心に寄り添う認知症ケア #6

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徘徊が起きる理由とは?「困っている」のは当の本人であることを理解しましょう

認知症の困った症状の代表の一つに徘徊があります。

「よく分からないけど、外に出ていってしまう」
「突然いなくなってしまった」
「家にいるのに、『帰る』と言って出ていく」

など、徘徊は「なぜそんなことをするのかが分からない」症状の代表格です。そして家族や介護をする人には、大きな負担になりやすい症状でもあります。

徘徊が起きる理由とは何か、認知症の人は何を想って出ていくのか。「困った人ではなく、困っている人」を合言葉に、その心をたずねてみます。

徘徊理解のキーワードは「見当識障害」

徘徊を理解する上でのキーワードは「見当識障害」です。

見当識障害とは「『時間・場所・人』が分からなくなる(見当がつかなくなる)」ことをいいます。

記憶力や状況を認識する力、判断力などの低下による障害であり、自分が「今、どこに、誰と」いるのかが分からなくなりやすいということです

「今、どこに、誰と」いるのか分からないのは、想像するだけでも恐いことだと思います。

認知症の人はそんな不安を抱えて生きていることが分かってくると、さまざまな症状がなぜ生じるのかも理解しやすくなります。一口に「徘徊」といっても、その原因は様々な不安によるのです。

見当識障害による徘徊① 場所がわからなくなる

徘徊でよくある原因として、今いる場所が分からなくなるために、散歩や買い物などから帰れなくなってしまうことがあります。

誰にでも、少し見慣れない場所や、歩きなれた道でも薄暗くなり目印が見えなくなって、帰り道が分からなくなった経験があると思いますが、認知症の人は特にそうなりやすいということです。

これは「徘徊」というよりも、「迷子」という表現の方が近いかもしれません。

近所や地域の人に協力をお願いして、声をかけてもらうことや、GPS機能を利用したサービスもあります。

歩くこと自体はいい運動でもあり、脳にもよい刺激となります。とはいえ、本人の自由を尊重することも大切ですが、家族としては心配も大きいため、何が最善かは難しいところです。

ご本人の症状の程度や体力、家族や地域のサポート体制など、なるべく皆が納得できる形をその都度話し合っていくことが大切かと思います

見当識障害による徘徊② ここではないどこか(過去)へ旅している

家にいるのに「家に帰る」と言って出ていくこともあります。家族は驚きますが、これも珍しいことではありません。これはどういうことなのでしょうか。

認知症は、新しい記憶から失われ、古い記憶は比較的残りやすいといわれます

そう考えると、「家に帰る」という「家」は、今住んでいる家ではなく、古い記憶の中の家なのかもしれません。子育てに奮闘していた時代の家、新婚当初の家、嫁ぐ前の実家なのかもしれません。今いる場所がその「家」ではないために、そこに「帰ろう」とするのです

どこへ「帰る」かは、「その人らしさ」に関係しているのでしょう。自分が一番輝いていたとき、楽しかった時、自信をもてていた時など、思い出話でよく話すときがそうなのかもしれません。

そのためか、女性が「帰る」先は故郷が多く、男性が「行く」先は職場が多いようです。

徘徊の根底にある“居場所がない孤独感”

そのほかにも、徘徊は注意すべきサインであることもあります。

それは本人が「いつも叱られている」と感じている時です。周囲の人は叱っているつもりは全然なくても、当人がそう感じていることがあります

見当識障害(今、どこに、誰といるのかが分からない)のために、認知症の人は不安で、周りにどうみられているかをいつも以上に気にします。
そのため余計に、できなくなったことを指摘された、失敗を注意された、話しかけてもらうことが減った、などと周囲との関係を否定的に受け止めやすい状態になります

そして懸命に平静を装い、困った人だと思われないように試行錯誤し、時に誤魔化そうとします。それが周囲には「取り繕い」と見えることがあります。これも、認知症の特徴の一つです。

自己肯定感が低くなることの副作用でもあり、悪循環に陥りやすいのです

それをある精神科医は、こう解説しています。

通常は、わが家を認識できなくなったからと解釈されるが、そうではないと思う。

昔の夫は頼りがいがあり、私が辛い時も助けてくれたのに、いま目の前にいる夫は、ボケてしまった私を怖い顔で叱るばかり

この男は夫のようだが、私の夫ではない。

ああ、こんなところにいたくない。早く優しい夫のいるところに帰りたいーー

これが「帰りたい」という言葉のストーリーである。

(文芸春秋より抜粋)

「おこられると家出する」とありますが、何も言わないで黙って出ていけば、本人は「家出」のつもりでも、周囲は「徘徊」と呼びます。

外に出て頭を冷やすと戻ってくることもありますが、これを繰り返しているうちに、脇道などに入って戻れなくなり、警察を巻き込む大騒ぎになることもあります。

しかし本人にすれば、自分の居場所を探しているだけなのかもしれません

正しい対応方法とは?相手の気持ちを受け止める、会話のコツ

では事態が悪化しないよう、適切に対応するにはどうすればいいのでしょうか。

まずは、相手の言動を受け止めることが、気持ちを受け止めることにつながります。どこかに歩き始めたなら、それを制止するのではなく、一緒に歩くということです

そして、気持ちを受け止める技術として、効果的かつ簡単な方法は「言葉を反復する」ことです。

「もう帰らないといけない」と言われたら「もう、帰らないといけないんですね」と反復する。
「○○(子供、家族など)が待ってるから」と話すなら「○○さんが待っているんですね」と丁寧に返す。

この時のポイントは、答えたり、間違いを正そうとしたりしない、ということです。

このやりとりの目的は「安心」を届けることです。物事の正しさや正確性は二の次であり、極端に言えば、どっちでもいいのです。

大切なことは「自分の話を聞いてくれた、気持ちを受け止めてくれた」と本人が感じるかどうかです

自分の言ったことをそのまま返されることで、自分の気持ちを受け止めてもらえた、肯定されたと思い、信頼関係が育まれ、気分が落ち着いて安心するのです。

これを繰り返していると、徐々に徘徊が治まっていくことがあります

日常でも、会話が上手な人は相手の言葉を上手に反復しているはずです。人間関係全般に応用できますので、ぜひ試してみてください。

まとめ

認知症の「見当識障害(今、どこに、誰といるのか分からない)」は、本人も周囲の人にとっても不安の大きな症状です。

体調不良、環境の変化、認知症症状が進んだとき、人間関係など、さまざまな要因によって不安が大きくなり、「どこか、安心できる場所へ」帰ろうとするのでしょう。

どんな症状にも必ず原因があります。周りの人が困ってしまうときは、本人も困っているはずです。症状の背景に思いを馳せて、一緒に気持ちを落ち着けてみてください

 

参考文献:

・佐藤眞一著(2012年)「認知症『不可解な行動』には理由がある」SB新書
・小澤勲著(2003年) 「痴呆を生きるということ」岩波新書
・文藝春秋(2014年8月号)