セルフ・コンパッションから学ぶ自己肯定感を育むセルフケア #2

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不安やイライラ…つらさを抱えているときに自分に優しくする3つの方法

セルフ・コンパッションという言葉をご存じでしょうか。
自分のことを受け入れる、自分を肯定する、ということですが、「自分をねぎらう心」「自分を思いやる心」と訳している人もあります。

「自分のことが好きになれない」と悩む人に向けて、自己肯定感を高める方法を、精神科医の高木英昌氏が解説します。

セルフ・コンパッション3つのキーワード

欧米で話題の「セルフ・コンパッション」は、仏教の慈悲にヒントを得た考えです。
自分を思いやる心を大切にし、自分にとっての幸せとは何かを見つめ直し、そこに向かって成長していく方法を教えられたセルフケアです。

セルフ・コンパッションのキーワードは、次の3つです。

  1. 自分に優しくする
  2. 人は誰もが不完全であることを知る
  3. 「今」を大切にする(マインドフルネス)

今回は、1番の「自分に優しくする」についてお話しします。

※前回の記事はこちらをごらんください。

自分に優しくするために必要なこと

自分自身に慈悲の心を向けるためには、まず自分が苦しんでいることに気づかなければならない。

(『セルフ・コンパッション』より)

仏教の「慈悲」には「苦しみをやわらげ、楽を与える」という意味があることは、前回もご紹介しました。

自分に優しくするためには、まずは自分が「困っている」「ツラい」という気持ちに気づく必要があります

特に、自己肯定感が低かったり、毎日があまりに忙しかったりすると、自分のツラさを後回しにしがちです。
また、自分のことを誰かに相談するのが苦手な人は、「自分のことで周りに迷惑をかけてはいけない」と自分の気持ちを押し殺し、無理にでも明るく元気に振舞っているかもしれません。

何だかやる気が起きない、漠然とした不安がある、イライラするなどは、何かツラさを抱えているときのよくあるサインです。
食欲がない、よく眠れない、疲れやすいなど体の症状となって現れることもあります。

そのようなSOSのサインを見て見ぬふりをして、頑張り続けると、どこかで倒れてしまいかねません。

一つ注意していただきたいのは、「ツラさに気づく」とは、必ずしも「その原因を探る」ということではありません。
より深い根っこを掘り下げるには、エネルギーが必要な場合もあります。

ここでお伝えしたいことは、「自分は優しさを必要としていることに気づく」ということです。

そして、ストレスの原因が何であれ、疲れているときは休養が必要です。
問題を解決するにも、まずは休んで、心身をある程度回復させてから、ですよね。

自己批判は、自己肯定感が下がっている証拠

何か失敗してしまったときや、思わぬ問題が起きたとき、自分を責めたり、自分に厳しすぎるくらい自己批判したりしていませんか?
「自分に優しくしている場合じゃない、それこそ甘えじゃないか」と思われるかもしれません。

ですが、そういうときこそ自分に優しくしてほしいのです

私たちは失敗によって生じた痛みよりも、失敗自体に注目する傾向がある。

(『セルフ・コンパッション』より)

私たちは、問題が起きると、すぐに問題解決モードに入りがちです。
もちろん問題を早く解決することは大切です。周りに迷惑をかけたことは申し訳ないことです。

しかし、そのために「自分自身もダメージを受けている」こともまた、忘れないでほしいのです

というのも、きちんと手当しないと、傷が深く広がってしまうかもしれないからです

「自分はなんてダメなんだ」
「いつも周りに迷惑ばかりかけている」
「自分なんていないほうがいいんだ」
と自分の存在そのものを否定するような気持ちが出てきたときは、傷が深くなっているサインです。

「自己批判」は、自己肯定感が低いときの特徴の一つです。

傷だらけの自分の気持ちを後回しにしないで

過度に自分を責めてしまうときは、大抵、「自分の気持ち」に気づけていません。

「自分が悪いんだから、自分がツラいとか言ってちゃいけない」「自分も大変だなんて思うのは許されない」と責任を感じすぎると、傷だらけの自分が後回しになりやすくなります。

また、「周りにどう見られているか」ばかりに気を取られてしまうと、自分の気持ちを無視しがちです。

「自分の気持ち」が分からないと、自分はどうしたかったのか、どうしてほしかったのか、助けてくれる人に助けを求めることもできません。
普段できることもできないかもしれないのに、一層無理がかかってしまいます。

