日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #60

  1. 人生

『方丈記』に記された、理想的な住まい 〜鴨長明は、移動式「方丈庵」を発明した

「方丈庵」は「日本の美の極致」

12月10日は、アルフレッド・ノーベルが亡くなった日です。
ダイナマイトの発明者として有名ですね。彼の遺言に従って、ノーベル賞が設立されました。例年この日に、授賞式が行われているんですね。

発明者といえば、今からさかのぼること約800年前。
『方丈記』を書いた鴨長明さんは、移動式の「方丈庵」を発明しました。

現代なら、キャンピングカーや、ワンルームマンションなど、機能的な部屋は当たり前になりましたが、それを、800年も前に造ってしまった長明さんって、すごいですね。

「方丈庵」は、ドイツの建築家が「日本の美の極致だ」と絶賛しているほど、海外でも有名なんだそうです。ますます、すごいです!
どうして「方丈庵」を造ったのでしょうか?

『方丈記』に記された、理想的な住まい 〜鴨長明は、移動式「方丈庵」を発明したの画像1

カミングアウトする鴨長明

「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」で始まる『方丈記』は、川の流れのように移り変わってゆく「無常観」が、名文でつづられています。

当時起きた五大災害の様子を克明に記してから、長明さんは、自身のことをカミングアウトしています。

木村耕一さんの意訳でどうぞ。

「なんて私は、不運なのだろう……」50歳で出家を決意

次は、私の生い立ちを、お話しすることにしましょう。

私は、父方の祖母の財産を受け継ぎ、その屋敷に、長い間、住んでいました。

しかし、父が亡くなってから、親族の間でゴタゴタが起こり、私の立場は次第に不利になっていったのです。ついに縁が切れて、思い出の多い家を出ていかざるをえなくなりました。
そして、30歳過ぎに、鴨川のそばに、小さな家を建てたのです。前に住んでいた屋敷と比べると、広さは10分の1になりました。

家の周りには、やっとやっと土塀を築きましたが、門を建てる資金まではありません。
外出する時には牛車が必要なので、隣に車庫を造りました。しかし、竹を柱にして建てた粗末なものだったので、雪が降ると「つぶれないだろうか」、風が吹くと「屋根が飛ばないだろうか」と、心配は尽きませんでした。

『方丈記』に記された、理想的な住まい 〜鴨長明は、移動式「方丈庵」を発明したの画像2

不都合なこと、理不尽なことが多い世の中を、私は、耐え忍んで、生きてきました。幾たびも挫折を繰り返し、悩むことが多い人生に、「なんて私は、不運なのだろう」と思い知らされるばかりです。

そこで、50歳の春に、思い切って出家して、仏教を聞き求めることにしたのです。まず、都の北方、大原の山に住むことにしました。もともと妻子もなく、官職もない身ですから、執着するものは、何もありませんでした。

『方丈記』に記された、理想的な住まい 〜鴨長明は、移動式「方丈庵」を発明したの画像3

理想的な住まい、移動式の「方丈庵」を造る

出家してから、新たな家を造りました。それは、自分が、かつて鴨川の近くに建てた家と比べたら、100分の1にもなりません。

家の広さは一丈四方(5畳半)ですから、方丈庵とでもいいましょうか。高さも7尺(約2.12メートル)くらいです。

『方丈記』に記された、理想的な住まい 〜鴨長明は、移動式「方丈庵」を発明したの画像4

しかも、「ずっと、ここに住もう」と、場所を決めて建てたのではありません。「ここは気に入らない」と感じたら、いつでも分解して、他の場所へ運べるように工夫してあります。

建て直すのに、手間はかかりません。わずか車2台に建築資材を乗せて運ぶだけです。車を押してくれる人への謝礼以外には、全く費用がかからないのです。

こんな家は、世の中に例がないでしょう。

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(『こころに響く方丈記』より 木村耕一 著 イラスト 黒澤葵)

必要なものだけを

木村さん、ありがとうございました。

「不都合なこと、理不尽なことが多い世の中を、私は、耐え忍んで、生きてきました」の長明さんの言葉に、ぐっときました。
長く生きれば生きるほど、共感するように思います。

人生の悩みや挫折を繰り返して、長明さん自身が、何が必要で、何が必要でないのかをよりすぐってできた家が「方丈庵」なのかもしれませんね。

長明さんと「方丈庵」で語りたくなりました。

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