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【産後うつ】マタニティブルーとの違いは?大切なのは貧血対策ー精神科医のアドバイス(2)

妊娠・出産は、母親にとって、献血をするどころではないほどの大きな負担がかかります。
まさに身を削っておなかの中の赤ちゃんを育てます。

今回は、それが母親の心身にどう影響してくるのか、考えてみたいと思います。

前回の記事はこちら

マタニティブルーと産後うつの違いは?

産後うつは10人に1人が経験するといわれ、決して珍しい病気ではありません。

妊娠や出産を機に、ホルモンバランスは大きく変わりますので、ある程度の気持ちの浮き沈みは起こります(マタニティブルー)。
それが一時的なものであれば、「マタニティブルーだったのかな」で済みますが、その不安定な心の状態が続いたり、程度が大きい場合は、「妊娠うつ」「産後うつ」かもしれません。

そこまでいかなくとも、出産後はイライラしたり、気分が落ち込んだり、かわいいはずの子どもがかわいく思えなくなってきたりと、どうしても不安定になりがちです。

心に余裕がなくなってくる理由はいろいろあると思いますが、その一つとして、「体にも余裕がなくなっている」ことも忘れてはならない視点だと思います。

妊娠すると、なぜ貧血になるの?

妊娠するということは、自分の体の中に「もう一人分の栄養」が必要になるということです。

小さな赤ちゃんとはいえ、成長するために必要な栄養を、血液を通して送ることになります。
そのため、お母さんの体は、血液を少し薄めてでも血液量を増やそうとします。
「妊娠水血症」なんて言葉があるほどです。
血液が薄まるために、相対的に貧血になりやすくなるんですね

血液成分の一つ、赤血球の材料に「鉄」があります。
血液を増やすため、この鉄分需要が大きく増加します。
そのため、あらかじめ鉄分をじゅうぶんに蓄えておくことは、妊娠・出産後のためにとても重要です。

そして、産後うつをはじめとした精神面に影響を与える栄養素の代表が、この「鉄」です。

数字で見る日本人女性の鉄不足

以前、「隠れ貧血」の記事でも書きましたが、日本人女性の5人に1人が隠れ貧血(貧血ではないけど、鉄分が足りていない状態)だといわれています。

日本人女性のフェリチン
15ng/ml未満 約20%
25ng/ml未満 約60%

詳しくはこちら

一方、さまざまな研究で、フェリチンは50ng/ml以上が推奨されています。
妊娠によって、母体の血液量が増え、胎盤や臍帯血のために使われ、赤ちゃんの成長に必要不可欠な鉄分の需要は、妊娠前の2、3倍に増えるといわれるからです。

妊娠時に推奨されるフェリチン:50ng/ml以上
アメリカやデンマークの場合 :70ng/ml以上
(70ng/ml以下の妊婦には鉄剤が処方される)

海外に比べて、貧血対策が遅れているといわれる日本では、じゅうぶんな貧血対策がなされないまま、妊娠出産する方が少なくないのが現状です。

産後うつ予防に鉄分が重要視される理由

鉄分が重要視される理由の一つとして、産後うつと鉄不足の関連が指摘されているからです。
鉄不足があると産後うつのリスクが上がり、鉄を補充するとうつ状態がやわらぐという海外の研究がいくつもあります。

令和元年4月、日本でも、国立成育医療研究センターから、「貧血があると産後うつのリスクが約6割も増える」という調査結果が発表されました。

また、鉄剤を補給することで、お母さんの貧血が軽減されることだけでなく、低出生体重児のリスクが低下するというデータもあります。

鉄分は、胎児の脳の発達にも重要であるとされます。
鉄欠乏対策は、してもし過ぎることはありません。

鉄分の補給は、食事とサプリで

では、鉄欠乏対策は、具体的にどうすればいいのでしょうか。

  1. 高たんぱく(+低炭水化物)
  2. 鉄剤(キレート鉄)

鉄不足対策としては、基本は食生活を見直すことだと思います。
鉄分を食事で補うためには、肉や魚、卵などのたんぱく質を多めに食べることです。

お米やパン、パスタなどの炭水化物よりも、たんぱく質のほうが、貧血対策には大切です。
とはいえ、料理をするのも大変な時期ですよね。
その場合は、ゆで卵や魚の缶詰など、ひと手間でできることから始めてみてはいかがでしょうか。

そのうえで、妊娠、産後はサプリなどの鉄剤を使うことも、ためらわないほうがいいと思っています。

鉄サプリはいろいろなものがありますが、ヘム鉄」よりも「キレート鉄」というタイプのほうが、吸収がよく、便秘もしにくいといわれています。

なお、食事でもサプリでも、鉄分はビタミンCと一緒に取ることで吸収率が上がるため、レモンやビタミンCサプリも一緒に取るといいでしょう。

まとめ

「医食同源」。
特に薬が使いにくい妊娠・授乳期は、食事やサプリで対応できることがあるというのは心強いですよね。
当たり前ですが、私たちの体は「食べたもの」でできています。体に余裕ができれば、気持ちも少し余裕が出てくるかもしれません。

疲れていたり、イライラや不安などの気持ちが落ち着かないときこそ、食べる物を少し意識して、変えてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
・奥平智之著 『マンガでわかるココロの不調回復 食べてうつぬけ』 主婦の友社、2017
・奥平智之、栄養精神医学 第3回 妊娠・出産における鉄欠乏を見逃すな!『精神看護』第21巻第4号、2018
・Haider BA, et al: Anemia, prenatal iron use and risk of adverse pregnancy outcomes: systematic review and meta-analysis. BMJ, 346, 3443,2013
・毎日新聞「産後うつ、貧血だとリスク6割増」2019年4月17日https://mainichi.jp/articles/20190416/k00/00m/040/146000c
・藤川徳美著 『薬に頼らずうつを治す方法』アチーブメント出版、2019