カフェで楽しむ源氏物語-Genji Monogatari #34

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源氏物語(34)溺愛してきた娘の末路~女三の宮と父・朱雀院【柏木の巻】

こんにちは。国語教師の常田です。
みんな幸せを求めて生きています。精一杯考えて行動するのですが、めいめいが泥沼に沈んでいく…人生には、そんなことがあるのですね。

平穏な日はもう戻らない

一晩中陣痛で苦しみ、明け方に出産した女三の宮は、心身ともに消耗し、薬湯を飲むことすらできません。
この先も苦しむだけならば、いっそこのまま死んでしまいたい、と思い詰めます。

思えば、これまでの彼女は、与えられるものを受け入れていればいい、恵まれた生活でした。

帝の愛娘として何不自由なく育ち、父の意向に従って光源氏の正妻となった時も、周囲が目をみはる盛大な儀式で六条院に迎えられました。

初めこそ永年連れ添う紫の上の部屋にいる時間の長かった源氏も、やがて女三の宮の元にも多く通ってくるようになりました。
源氏から熱心に琴を伝授してもらったのも、この頃のことです。

そんな平穏な日々は、しかし、愛欲に狂う柏木にぶち壊されたのです。

何も考えず、他人の言うままに生きることしか知らないお嬢様は、強引に迫り来る男を拒絶できず、恐怖と嫌悪で汗びっしょりになりながら、途方に暮れるばかりでした。

こうして不義の子が生まれた今、当然というべきか、夫の源氏は赤子をあやそうともしません。

いぶかる侍女の言葉を聞けば、女三の宮は一層つらくなります。

さらに、源氏は誰かがそばにいる時はたいそう優しく接してくれても、2人きりになると打って変わって非情な態度になるのです。

“こんな仕打ちがひどくなっていくなら…”

数日後、見舞いに訪れた父・朱雀院に、女三の宮は泣いて出家を懇願します。

受け身で生きてきた彼女が、初めて自分の人生と向き合い、自ら下した決断でありました。

こんな結果になろうとは

この女三の宮の出家の決意は、娘を守りたい一心から源氏と結婚させた父・朱雀院には、皮肉な結果となりました。

かつて朱雀院が真剣に仏門を志した時、唯一の気がかりが女三の宮でした。
最も愛情を注いできた、おっとりした頼りない娘です。

「自分が出家したら、くだらぬ男が言い寄ってきて、みじめな身にならぬとも限らない。今のうちに立派な婿を持たせたい」と身分・家柄・経済力など熟慮を重ねて選んだのが光源氏だったのです。

これが、図らずも愛娘を人生の荒波に投げ込むこととなりました。

期待したほど源氏は娘を大事にしてくれず、しかも、朱雀院は知りませんが、結局は”くだらぬ男”にみじめな思いをさせられました。

親心が裏目に出て、最後は自らの手で、出家させねばならなくなったのです。

 

女三の宮が出家してまもなく、柏木死去の知らせが届きました。
嫌悪しかない相手とはいえ、彼女の胸にも込み上げる何かがあったことでしょう。

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朱雀院:朱雀帝が譲位して朱雀院と呼ばれる
六条院:光源氏や女三の宮が暮らす大邸宅
琴(きん):弦楽器の一種

朱雀院と光源氏、どっちが勝ち組?

光源氏と朱雀院は、母親違いの兄弟です。
気弱で優柔不断な兄・朱雀院は、幼い頃から何事も弟・源氏に負けてばかりでした。

妃候補の女性たちも、次々と源氏に取られてしまいます。
帝になっても頭を抱えることばかり。
挙げ句の果てには、娘・女三の宮の結婚でも苦汁を味わうことになります。

一方で源氏自身も、兄の懇願を断れずに女三の宮を正妻に迎えたことで、最愛の紫の上との仲に亀裂が生じ、栄華の絶頂にありながら、自身は苦悩の波間に沈んでいきます。

朱雀院は、自らの行為が自らの運命を作り出してきたのではないか、と内省します。
光源氏は、女三の宮の出家も、その後、突如襲う災難も物の怪のせいだと受け止め、なお苦しみます。

人としての成長を考えると、どちらが勝ったとか負けたといえない、微妙な兄弟ですね。