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前歯がギザギザ、これって普通? よく噛むことを歯医者さんが勧める理由とは

歯医者さんは歯を治療する人、と思っている方が多いですが、歯科医師の稲田雅一氏は、口のトレーニングや食育にも力を入れ、学校や公民館などで積極的に講演を行っています。
それは、今、口のトラブルを抱えている子どもが非常に多いからです。

歯の健康のためには、口の機能を発達させることが、とても大切です。
「健口生活」をモットーに診察、講演される稲田先生に、お話をお聞きしました。

食べるために大事なのは、歯だけじゃない

子どもの歯は、0歳から3歳までに、乳歯が20本生えそろいます。

食べるためには、歯だけでなく、唇や舌、あごも必要です。
3歳までの、噛む学習と、噛むトレーニングが、これらの口の機能の土台を作ります。

※噛む学習・トレーニングについてはこちらをご覧ください。

この土台を作っておかないと、10代になってトラブルが出てきてしまうのです。
実際に今、小学生・中学生に、いろいろと口の問題が起きています。

もし、3歳までに噛むトレーニングができていなかったとすると、15歳までの間には修正する必要があります。
修正の方法については、最後にご紹介したいと思います。

前歯の先端がギザギザの高校生は、何が問題?

私の診療所に最近来院した高校生の例です。
前歯の形がおかしい、ということでお母さんが連れて来られました。

前歯のギザギザ写真

前歯がギザギザです。

生えたばかりの永久歯はこんな形です。専門用語では切縁結節(せつえんけっせつ)といいます。

本来、前歯が生えてくる時期は6歳です。

時々、6歳のお子さんを抱えたお母さんが、生え変わりの時期に、「うちの子、クワガタみたいな前歯が生えてきたんです。これおかしいんじゃないですか?奇形ですか?」と言って来られる方がありますが、それは正常です。

ところがこの高校生の場合、16歳までギザギザが残っているのです。ということは、この子は16歳まで前歯で噛み切る習慣があまりなかった、ということなのです。

口が開いている子どもたち

歯を見れば、この子の食生活が分かります。

その子に「口を自然にしてごらん」と言うと、上唇がめくれ上がっていて、自然に口が開きます。

通常は、前歯で噛み切る過程で、唇がトレーニングされていくのです
そのトレーニングがなされないと、唇が閉じないのです。

噛めば歯は擦り減っていきますので、本来は、前歯はまっすぐになります。

真っ直ぐな前歯の写真これは大学1年生の女の子の写真です。
唇も大人の唇で、非常に引き締まり、整った唇をしていました。

「お口ポカン」は健康によくありません

先日、小学校にお邪魔した時に、授業風景を見学させてもらいました。
児童の顔を見ると、みんな口が開いています。口が開いた状態で授業を受けていました。

口をクローズアップすると、上唇が開いて富士山状になっています。そして舌が見えています。

口が開いているイラスト

今、こういう子どもたちが非常に増えてきているのです。

口の周りの筋肉は、6つあります。ベロ(舌)も筋肉です。
噛む回数が少ないと、口の周りの筋肉が使われないので、退化し、「お口ポカン」状態になってしまいます。

今の子どもたちは、口の周りの筋肉が、ほとんど鍛えられていないのです
これは、健康にさまざまな弊害をもたらします。

口が開いていますので、鼻呼吸ではなく、口で呼吸するようになります。
そうすると、鼻のフィルターを通りませんので風邪を引きやすく、インフルエンザなどにかかりやすくなるのです

口の体操で学級閉鎖が激減

この時期、インフルエンザが流行ってきています。そうすると必ず学級閉鎖が起きます。

なぜ学級閉鎖が多くなってきているかというと、子どもたちが、口で呼吸するようになってきているからです

口からウイルスが入ると、鼻から入ってきたのとは全然違いますから、全部まともに喉にきます。喉は肺につながっています。ですから、非常に風邪が蔓延しやすくなってくるわけです。

これを予防する口の運動を、ある九州の小学校で取り入れました。

あいうべ体操という体操を取り入れるようになったら、インフルエンザにかかる児童が激減して学級閉鎖がなくなった、というニュースが、テレビでも新聞でも取り上げられ、かなり反響を呼んでいました。

