カフェで楽しむ源氏物語-Genji Monogatari #26

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源氏物語(26)シンデレラストーリーのはずが…玉鬘の運命は【螢の巻・篝火の巻・真木柱の巻】

こんにちは。国語教師の常田です。
当時の貴族男性にとって、「女性のように美しい」と言われるのは誉め言葉で嬉しいことでした。男女ともに雅(みやび)の体現が求められていたのですね。
そんな社会で、野暮ったい髭面男は、恋に勝利できるのでしょうか?

蛍の宮

若く美しい玉鬘(たまかずら)はたちまち評判となり、貴公子たちの間では、彼女の話で持ちきりです。
六条院の夏の町で、源氏の妻の一人・花散里に養われている玉鬘の元には、たくさんの恋文が届きます。
特に熱心なのは、螢の宮、柏木、髭黒大将(ひげぐろのたいしょう)の3人でした。

優美な螢の宮は、源氏の異母弟で、数年前に正妻を亡くして以来、寂しい思いをしています。

柏木は、頭中将の長男で、生真面目な性格です。実の姉と知る由もなく、気を引こうと懸命です。

30過ぎの髭黒大将は、源氏、頭中将に次ぐ将来有望の実力者ですが、髭もじゃで武骨、一途になると周りが見えなくなるタイプでした。

田舎育ちで男性との付き合いの経験がない玉鬘は戸惑うばかりですが、ふと螢の宮に心動かされます。
それを見て取った源氏は、一計を案じました。

まず、玉鬘が螢の宮を慕っている、とほのめかす手紙を侍女に代筆させました。

胸をときめかせた螢の宮は、五月雨の夜、源氏が隠れているとも知らずに玉鬘の部屋にやってきます。

暗い部屋に几帳(※)を隔てて座る2人。
漂う芳しい香りが彼女の美しさを思わせます。

螢の宮は真剣に想いを訴えますが、玉鬘はうまく答えられません。

今がチャンス!とばかりに源氏は几帳をめくり上げ、隠し持っていた蛍をさっと放ちました。

蛍の光が辺りに満ち、玉鬘は神秘的に輝きます。

驚いた玉鬘がすぐに扇で顔を隠したものの、一瞬の横顔を、螢の宮は見逃しませんでした。
もうすっかり彼女のトリコとなり、さらに情熱一杯、自らを蛍に重ねて恋心を訴えます。

しかし戸惑う玉鬘からのすげない返事に、彼は肩を落として帰っていったのでした。

養父からも…

他人の恋心をもてあそんで楽しむとは、源氏も困った人ですが、これは他の男に取られたくない本心の裏返しですよね。
本当は源氏自身が、夕顔の面影の残る玉鬘を、わが物にしたくてたまらないのです。

季節は移ろい、初秋のある夜、琴を教わっていた玉鬘は、源氏から恋心を訴えられました。

篝火(かがりび)に たちそう恋の 煙こそ 世には絶えせぬ ほのおなりけれ
(篝火とともに燃える私の恋は、決して絶えることのない炎ですよ)

玉鬘はむげに断って怒らせるわけにもいかず、

行方なき 空に消ちてよ 篝火の たよりにたぐう 煙とならば
(あなた様の心は、篝火と一緒に昇る煙なのですね。ならばどうぞ、行方も知れぬ空へ消してしまってくださいまし)

とうまく退けます。
源氏からの告白は、これが初めてではありません。
以前にも突然手を握られ、関係を迫られたことがありました。

“実の父親なら、こんな仕打ちもなかろうに…”とため息をつく玉鬘でありました。

熊本の豪族、都の貴公子たち、そして養父にまで次々と言い寄られ…、なかなかの気苦労でしょう。

思うままにならぬが人生

さて、求婚者たちの駆け引きはますます白熱していきます。
中でも髭黒の熱意が際立っていましたが、玉鬘は、「あの色黒で髭もじゃの容貌だけはとても受け入れられない…」と思っていました。

ところが、なんとその髭黒が、実父と分かった頭中将の了解をひそかに得て侍女を丸め込み、玉鬘の寝所に押しかけ、思いを遂げてしまったのです。

皮肉にも、髭黒と結婚せざるをえなくなった玉鬘は、絶望に打ちのめされました。

“なぜ、よりによってこんな醜く無神経な人の妻に…”

心労のため、やつれ切ってしまいます。

美しい源氏や螢の宮を思い出し、思うままにならぬ人生を嘆いたのでした。

※几帳:T字の柱に薄絹を垂らした間仕切り

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