これは「言いわけ」とは違います。責任逃れのために、自分の非を認めようとしないのが「言いわけ」です。

何に困っているのか、失敗してどんな気持ちになったのかに気づくことは、自分の状況を正直に、素直に受け止めるということです

失敗したときに、誰かが「大変だったね」とかけてくれた一声に救われることもあるかもしれません。失敗を責めるのではなく、「頑張ったね」と労ってくれた優しさに、心が温かくなった経験をした人も多いと思います。

自分に優しさを向けるための3つの方法

自分は今ちょっと大変だな、と気づいたら、積極的に自分に優しさを向けていきましょう。

キズの手当ては意識して行われるべきことであり、いい加減な治療ではきちんと傷が癒やされません。

セルフ・コンパッションでは、自分に優しくする方法がいくつか紹介されています。

①「優しい人」を想像してみる

架空の優しい友人、あるいは実在の親しい家族や友人、尊敬する人ならどう声をかけてくれるかを想像してみましょう」と、セルフ・コンパッションでは勧められています。

想像しにくければ、たまたま隣にいる優しそうな人でもいいかもしれません。

「そんな大変な中をよく生きてきたね」
「失敗して自分だってつらかったよね」
「そんな状況だったら、誰でも困っちゃうよね」

思い浮かんだ言葉を、ノートにメモしておき、後で見返すと、なおいいと思います。

自分を認める言葉、誰にも言ってもらえないけど本当は言ってほしい言葉、吐き出したい想いなどは、書き留めてくり返し読み直すことで、徐々に本音に近づいていきます

自分の気持ちを言葉にするのがだんだん上手になっていきます。

また、誰かに言われてうれしかった言葉や手紙、好きな本や漫画、映画の一節の抜き書きなど、「言葉の宝石」を集めておくのもおススメです

言葉がたまってくると、それを見返すことで心が落ち着く「安全(安心)基地」になるでしょう。
つらいことがあったときに癒やしてくれたり、不安だけど頑張りたいときに勇気をくれたりもします。

②自分をハグする

赤ちゃんや子どもを優しく抱きしめるように、自分に優しいハグをします。
「恥ずかしくてできない」と思われるかもしれませんが、やってみると意外と効きます。

ハグでなくとも、ポンポンと優しく腕や肩を叩くのも効果があると思います。

「自分に優しくしている」というイメージを持ち、温かみを感じるのがポイントです。

③安全な場所を思い浮かべる

ホッとして落ち着く場所、安全基地のような「場所」をイメージするのも有効です。
実在する場所でも、映画や小説などの空想の場所もいいと思います。

「おじいちゃん家で一緒に寝転んでいた、日の当たる縁側」
「狭いけれども、誰も知らない自分だけの秘密基地」
「満天の星空の下」

いずれも、つらくなってから考えるのではなく、落ち着いているときに考えておいて、いざとなったら「安全なところに帰れる」。そんな安心できるイメージを作っておくといいと思います。

安心感があるからこそ変われる、成長できる

「北風と太陽」という寓話があります。旅人のマントを脱がそうと勝負する北風と太陽。強い冷たい風で無理やりマントを脱がそうとしても、旅人は必死に抵抗します。
一方、優しくポカポカ温かい陽気に照らされると旅人は自分からマントを脱ぎます。

自己批判よりも、自分に優しくすることの大切さを、見事に表しています。

「変わるためには、変わらない中心(土台)がなければならない」といわれます。
成長する(自分が変わる)ためには、じゅうぶんな安心感が不可欠です

「興味深い矛盾は、私たちがありのままの自分を受け入れることができると成長できるということである」(臨床心理学者 カール・ロジャース)

「自分は自分でいいんだ」
「自分には生きている価値があるんだ」
という自己肯定感は、自分が生きている世界への安心感ともいえます。

反対に、
「自分はダメな人間」
「誰も助けてくれない」
「世界は嫌なことばかり」
という不安が大きいと、あまりに生きていくのがツラいと思います。

自分は優しくされるだけの価値がある、自分に優しくしてくれる人はいる。そういう安心感は、生きていくうえで絶対に必要です。

困ったときはお互い様。優しくし、優しくされることで、「人間っていいな」「生きてきてよかった」と誰もが思える社会であってほしいと思います。

 

【参考文献】
・クリスティーン・ネフ著、石村 郁夫・樫村 正美訳(2014年)『セルフ・コンパッション あるがままの自分を受け入れる』金剛出版
・関屋裕希著(2018年)『感情の問題地図』技術評論社
【セルフ・コンパッションから学ぶ】シリーズはこちら