弁護士に聞く終活のススメ #10

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知っておきたい扶養義務!老後の介護や世話の負担をどう分かち合うか


病気や加齢で1人で生きられなくなった場合、誰に看てもらうのか。
これは誰もが避けて通れない、重要事項です。
法令用語で言えば、扶養義務はどうなっているのか、ということです。

また、それ以前に自分が親を介護する立場にあるとき、負担が1人に集中してしまうこともあり得るでしょう。
そういったときの救済方法はないのでしょうか。

今回はこれについて取り上げます。

扶養の義務は民法でハッキリ決まっている

弁護士をしていると様々な相談を受けるのですが、老後の扶養が話題になることがあります。
ほとんどの人が共通して持っているのは、迷惑を掛けたくないので子どもに面倒見てもらおうとは思わない、子どもの援助を受けて生活する気はない、という考えです。
破産事件の相談においても、破産手続をするのにはお金がかかるのに、そのお金を子どもに用立ててもらう発想はまずありません。

しかし民法では、一つの章を設けて扶養について規定しています。
そこには、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と明文で定められているのです。
直系血族とは、直接の血のつながりのある親族のことで、両親、祖父母、子ども、孫のことです。

また民法では、特別の事情がある時は三親等内の親族間においても、扶養の義務を負わせることができるようになっています。
親族には、姻族(血縁関係のある親族の配偶者)も含まれます。
つまり叔父伯母やその配偶者、あるいは甥姪やその配偶者にまで、扶養を求めることが認められる場合があるということです。

もちろん配偶者がいる場合は、夫婦にもお互い同居・協力・扶助義務がありますので、配偶者から看てもらえる状態であれば看てもらう権利があります。
ですから自分が何らかの理由で経済的なピンチになった時は、子や孫や兄弟らにも援助を求めればいいのです。

生活保護は最後の手段

ところで、日本には生活保護制度があり、いざとなれば国(地元自治体)から生活保護をしてもらうことができます。
しばしばあるのが、子どもは嫁に行っていて嫁ぎ先のことをしなければならず、子どもから看てもらうのは不可能なので生活保護を受けたいという人です。
一般国民にとっては、子どもに頼むより行政窓口に頼む方が気が楽な人が多いようです。

しかし生活保護というのは、他に取り得る手段を取っても自活できない場合の最後の手段と位置づけられています。
これを「生活保護の補充性」と言います。

ですから、親や子など扶養義務者がいる場合は、まずその扶養義務者に当たる必要があるのです。
義務者がいずれも扶養したり援助できる状態にないことの確認ができて、初めて生活保護が支給されることになります。

認知症を発症した母の介護の負担が集中

親の介護について相談に来られた春夫さんの例を見てみましょう。
春夫さんは長年堅気の銀行員を務め、定年退職後は年金を受けつつ、夫婦で年老いた実母の面倒を見ていました。

実父は10年前に他界しており、その後実母が認知症を発症するようになったのです。
春夫さんの子どもはいずれも独立し、都会に出ておりました。
また、春夫さんには兄が1人いますが、やはり都会に出て所帯を持っています。

母親は思ったことを何でも口にするタイプで、声も大きく、様々な不満を口にして春夫さんや妻を悩ませるようになりました。
自分の大小便の管理も思うようにできなくなり、家の中を汚すこともしばしばです。

母は無くなった夫(春夫さんの父)の遺産や元々あった資金などで、2000万円以上の預貯金を保有。
更には、遺族年金で月平均10万円程度の収入がありました。
しかし、母はお金への執着が強く自分の財布と預金通帳は肌身離さず持っていて、春夫さん夫妻には使わせないという状況です。

そのため介護の負担は全部春夫さん夫妻にかかります。
金銭的負担が大きく、何とかならないかとの相談でした。

聞くと、これまでに何度も兄の秋男さんに連絡して、今後母の面倒をどのように看て行くか協議したいと申し入れしていたそうです。
ところが秋男さんは全く協議に応じることはなく、困っているとのことでした。
問題は金銭的にも肉体的にも、母のお世話をするのが春夫さん夫妻に集中していることです。

成年後見手続の活用

そこでまず、成年後見人選任の申立てをすることになりました。
現状では母の預貯金に手を出せない状況が続いていますが、成年後見人の選任が認められれば、成年後見人の権限で母名義の預貯金を使って生活費に充てられるようになるのです。

これは家庭裁判所に成年後見人選任の申立をして、母が認知症により財産管理等の判断力を欠く状態になっていると確認されれば認められます。
判断力を欠く状態であるかどうかは、主に医師の判断によります。
医師は、母については既に認知症が進んでいて自分で自分の財産を管理する能力がないという診断書を書いてくれました。

その結果、認知機能の低下で自分で財産管理ができないことが認められ、地元の弁護士が成年後見人に選任されたのです。
そして成年後見人との協議の結果、月々金5万円を母の預金から引き出して家族(母も含めて)の共同生活の費用に充てることが認められました。

兄弟と介護の負担における交渉

次に、兄・秋男さんに対しても扶養料の請求をすることにしました。
弁護士名で請求書を出したところ、兄・秋男さんは弁護士を選任し対応を一任。
そこで、扶養の方法を協議するための調停申立をしたのです。

指定された第1回期日には、弁護士と共に秋男さんも出廷しました。
当方は認知症が進行していて世話が大変であることを伝え、母を引き取るか、介護費用を支払うか、どちらかをして欲しいと調停委員に要請しました。

すると秋男さんからは、都会で妻子と暮らしているので引き取るのは無理だが、一定の介護費用なら支払ってもいいとの返答があったのです。
そして調停委員の仲介により、月々5万円を負担することで決着がついたのでした。

まとめ

これまで春夫さんは、全部自己負担で母を介護し、お世話をして来ました。
その状況と比べれば、後見人が付いて母の貯金から金5万円を出してもらえるだけでなく、兄からも月々5万円を出してもらえることになり、だいぶ負担は軽くなったでしょう。
春夫さんは、弁護士に相談し対応してもらってよかったと話していました。

家族の介護は、多くの人が悩んでいる問題です。
老後の扶養に関しては、家族や親族にも義務がありますから、ぜひお互いに協力し合っていただきたいと思います。

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