1万年堂出版が開催した
読者感想文コンクールの
入賞作品の一部をご紹介します。

銀賞

『思春期にがんばってる子』を読んで

柴田哲子さん(41歳・愛知県) 一般の部

「私って、邪魔なんでしょ。この家にはいたくない」

中3の長女が私に向かって思い切り吐き出した言葉。気分の浮き沈みの激しい長女は、機嫌の良いときは楽しそうにいろいろなことをぺらぺらと話してくれる。しかし機嫌が悪いと、筋が通るかどうかなどおかまいなしに、自分の都合のいい理屈で思いきり言いたいことを言ってくる。

その時の長女の癇癪は、話を聞いてみれば半分誤解だったことがわかってくれたようだが、それにしてもこたえた。自分の子供になぜこんな言葉を浴びせられなければならないのか。私の育て方はそんなに間違っていたのか。悲しくて情けなくて、1人寝室にこもったら、涙がぼろぼろこぼれて止まらなくなってしまった。

その涙を止めてくれたのが『思春期にがんばってる子』だった。泣きながら本に手を伸ばし、「あんなことが書いてあったはず」と、確かめるようにページをめくった。

「子どもの心の成長は、依存と自立の繰り返し」

この章以降の、思春期の子どもの依存と自立についての文ほど、自分の心の支えになったものはない。長女に自分の批判をされたことでずたずたになっていた心が、すーっと軽くなっていくのを感じた。

長女の態度は、この本で書かれていることがそのまま当てはまる。はまりすぎて笑えてくるほど。まさに日替わりで甘えと反抗を繰り返し、私の心を振り回してくれる。時にはものすごい大波がやってくることもある。ほんの数年前の、かわいらしくてたまらなかった小学生の長女と同一人物とは思えないほど。

数年間中学校の教員をやっていたこともあり、中学生の心の変化について、全く知らないわけじゃないのに、やはり自分の子どもに真っ向からぶつかられると、おろおろしてしまう。反抗されるたびに自分の育て方を責めてしまう。

けれどもこの本は、そんな自分に、大丈夫だよ、気にしないでいいよ、と言ってくれる。

「そうか。これって普通のことなんだ」。長女との接し方でつまづくと、いつもこの本が助けてくれる。

長女は私と性格がまったく違うので、彼女の価値観に私はしばしばあっけにとられる。けれど、そんな時こそが、私にとって、人を知るいい機会だと思う。一人前のつもりでいる自分だって、たった一通りの生き方しかしていない。その自分の生き方を基準にして、「私がこうだったから、あんたたちもこうでなくちゃ」という価値観を、つい押しつけそうになる。けれどもそんな押しつけをあっさり跳ね返してくる長女を見ていると、親の狭い価値観を基準にして子どもを型にはめてはいけないな、とつくづく思う。

「心を育てるうえで、大切なことは、依存と自立を、認めることだけ」

こんな名言が他にあるかしら、と思う。何冊もの教育書を読んで、抽象的な言葉に頭を悩ませなくても、自分の子どもに当てはまる事例がなくてがっかりしなくても、過去の親の育て方を思い起こして自己嫌悪に陥らなくても、この一言さえ信じていれば、きっと大丈夫。そんな気にさせてくれる。

あの大爆発以来長女はめっきり素直になり、学校であったこと、塾のこと、テレビのことなどを、以前にも増してたくさん話してくれる。話が全然理路整然としていないので、途中で内容がわからなくなるけれど、一生懸命聞いている。「私はあなたのことを大切に思っているよ」ということをわかってほしい。二度と「私って邪魔なんでしょ」なんて言わせたくない。そして、この子に要求することは、「将来はちゃんと仕事をして収入を得て、経済的にも精神的にも自立してね」ということだけだ。

子どもとの関係がうまくいかない時は、子どもを生んだことそのものを後悔する気持ちになったこともあった。「もう一度人生をやり直せるとしたら、子どものいない人生がいい」などと母に愚痴ったりもした。子どもというものは本当に親を苦しめてくれる。けれどもやっぱり、この子たちがいなかったら、どんなに味気ない人生になっていただろうと、今は穏やかな日々を送っているから、そう思うこともできる。

二女が中1になった。ほんの数か月前まで、金魚のフンのように、家の中でも私のあとをちょろちょろくっついていた子だったが、さすがにそんなことはしなくなった。けれどもまだまだ甘えんぼだ。さて次は、この二女がどうなることやら。まだまだ波乱のありそうな娘たち。当分『思春期にがんばってる子』は、本棚のいつでも手の届く所にスタンバイしていてもらおう。

見逃さないで! 子どもの心のSOS 思春期に がんばってる子

見逃さないで! 子どもの心のSOS 思春期に がんばってる子

明橋大二(著) 太田知子(イラスト)