弁護士に聞く終活のススメ #14

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「寄与分」はどんな制度?多めに遺産を相続できる人の要件を解説

寄与分の制度ができた背景

戦前までは家制度というものがあり、家を引き継ぐ者(基本的には長男)にすべて相続させ(家督相続)、先祖代々の財産の分散を防いでいました。
しかし家制度は戦後の民法(家族法)で廃止され、以後は長男と長男以外の姉弟の相続分は全く平等、ということになったのです。

そうは言っても長年の慣行がありますから、一般人の意識の中では家制度が脈々と残っています。
結婚式で○○家と△△家が一緒になるような表記がなされたりするのも、その名残でしょう。

また現実に、土地や工場を持って家業として農業や製造業などをしている家からすれば、家業に不可欠な財産が兄妹に均等に分割されてしまうと、事業継続に支障が生じることになりかねません。
他にも、たとえば年老いた親と同居して世話をし、介護してきた長男と、家を出て都会で自分のやりたいことをしていた弟妹らとで、何ら区別なく平等に相続するのは逆に不公平という場合もあります。

そこで民法は、昭和54年の改正で寄与分の制度を設けました。
これにより親の遺産の維持や増加に貢献した相続人は、他の相続人より多くの遺産を取得する道が開けたのです。

寄与分があてはまる5つの要件とは

寄与分には、以下のことが要件となっています。

①「事業に関する労務の提供」
②「財産上の給付」
③「療養看護」等の方法によって
④「遺産の維持又は増加」について
⑤「特別の寄与をした」こと

順次説明します。

まず事業に関する労務の提供(①)です。
たとえば故人が家業(鉄工所、農業その他諸々あります)を経営していて、妻がその経理係としてフルに働いた、あるいは長男も無給で手伝って事業に貢献したというような場合です。

次に財産上の給付(②)とは、親が作った借金の返済を子どもがしたことで、担保に入れていた土地を失わずに済んだ場合があります。
あるいは、親の事業を助けるために息子が資金を出して工場をリフォームしたなども考えられるでしょう。

更に療養看護(③)とは、自宅で病床に伏している親の看病や介護をして親を助けた場合などが当たります。

「特別の」寄与とは何か?

以上が一般論ですが、実際の裁判所の現場を見ると、本人が期待するほど認められないのが現実です。
というのも、寄与分が認められるには、寄与によって財産が維持又は増加したという因果関係が必要だからです(上記④)。
また、その寄与が「特別の」寄与でなければならないからです(上記⑤)。

たとえば、親が入院していたり施設に入っている場合は、病院や施設で介護してくれています。
その期間は足繁くお見舞いに行って優しい言葉を掛けたりしていても、遺産の維持や増加との因果関係が認められません。
またそれは妻や子どもとして特別のことではないため、「特別の」寄与とは認められないのです。

あるいは、家業を手伝っていたとしても、それに見合う給料を貰っていれば特別の寄与とは言えません。

実際の事例から「寄与分」を解説

A子さんは寿司職人だったB雄さんと再婚しました。
お互い、いわゆるバツイチでした。

B雄さんは結婚後間もなく肺ガンを発症しました。
入院して摘出手術を行った結果、幸いにも手術は成功したのです。

以後B雄さんは小さな寿司店を開業しました。
A子さんは夫を助け、スタッフとして経理も含めてフル回転して頑張りました。
しかし思うように業績は伸びず、2年後に店を閉めなければなりませんでした。

その後B雄さんは腰痛がひどくなり、椎間板ヘルニアで入院しました。
これも手術でよくなり、無事退院することができたのです。

ところがその1年後、鼻腔内腫瘍が発覚し、入院手術となりました。
退院したのも束の間、今度は肺ガンが再発し、再度入院。
放射線治療を試みましたが、既に転移がひどく、半年の闘病の結果、B雄さんは亡くなりました。
まだ60代前半で、再婚して8年が経過していました。

2人の間に子どもはおらず、残してくれた遺産は、一緒に住んでいた中古マンションのほかには、わずかな貯金があるだけでした。
A子さんは苦労続きの8年間を振り返るのも束の間、相続手続をしようとB雄さんの先妻との間の子(C)に連絡を取りました。
B雄さんには先妻との間に子どもが1人いたのです。

A子さんは、Cに会ったのは数えるほどしかありません。
付き合いもほとんどなかったので、まさかCが相続の権利を主張するなどとは思いも寄らないことでした。
しかも遺産は大したことはなく、A子さんの生活にはいずれも不可欠なものです。
ところが意外にもCは、「法定相続分通り、遺産の半分は欲しい」と権利を主張したのでした。

裁判所が寄与分を否定した理由

A子さんは到底納得できず、弁護士に相談しました。
弁護士は、付き合いがなくても実子である以上、2分の1の法定相続分を主張できること、対抗するには寄与分を主張するしかないことを教えてくれました。

A子さんは誠心誠意、B雄さんの看病をし、大変苦労したことを弁護士に説明。
寄与分を認めてもらうために、遺産分割と寄与分の調停を起こすことになったのです。

結果、調停でも双方の主張が対立したため、審判で決めることになりました。
A子さんは「自己の寄与分は遺産全体に及ぶから、遺産は全部取得したい」と主張しました。

一方Cは、A子さんの寄与分を否認。
そして、こともあろうに、A子さんはB雄さんのマンションに無償で住んでいたのだから、その家賃相当額だけ生前贈与(特別受益)を受けている、と主張したのです。
遺産の半分以上は自分に渡されるべきである、との意見でした。

裁判所の決定はA子さんには非情なものでした。
遺産は法定相続分で折半、ただしマンションはA子さんが取得し、預貯金はCが取得する。
評価額はマンションの方が50万円ほど高くなるので、その分は代償金としてA子さんはCに支払え、という決定です。
なお、Cが主張した特別受益も否定されました。

裁判所が寄与分を否定した理由には、まず寿司屋の店員として働いた分は、相当額の給与を貰っていたことがありました。
また、結局寿司屋は失敗し遺産を減らしていることがネックとなっていました。
その他の療養看護については、いずれも入院治療の期間内のお見舞いや身の回りの世話であって、妻として通常の範囲内にとどまり、特別の寄与とはならないということでした。

法制度には限界もある

A子さんは到底納得できませんでした。
片や故人のお世話を全くしなかった人、片や誠心誠意看病した人、それでも相続できる遺産は同じ法定相続分だけだと言うのですから。

確かにこれが現実の法律の限界と言えます。
所詮人間の作った法律ですから完璧ではない、と理解するほかありません。

なお、あくまでこれは法の要件を満たしていなかったから認められなかっただけです。
要件を満たすことで認められた例も、額の大小はあるものの、多くあります。

まとめ:適切な遺言書の作成を!

以上のとおり、寄与分が認められるのは簡単ではなく、かつ裁判官の裁量が認められます。
今お世話をしてくれている息子や娘に遺産を多めに渡したい、と思っている方がもしおられたら、成り行きに任せるのは得策ではありません。

是非、適切な遺言書を書いてあげると良いでしょう。
それが、感謝の気持ちを伝える最良の方策です。

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