カフェで楽しむ源氏物語-Genji Monogatari #17

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源氏物語⑰藤壺の試練【桐壺の巻、若紫の巻、紅葉賀の巻、賢木の巻】

こんにちは。国語教師の常田です。
太陽に例えられる女性といえばアマテラスや、中国の歴史書に紹介される卑弥呼を思い出します。源氏の継母・藤壺も、そんなイメージをまとう女性でした。ではその心の中は、どのようなものだったでしょう。

太陽と月

今回は、光源氏が「世にまたさばかりのたぐいありなんや」(世間にあれほどの素晴らしい女性があるだろうか)と生涯恋慕し続けた、5歳年上の継母・藤壺(ふじつぼ)の話をします。

桐壺帝が寵愛していた源氏の亡き母に瓜二つであったため、親子ほど年の離れた帝に、妃として迎えられました。

美貌、家柄、教養、地位、人望と誰よりも恵まれましたが、その生涯は”最高に幸せ”だったのでしょうか。

光源氏の継母・藤壺と光源氏は、太陽と月になぞらえられました。
(昔、月の出ていない闇夜は、恐ろしく不気味なもので、夜に光をもたらす月は有り難く、神秘的な存在でした)

源氏物語の最初の巻【桐壺巻】には、こう語られています。

なおにおわしさはたとえん方なく、うつくしげなるを、世の人光る君と聞こゆ。藤壺ならびたまいて、御おぼえもとりどりなれば、かかやく日の宮と聞こゆ。

(光源氏の美しさは例えようもなく、愛らしい姿を世の人々は”光る君”と呼ぶ。藤壺も、源氏と並んで帝の寵愛ぶりもそれぞれ優劣がないので、人々は”輝く日の宮”と呼んだ)

ところが藤壺には早々に大きな試練が待ち受けていました。
それは、最古参の妃・弘徽殿(こきでん)の存在です。

弘徽殿は光源氏の母をいじめ抜いて死に追いやった張本人で、藤壺の入内も快く思っていません。
しかし、先帝の娘という高い身分の藤壺には、直接嫌がらせもできず、憎み切っていました。

もう一つ、藤壺の悩みの種は、義理の息子・光源氏からの横恋慕です。

手の届かぬ藤壺への恋心をつのらせ、常に逢瀬の機会をうかがっていた源氏は、病気で里帰りしていた藤壺の部屋へ強引に忍び込んできたのです。

プライド

その密会から間もなく、藤壺は懐妊しました。
桐壺帝から愛情のこもった見舞いが届くたびに、罪悪感で、胸のつぶれる思いをしました。

一方では光源氏を憎み切れないわが心にも苦しめられ…。

出産は周囲の予想より2カ月も遅れました。
事実の発覚を恐れて、心身ともに追い詰められた藤壺。息も絶え絶えに、「このまま死のう」と一度は思います。

しかし、「もし私がこのまま死んだら、きっと弘徽殿が物笑いの種にする。…やはり、まだ死ねない!」

心を決めると、たちまち彼女の生命力はよみがえり、無事に男子を出産したのでした。

同じ年、藤壺は妃のトップ「中宮(皇后)」になりました。
これには弘徽殿、憤まんやるかたなし、です。

本来ならば東宮を生んだ弘徽殿が選ばれてしかるべきところ、それを飛び越えて藤壺が中宮になるのは、異例中の異例だからです。

一口に帝の妃といっても、「中宮」「女御」「更衣」の3つに分かれていました。

トップの中宮は1人で、男子を生んだ女御から選ばれます。
帝に対して大きな発言力を持ち、権威も他の妃の比ではありませんでした。

桐壺帝がそんな高い地位をあえて藤壺に与えたのは、後ろ楯の少ない藤壺の子の将来を考えてのことでした。

孤独な戦い

しかし桐壺帝が退位して、弘徽殿の生んだ東宮が帝になり、桐壺院が亡くなると、いよいよ藤壺母子に対する圧力は日に日に強まっていきました。

藤壺が頼りにできるのは、息子の後見人である光源氏ただ1人でした。
ところが困ったことに、その源氏がまたしても藤壺のもとへ強引に忍び込み、恋情を訴えてきたのです。

力づくで思いを遂げようと、彼女の衣を引っ張り、両手で髪をつかんで、無理やり抱き寄せようとする…。

“今スキャンダルを起こせば、息子の身が危ない!”

わが子を守りたい一心で、藤壺は辛くも振り切ったのでした。
しかし、心細く複雑な状況は変わりません。

源氏にあまり冷たくしすぎて恨みを買えば、息子の後ろ楯がいなくなる。さりとて源氏との仲を疑われる言動は避けなければなりません。
隙あらば藤壺母子を追い落とそう、と弘徽殿が虎視眈々と狙っているのですから。

地位や教養、美貌がある人はある人で、さまざまな悩み・苦しみが絶えないのですね。

果たして、この難局を藤壺はどう切り抜けるでしょうか。

 

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