ある新聞には、このように書かれていました。

今、とても気になっているのが、口が開いている人の多さ。特に若年層に多い。友人の小学校教諭に尋ねると「今までそんな目で見たことがなかったけれど、うちのクラスでは3分の2の子の口が開いていた」

口が開くと、口腔内の乾燥も加わり、病気にかかりやすくなる。その一つがインフルエンザ。空気中を漂うウイルスが口から取り込まれて喉の粘膜に付き、増殖するからだ。

一方、鼻で息をすれば、まず鼻毛で大きなごみが除かれ、その奥にある粘膜やリンパ組織などにより、ウイルスはブロックされる。さらに、呼気は無数に走る毛細血管に温められた上、適度な湿度を帯びて器官に送り込まれるため、感染リスクは大幅に減る。

来年、生活面に詳報するが、電車やバスに乗ったら、さりげなく周囲の若い人の口に目を走らせてほしい。驚きで自分の口が開くかも、です。

(西日本新聞「デスク日記」佐藤弘 2012年12月14日)

春に白川郷に行って、バードウォッチングならぬ人間ウォッチングをしてきました。

文化遺産を見るのも大事ですけれど、そこで歩いている人をいろいろ眺めていて、どれだけ口が開いているかな、と見ていると、結構開いているんですね。

大人でも開いています。お父さんとお母さん、その後ろを歩いていたお子さんも、口が開いていました。スマホをしながら、口が開いて前傾姿勢をとっている。こういう子が非常に多いのです。

きゅっと締まった唇のほうが、格好いいに決まっています。

「よく噛むと頭がよくなる!?」噛むとこんなイイことも!

口のトレーニングには、やはり回数を噛むことが大切です。
昔は「よく噛むと頭がよくなる」といわれたものです。これは根拠なく言っているのではないのです。

実際、ある小学校で100マス計算をさせました。

最初に計算にかかった時間は、7分30秒でした。
次に、スルメを約3分間、しっかり噛んでもらって、それからもう1回計算させてみると、かかった時間が4分になったのです。
約半分。しかも正解の数も増えたそうです。

噛むだけで計算が早くなるなんて、信じられないと思いますが、本当なのです。

スルメを噛んだ時、サーモグラフィで見ると、顔全体が赤くなり、血液の流れがよくなっているのが分かります。

スルメを噛むと、口の周りの6つの筋肉が動いて、顔の周りの筋肉も動いて、血液の流れがよくなるのです。
顔だけでなく、頭の血流がよくなるので、脳が活発に働く。そのために計算が早くできるようになるし、正解も増える、ということなのです

ですから、「よく噛む」ということ、ぜひ実行していただきたいと思います。
一口30回といわれますが、一度の食事で1000回噛むように心掛けたいものです。

「あいうべ体操」で子どもが変わる

私の病院のホームページでは、口腔機能のトレーニングとして、「あいうべ体操」を紹介しています。

これは福岡の今井一彰先生(みらいクリニック院長)が考案されたものです。

今の子どもたちは、上唇があまり発達していません。上唇が発達していないと、舌足らずなしゃべり方になります。ハッキリしないしゃべり方なのです。

「あいうべ体操」は、口腔機能の素晴らしいトレーニングになるので、患者さん(特にお子さん)には、1日30回、この体操してくださいと勧めています。

あいうべ練習

「あ~、い~、う~、べ~」と30回やると、ものすごく口が疲れますし、鍛えられますそして夜寝るときは、口テープして寝る
これで相当変わります。しゃべり方も、だいぶハッキリしてきます。

あいうべ体操カードとスマホアプリ

【まとめ】歯医者さんがよく噛むことを勧める理由

  • 唇がトレーニングされて、上唇が引き締まる
  • 唇が発達して、ハッキリとしゃべれるようになる
  • 口の周りの筋肉が鍛えられ、口が閉じるようになる
  • 口が閉じると鼻呼吸になり、風邪やインフルエンザにかかりにくくなる
  • 頭の血流がよくなり、脳が活発に働くようになる

大人の皆さんも同じです。
ぜひ今日からお子さんと一緒に、「よく噛む」「あいうべ体操」を習慣にしてください。