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【医師が教える】離乳食の正しい食べさせ方が、生涯の噛む力を育てる!

離乳食は、栄養だけでなく、生涯のお口の健康の土台を作り全身の健康に関わる役割を担っています。

歯科医が勧める離乳食の正しい食べさせ方について、「歯を通してその方の人生を応援する」がモットーの、県外からも来院者の多い人気歯科医・稲田雅一先生にお聞きしました。

(1万年堂ライフ編集部) 

離乳食といえば、まず「何を食べさせるか」が気になると思います。

ところがそれと同じぐらい大切な「どんな食べさせ方をするか」という口腔トレーニングについては、育児書でもネットでもほとんど教えられていません。

生涯の口腔機能は、3歳までに完成するといっても過言ではありません

正しい食べさせ方を知って、お子さんのお口のトレーニングをしましょう。

スプーンを口の中にまで入れて食べさせていませんか?

離乳食というと、流動食のようにドロドロとした食べ物を、とにかく口に入れることだと思っていませんか?

ほとんどの場合、親がスプーンを口の中にまで入れて食べさせる光景を目にします。

時間もないし、口に入ったら同じだし、とにかく栄養を与えないといけないから…という気持ちは分かりますが、これでは口腔機能のトレーニングにはなりません。

正しい方法は、スプーンを口の手前に水平に差し出し、子どもが自分から口を持って来るのを待つことです

このときに大切なのは、きちんと唇を使って取り込んでいるかどうかです

順を追って説明しましょう。

ゴックン期(0歳~1歳前ごろ・無歯期)

離乳食が始まっても、1歳前まではまだ歯が生えていません。噛むことはできず、舌の動きも不十分な時期です。

このときに意識したいのが、唇の動きです。

スプーンを前に持っていったとき、赤ちゃんは上唇でとらえようとします。そして下唇と合わせて食べ物を取り込みます。

これはほかの動物には見られない、人間ならではの動きです。

この「上唇で食べ物をとらえる」という感覚を、まだ歯が生えていない赤ちゃんには教えてトレーニングしていく必要があります

【医師が教える】離乳食の正しい食べさせ方が、生涯の噛む力を育てる!の画像1

(図は『Health Dentistry(健口歯科) 0歳から“噛む”で健康長寿』(増田純一著・グレードル刊より引用)

無歯期後半の8カ月~10カ月頃には、舌で上あごに押しつぶせる硬さの食べ物を与え、上あごの前方を刺激させます。

この刺激は、鼻から前頭部を発育させます。

モグモグ期(1歳~1歳半ごろ・前歯期)

離乳食が完全食になる1歳ぐらいになると、上と下に前歯が4本ずつ出てきます。

ゴックン期で覚えた、唇でとらえることからさらに進んで、前歯で噛み切ることができるようになります。

食べ物を自分の手でつかんで食べる、「手づかみ食べ」もこの頃から始まります。

ここで大切なのは、食べ物を手に持たせて、前歯でかじらせてみることです

キュウリでもトマトでも、自分でかじってみてはじめて、どのぐらいなら口に入るのかを覚えていきます。

この前歯でかじるトレーニングができていないと、ミニトマトなどを丸のみして、喉につまらせるというようなことが起こってしまいます。

【医師が教える】離乳食の正しい食べさせ方が、生涯の噛む力を育てる!の画像2

写真のお子さんは、トマトやキュウリを丸かじりしています。

そして、じいっと見ているんですね。自分がどれだけかじったか、かじった跡をしっかりとこの子は見て学習しています。

前歯しか生えていない状態は、このようなトレーニングが必要だということです。

カミカミ期(1歳半~2歳頃・奥歯期)

