ひといちばい敏感なあなたへ
~明橋大二
新しい1年がスタートしました。
新型コロナによって、私たちの社会の価値観や常識は、大きな転換を余儀なくされました。
「皆が一同に会して同じことをする」ことが困難になった結果、この社会は、より多様性を大切にする時代に向けて、大きく舵を切ったと感じています。
多様な学び、多様な働き方、多様な生き方が認められる社会。
それは、「誰ひとり取り残さない」ことを目指したSDGs(※注)の目標と、ぴったり重なるものでもあると思います。
そんな中で、HSPもまた、その存在を認められ、役割を果たし、ぜひ社会の中で活躍してほしいと願っています。
この連載では、改めてHSPとは何か、基本的な知識から、最新の議論までご紹介したいと思います。
5人に1人のHSP。あなたの周りにも
さて、HSPとは何でしょうか?
あなたはHSPでしょうか?あなたのそばにいる人は?
もしHSPであるとして、そうでない人と何か違いがあるのでしょうか?
HSPとは、もともとはアメリカの心理学者、エレイン・Nアーロン氏が提唱したHighly Sensitive Personのことで、日本語では、「ひといちばい敏感な人」と訳しています。
HSPは、物音や匂い、味、肌触りに対して感覚が敏感なだけではありません。他人の気持ちにも敏感で、物事の受け止め方が深いです。
育ちや環境でHSPになるのではなく、敏感さは、生まれ持った気質です。
HSPは、子ども時代から敏感なところを持っているので、そういう敏感な子どもを「HSC(Highly Sensitive Child)」=「ひといちばい敏感な子」と言います。
男女や人種に関係なく、5人に1人がHSPです。
よく「敏感」とか「繊細」というと、女性的な資質だと思われがちですが、実は男性にも5人に1人の割合でいると言われます。
ただ男性の場合、文化的な背景から、そういう資質を持っていたとしても人前でなかなかそれを表すことができません。
この社会では、「男らしさ」とは、大胆さや勇敢さ、細かいことを気にしないことが理想とされているので、HSPであっても男性は、その敏感さを隠して、強がって生きている部分があるかもしれません。
そのため見かけ上は、HSPと見えないかもしれませんが、実際には女性と同じ比率で、5人に1人いるのです。
またHSPは、持って生まれた特性ですから、本来、病気でも障がいでもありません。
人の気持ちに気づくので気配りができたり、危険や問題を察知できたりするのですが、一方で、人が気にしないところまで気になるので、社会生活や人間関係で疲れてしまうところがあります。
「気にしすぎ」「忍耐力がない」と悩んでいませんか?
もともと私は心療内科医として、ストレスを抱え、心身に不調をきたして相談に来る患者さんを多く診療してきました。
その中に、人の気づかないところに気づく鋭い感性や、人の気持ちを察知する優しい性格を持ちながら、自分に合わない環境の中で無理を続けて、調子を崩してしまう人が少なくないことに気づくようになりました。
そういう人は、たいてい、みんなは我慢できるのに自分だけ我慢できないのは、忍耐力がないからだ、気にしすぎるからだ、と自分を責めておられます。
しかしそうではなく、自分の持って生まれた気質と、環境が合わないためだ、と知れば、新たな解決策が見つかるかもしれません。
そんな気持ちを持ちながら、20年以上、患者さんと向き合ってきた私に、アーロン氏との出会いがありました。
自分がかつて感じてきた、「敏感さ」について研究し、それをHSPと名づけて、社会に提起している人がいる。
この概念を、私の患者さんにも知ってもらえたら、気持ちが楽になり、自分を肯定的に捉えることができるようになるかもしれない。
そう思って、診察の中で、HSPやHSCについて伝えるようになると、患者さんたちから大きな反響がありました。
きっとこのことで悩んでいる人は、日本にもたくさんいる。しかしまだ日本では、驚くほどこの概念が知られていない。
そこでアーロンさんの原著を翻訳して、多くの人に読んでもらいたいと思い立ち、まずは当時、日本で一冊も出ていなかった、HSCの子育て本「The Highly Sensitive Child(ザ・ハイリー・センシティブ・チャイルド)」を翻訳出版することになりました。
さらに、一度翻訳出版されたものの絶版になっていた、「The Highly Sensitive Person in love(ザ・ハイリー・センシティブ・パーソン・イン・ラブ)」の翻訳も手がけることになり、昨年9月に出版することができました。
HSPについて、まず正しく知りましょう
そうしている間に、ここ数年で、HSP、HSCについても随分広く知られるようになり、やはり多くの人がこの知見を待っていたのだと実感しました。
最近では、テレビでもよく取り上げられるようになり、ネット上での情報も格段に増えました。
それは有り難いことではあるのですが、同時に私は、まずはこの概念の提唱者である、アーロン氏の考えを正確に理解して、そのうえで、ぜひ多くの人に伝えてもらいたいと思っています。
次回から、アーロン氏の原著をもとに、HSPについて解説してゆきたいと思います。
(注)SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。世界で起きている問題は、世界で力を合わせて解決していこうと、2015年9月の国連サミット(加盟国193カ国)で採択されたもの。質の高い教育、働きがいのある社会、環境保全、差別と貧困のない世界など、17の目標を掲げ、2030年までの達成を目指している。