSP解説の決定版”ということで、編集部には子育て世代以外からも、待ち望む声が多く届いていました。同じハッピーアドバイスとして、両者に共通しているところはありますか?

明橋大二先生(以下、明橋):HSPの提唱者である、エレイン・N・アーロン氏の考えは、私が『子育てハッピーアドバイス』に書いてきたことと、すごく近いんですね。

悩みに対する具体的な解決策は違っても、子育てで大切なことと、HSPの生き方において大切なことは重なる部分が多いです。

特に「敏感さ」という生まれ持った気質を理解することは、子育てにおいてはもちろん、人間関係や心の健康を考える上で、大きな影響を及ぼすことがわかってきています。

日本でも、様々な分野でこの「敏感さ」に注目する人が増えてきました。

いわゆるHSPブームが起きて、今はたくさんの本が出ています。

ただ、私としては、まず提唱者であるアーロンさんの考えを正確に理解する必要があると思うんですね。

これまでアーロンさんの著作を3冊翻訳してきましたが、今回の本はアーロンさんのメッセージをより多くの人にわかりやすく伝えるため、特に悩みのタネとなりやすい人間関係を切り口にまとめたものです。

――HSPの名付け親であるアーロンさんの言葉を手がかりに、私たちにもわかるよう、明橋先生のやさしい言葉で解説してくださった本なのですね。

明橋:はい。アーロンさんはHSPという概念を生み出しただけでなく、臨床心理学者として非常に優れた人です。

HSPが読むことはもちろん、そうではない人が読むときのことも配慮して、安心できる文章を届けようとしてくださっている。

日本ではHSPという言葉は知っていても、アーロンさんの本を知らない人がまだまだいます。

私自身、アーロンさんの本を初めて読んだときは目が開かれる思いだったので、原点に触れてほしいという思いが強いですね。

 

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――どんなことがあったのでしょうか?

明橋:もう40年近く、私は精神科医としてたくさんの患者さんを診てきました。

その中で、常に考えてきたのは、なぜ心を病んでしまうのか、ということです。色々な意見がありますが、主に、脳が原因だ、親の育て方だ、という二つに分かれます。

脳が原因なら、薬で治そうという考え方が主流になりますし、育てられ方が原因なら、その良し悪しに議論が集中します。その中、私は生まれ持った「気質」に注目したんですね。

――第3のアプローチ方法があったということですね。

明橋:はい。患者さんには、どうも人より感性の鋭い人たちがいる。

彼らは相手の気持ちを察知する力が強く、優しい性格を持ちながら、自分に合わない環境で無理を続けて、調子を崩してしまっている。

しかも、そういう人はたいてい、「私が弱いから」「自分が気にしすぎるせいだ」と、自分を責めておられます。

そんなことに気づいたとき、ようやく出会えたのが、アーロンさんの『The Highly Sensitibe Person(人一倍敏感な人)』という本でした。

生まれつき敏感な気質を持つ人は、環境による影響を受けやすい。まさに私が診察の中で感じていたことそのものだと、強く共感を覚えたのです。

人間関係で起きるすれ違いを解決するヒント

――では早速、新刊のテーマであるHSPの人間関係について詳しくお聞きできればと思います。第1章のタイトルは、「相手も自分も変えられない、だけど関係は変えられる」です。関係を変えるとはどういうことなのでしょうか?

明橋:HSPというのは、人間の多様性を示す1つのキーワードです。

夫婦や家族、恋人や友達、そういう極めて身近な人間関係になるほど、「敏感さ」という気質の違いが大きく影響してきますから、知るのと知らないのとでは、相手への理解が相当変わってくるんじゃないかと思うんですよね。

自分がHSPであってもそうでなくても、円滑な関係を築くヒントになると思います。

――HSPならではの具体例が多いことも、本書の特徴かと思います。例えば、1章には夫婦間のやりとりが取り上げられていました。夫がゲームばかりしていて話を聞いてくれない。夫はゲームをやり出すとつい集中してしまうだけなのに、HSPの妻は「私よりゲームが大事なんだ」と考えて、話したいことも話せなくなってしまう。これには、共感される方も多いのではないかと思いました。

