日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #188

  1. 人生

70歳以上の者は、皆で、心からいたわること〜上杉鷹山が教えた敬老の精神

週明けの月曜日は「敬老の日」
忙しい、忙しいで、目の前のことに追われて、過ぎ去ってゆく日々。
「敬老の日」を前に、ふと立ち止まってみました。

思えば、この祖父母、両親がいなければ、今の私はなかったな……と。
祖父母や両親のおかげで今があることに感謝です。

今回は、敬老の精神を教えて、自ら実践した上杉鷹山(うえすぎようざん)のエピソードを木村耕一さんにお聞きしました。

70歳以上の者は、皆で、心からいたわること〜上杉鷹山が教えた敬老の精神

──木村さん、上杉鷹山とはどんな人でしょうか。

はい、上杉謙信(うえすぎけんしん)ゆかりの名門「上杉家」は、徳川家康によって米沢(よねざわ。現在の山形県米沢市)へ移されました。かつての栄光も次第に薄らぎ、江戸時代中期には、破産寸前に追い込まれたのです。
この危機を救ったのが、17歳で藩主になった上杉鷹山でした。

──17歳で藩主になり、財政を立て直すのは、すごいですね。若いのに、敬老の精神を大切にしたのも立派だと思いました。

はい。しかも当時の社会は、敬老の精神に乏しかったようです。
「老人は、家は貧乏なのに働きもせず、食糧を食いつぶすだけ。生きていて、何の意味があるのか」と。こういう発想から、江戸時代には「姥捨山(うばすてやま)」の風習が生まれた地域さえあるのです。

しかし、上杉鷹山は反対でした。どんなに経済的に厳しくとも、老人を大切にする政策を打ち出しています。

──どんな政策でしょうか。

安永6年(1777)、鷹山は、藩士の家族の中で、90歳以上の老人を城に招いて懇親会を設けています。

老人は、今こそ腰が曲がり、歩くこともままならず、家族に迷惑をかけているかもしれません。
しかし、この親がなければ、子供が育たなかったのです。孫も生まれていません。いかなる貧苦にも耐えて、働いてきてくれたからこそ、現在の家庭もあり、国家も築かれてきたのです。その恩を思うと、ねぎらわずにおれません。

鷹山は、優しく言葉をかけ、服や金子を贈りました。

──なんて温かいのでしょうか。

また広間で行われた会食の席には、子や孫を2、3人ずつ付き添わせました。

付き添いの家族に、鷹山は、
「今日は無礼講だ。おまえたちの両親や祖父母をいたわり、心を込めて食事の世話をして、楽しく過ごしなさい」
と言ったので、仲むつまじい笑い声が絶えませんでした。

70歳以上の者は、皆で、心からいたわること〜上杉鷹山が教えた敬老の精神の画像1

この宴に参加した人や、後で伝え聞いた人々は、皆、今までの行いを反省し、「もっと年寄りを大事にし、親の恩に報いるように心掛けていこう」と強く知らされたといいます。

──みんなで会食をすることで、気持ちが伝わりますね。

鷹山は、町民、農民に対しても、同じように接しました。
90歳以上の老人を代官所へ招いて「養老米」を贈り、会食をしました。
以後、毎年元日に、90歳以上の老人には、服や米が、祝いとして贈られることになったのです。

70歳以上の者は、皆で、心からいたわること〜上杉鷹山が教えた敬老の精神の画像2

──現在は、敬老祝金を贈る自治体もあるそうですが、鷹山は江戸時代からすでに行っていたのですね。

また、鷹山は、領内の村々に、次のような通達を出しています。

「年老いた者には、気を遣い、力を尽くして大切に接するべきである。
 70歳以上の者には、村の者が、皆で協力して、よくいたわるようにせよ。
 90歳以上の者には、また格別の心遣いをせよ」

──鷹山は、言うだけでなく、自ら実践していたと聞きますが。

はい鷹山は、赤湯温泉(現在の山形県南陽市)へ向かった時、近くの村に95歳の老人が住んでいると聞いたので、早速訪ねて労をねぎらい、祝い酒と扇子を贈ったのでした。
農民にとっては、非常な驚きです。
殿様が、敬老の精神で慰問に来るなど、まさに「格別の心遣い」でした。

70歳以上の者は、皆で、心からいたわること〜上杉鷹山が教えた敬老の精神の画像3

このような配慮を見たり、聞いたりするうちに、親の恩を思い、年寄りを気遣うことの大切さが、少しずつ浸透していきました。

──改めて、鷹山が敬老の精神を大切にしたのは、どうしてなのでしょうか。

はい。「老人」といっても、最初から年寄りだったわけではありません。
子供笑うな来た道じゃ。年寄り笑うな行く道じゃ」といわれるように、自分の未来の姿です。
親に育ててもらった恩を忘れ、会話もなく、冷たく接していたならば、自分が年老いた時に、同じ報いを受けても文句は言えません。それを、昔から因果応報(いんがおうほう)と言われます。

経済的に厳しい時に、心まで貧しくなったのでは、やること、なすこと、暗いほうへばかり傾いてしまいます。

鷹山は、目前の損得にとらわれず、まず、人間としてのまっすぐな生き方を示しました。そこには後ろめたさがないから、心が明るく、豊かになり、自信を持って進むことができるでしょう。深刻な財政危機を乗り越えた原動力は、まさに、ここにあったといえると思います。

(『人生の先達に学ぶ まっすぐな生き方』木村耕一著、『マンガ 歴史人物に学ぶ 大人になるまでに身につけたい大切な心3』まんが:太田寿 原作・監修:木村耕一 より))

敬老の日におすすめ

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今回ご紹介したエピソードは、『人生の先達に学ぶ まっすぐな生き方』に掲載しています。詳しくはこちらから。

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