NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第27回は、「鎌倉殿と十三人」でした。
源頼朝(みなもとのよりとも)の亡き後、若き頼家(よりいえ)が跡を継ぎますが、御家人たちの派閥争いでドロドロに……。そこで行き着いたのが有力御家人たちの合議制。始めは5人でしたが、だんだん膨れて13人に……。
なるほど、このドラマのタイトルの意味が分かりました! これからの展開が楽しみです。

ドラマを見ていると、生き残るためのだまし合いにハラハラどきどきします。
何を信じたらよいのか……、源頼朝も、亡くなる前は、誰も信じられなくなっていた姿が描かれていました。

今回は、うそ偽りに染まった世界を「天女の涙」で描く、世阿弥(ぜあみ)の能『羽衣(はごろも)』をご紹介しましょう。
木村耕一さんの意訳でどうぞ。

世阿弥の『羽衣』

ここは、駿河国(するがのくに)、三保(みほ)の松原。
波が静かに打ち寄せる浜辺に、緑の松林が続いている。

すがすがしい朝日を浴びて、地元の漁師、白竜(はくりゅう)が砂浜を歩いていた。

すると、どこからともなく、よい香りが漂ってきた。
松の枝に、美しい衣が、掛けられているではないか。

「おお、これは素晴らしい」

手にとって、持ち帰ろうとすると、木の陰から一人の女性が現れた。

「待ってください。それは私の衣です」

「何を言うか。拾った俺の物さ。家の宝にするんだ」

「それは、天人の羽衣です。人間には必要のない物です。お返しください」

「ほう、そんな珍しい物ならば、なおさら返すことはできないよ」

「なんて悲しいことを言われるのですか。羽衣がなければ、私は、空を飛べません。天上界(てんじょうかい)に帰ることもできないのです。どうか、お願いですから、返してください」

「いやだ!」白竜は突っぱねた。

天女は泣くばかりである。

しかし、悲しみに打ち震える姿が、あまりにも痛ましく、白竜は、次第に、かわいそうになってきた。

「では、天人の舞を見せてくれれば、衣を返してやってもいいが、どうだ」

「たやすいことです。舞をお見せしましょう。そのためには、まず、衣を返していただかないと……」

「まてまて、この衣を返したら、舞を見せずに、そのまま天に昇ってしまうつもりだろう」

天女は、静かに答えた。

「いいえ、疑いは人間界にしかありません。私たちの天上界には、うそ偽りというものはないのです」

「おお、これは恥ずかしい……」

白竜から羽衣を受け取った天女は、美しい曲を奏でながら、舞を披露し、歌いながら、天へ帰っていくのであった。

(『新装版 こころの朝 〜自分らしく自分の夢を持って生きれば、道は開けてゆく』木村耕一(編著)より)

人間とは

木村耕一さん、ありがとうございました。

「うそ偽りは、人間界にしかないのですよ」と優しく語りかける天女の言葉に、ドキッとしました。
私も白竜と同じだなと、恥ずかしくなりました。人間とはどんなものか、を考えさせられます。

世阿弥の能『羽衣』には、深いメッセージが込められているのですね。

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