明橋:HSPに限りませんけど、よく起きるすれ違いだと思います。

本にも書いた話ですが、性格には3つの層があります。1番下に、生まれ持った気質、HSPとかHSS(刺激探求型)とか、知性や才能、発達障がいなどがそれに当たります。これは変えられない部分なんです。

そして、その上に環境との関係によって、内向性とか外向性とか、その人特有のキャラクターが形成されていく。さらにその上に乗っかってくるのが、日常の習慣や行動ですね。

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習慣や行動は、意識次第で変えることができます。

HSPは内向的な性格の人が多いですが、信頼できる人と関わっていくことで、少しずつ開放的になれます。個性は変えることができるんですね。

でも、土台となる気質はDNAに規定された生まれ持ったもので、それを変えることはできないんだと。

ここで大事なのは、変えられないからダメという訳ではなく、変えられる部分と変えられない部分があることを知ること。

そして、変えられない部分があるとしても、お互いを知ることで相手を理解できるし、いたずらに腹を立てなくても済むようになるということです。

――変えられるところで努力しよう、ということなんですね。

明橋:だから全部変えられないというのも間違いだし、全部変えられるっていうのも間違いですね。

奥さんからすれば、「愛があれば変われる。変わってくれないのは愛がない証拠だ」なんて思うかもしれないですけど(笑)、どうしても変わらない部分があるわけです。

身近な関係でも、やはり自分と相手では違うところがあるんですよね。

自分を変えるのではなく、自分の価値に気づくための本

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――そこで2章では、変えることができないHSP気質の向き合い方と悩みの対処法を詳しく書いてくださっています。「あなたはあなたのままでいてください」というメッセージに込められた思いとは?

明橋:HSPは5人に1人で、数で言えば少数派です。

ただでさえ自分でもそれを感じているのに、周りからも「気にしすぎ」「神経質」「細かすぎる」と、ネガティブなレッテルを貼られてしまう。

それで余計に「自分はちょっとおかしいのかな」とか、「変なのかな」と思ってなんとか変わろうとする。なのに、どうしても変わることができなくて悩んでいる人が多いです。

だけど、HSPを知ることによって、決してネガティブなことばかりではなく、HSPだからこその長所やメリットもたくさんあるんだとわかる。

これを「リフレーミング」と言いますけどね、そういう自分の欠点だと思っていた特徴が、実は自分の強みでもあったんだと気づいてほしいです。

実際、HSPを知ることで「本当に楽になった」とか「安心しました」といった感想をたくさん聞いてきました。

――この本は「時間はかかっても、持ち前のセンスで最後は正しい選択ができる」「仕事が遅いのではなく、ミスなく堅実に仕事をする」「感情に敏感で落ち込みやすい反面、感情豊かで男女問わず魅力的」など、リフレーミングの言葉であふれています。自分の短所はわかっても、長所は見つけづらいので「まさかこんな考え方ができるなんて!」と、明橋先生の温かい言葉の数々に勇気をいただきました。

明橋:自分を変えるのではなく、自分の価値に気づいてもらいたいですね。気質は変えられなくても、考え方は変えることができるからです。

HSPはその優しさから、人間関係で傷ついたり、しんどい思いをしたりすることが多いと思います。でも、そんなHSPだからこそ、心を許せる人との交流が必要なんですよね。

この本の4章では、それを妨げる「親密さへの8つの恐れ」、6章では「愛着スタイル」について詳しく書いています。

どちらもまだ日本では広く知られていませんが、HSPの人間関係に影響を及ぼす非常に重要な概念なので、少し掘り下げて書きました。

それこそ、これだけで本を1冊書けるくらいの大きなテーマです。これらの章もまた、自分の考え方を変えるための良い練習になると思います。

人間関係で不安や悩みを抱えている人たちに、ぜひ読んでもらいたいなと思いますね。

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