前歯が8本出そろった頃には、今度は奥歯が生えてきます。

奥歯を使って噛めるようになるので、噛む力が鍛えられ、咀嚼のリズムが作られていく時期です

子どもが噛めるようになるのは、口の中で一番敏感な場所である歯根膜(歯の根っこの部分)が発達するからです。

この歯根膜を通じて、その食べ物が硬いか軟らかいか、大きいか小さいかを認識できるようになります。

「このぐらいの大きさなら食べられるかな?」「ちょっと砕かないと食べられないな」など、身体で覚え込んでいくのです。

そうして、下あごについている大きな噛む筋肉(咬筋)が鍛えられていきます。

だから1歳半から2歳頃というのは、硬いものをよく噛ませなければなりません

そこで私がお勧めしているのが、スルメです。

市販のただ干しただけというシンプルなものですが、スタッフの子どもたちにもよく食べさせています。

好きになればずっと噛んでいて、これが奥歯のいいトレーニングになります。

実は授乳期から、赤ちゃんは口を鍛えています

口腔機能のトレーニングは、もっと言うと授乳期から始まっています。

いい噛み方、飲み込み方をするには、「唇を閉じること」と、「舌を上あごに吸いつける力」が必要です。

この「舌を上あごに吸いつける力」は、授乳のときに鍛えられます。

おっぱいには、浅飲みと深飲みとがあって、深い飲み方というのは、赤ちゃんが口を乳輪まで全部ふくんで吸い上げる方法です。

これを以前、NHKが内視鏡を使って撮影したことがあったのですが、赤ちゃんは口先だけではなく、顎の筋肉、歯茎、舌、そして頬っぺたを使って、強い力でしごくように母乳を飲んでいたのですね。

だからおっぱいをしっかり深飲みさせるということが、トレーニングの第一歩になるわけです

哺乳瓶の場合は、チュッと軽く吸うだけで出てくるような穴の大きなものは避けて、できるだけ母乳に近いものを選んでほしいと思います。

スナック菓子ではなく、噛む力をつける自然のおやつを

こうして、だいたい3歳までには奥歯が完全に完成し、乳歯20本が生えそろいます。

同時に口腔機能もでき上がります。

これを土台に、6歳ごろからは永久歯が生え始めます。乳歯はどんどん抜け落ちていって、永久歯に生え変わり、だいたい12歳ぐらいには永久歯がすべてそろいます。

ですから、3歳までの噛む学習とトレーニング、この種まきによって、6歳から15歳ぐらいまでの口の機能が決まるということです

逆に言えば、3歳までに構築しておかないと、10代になってトラブルが出てくることもあります。

カミカミ期からは、お子さんにはぜひ、できるだけ歯ごたえのあるものを食べさせてもらいたいですね。

スナック菓子など、いわゆるジャンクフードを与えだすと、口腔内の環境というのは、ものすごく悪化していきます。

本当は手作りのお菓子がいいですが、お母さんも働いていたりして忙しく、手間がかけられないということも多いと思います。

そんなときは、さつまいもをふかしたのを食べさせるとか、そのまま食べられるものって、いっぱいあると思うんです。

スルメや昆布もそうだし、みかん、りんご…、そういったものをおやつにするのが一番自然で、口腔機能の発達にも、健康にもいいということです。

まとめ

  • 授乳期…おっぱいを深飲みさせる。哺乳瓶はできるだけ母乳に近いものを。
  • ゴックン期…離乳食のスプーンは、口の手前に水平に差し出し、上唇を使って取り込ませる。
  • モグモグ期…食べ物を手づかみにし、前歯で一口量を噛み切る練習。
  • カミカミ期…歯ごたえのあるものをよく噛んで、噛む力と咀嚼のリズムを作る。

 

「でも、うちの子はとっくに3歳を過ぎてしまったけれど…」
と不安になった方、心配されなくても大丈夫です。
口腔機能を修正するトレーニングについては、次回お話ししたいと思います。

 

【参考文献】

  1. 『命の入り口 心の出口 食卓の向こう側 第13部』(西日本新聞社 刊)
  2. 『食卓の向こう側 コミック編①』(魚戸 おさむ,渡辺 美穂,佐藤 弘 著・西日本新聞社 刊)
  3. 『じょうずに噛めるまでのワンツーステップ』(向井美恵,岡崎好秀 著・芽ばえ社 刊)
  4. 『Health Dentistry(健口歯科) 0歳から“噛む”で健康長寿』(増田純一 著・グレードル社 刊)