1万年堂出版が開催した
読者感想文コンクールの
入賞作品の一部をご紹介します。

銅賞

『忙しいパパのための子育てハッピーアドバイス』を読んで

杉山幸子さん(37歳・岐阜県) 一般の部

10月29日、今日は結婚記念日です。

5年前の今日、私と主人は軽井沢の教会で結婚式をあげました。私は純白のウェディングドレスを身にまとい、たぶん、一生のうちで一番綺麗な日だったと思います。主人は緊張しつつも、黒いタキシードを着て、エスコートしてくれました。2人で誓いの言葉を言いました。

「良い日にも悪い日にも、富める日にも貧しき日にも、病める日にも健やかなる日にも、死がふたりを分かつまで、愛し、いたわることを誓います」

一生で一番幸せな日です。その幸せは新婚生活の中でも続きました。結婚式の時、もうおなかに小さな赤ちゃんがいたのです。私は日に日に大きくなっていくおなかと赤ちゃんに、無上の幸せと少しの不安を感じていました。

6月の終わりに、赤ちゃんが産まれてから、私は少し変わりました。いいえ、随分変わったと思います。赤ちゃんを守るという名目で、周りに暴言を吐き、つらく当たり、睡眠不足と自分の時間のなさに、頭の中がぐるぐると悪いほうへ悪いほうへ回り始めました。

主人は子どもができたので毎日残業するようになりましたが、私は、それを浮気と信じ込んで、主人のお母さんに「離婚させてください」と土下座までしまし た。殺伐とした育児生活は続き、お正月に里帰りして、やっと一息つけるようになった途端……緊張の糸が解けて、私が重度のうつ病にかかってしまったので す。すぐに精神科に行きました。

そして、夜、睡眠薬を飲むと、朝まで起きず、寝ぐずった子どもが、泣き疲れるまで、2時間も3時間も、私のおっぱいの上にのぼって、泣いていたそうです。

里帰りが終わって、主人のもとに帰る日が来ました。きっと、元の生活に戻れる。そう期待していたのですが、私のうつは一進一退で、主人は毎日残業。私 は、このままでは子どもも私も参ってしまうから、もう一度里帰りさせてくれ、とお願いしました。主人は「できない」と厳しい顔で言います。「どうして」と 詰め寄ると、泣きそうな顔で「おまえたちがいないと、おれがうつになってしまうんだよ」と抱きついてきました。2人で、いえ、3人で、泣きました。わんわ ん泣きました。どこにも出口がない。解決方法がない。なのに、心を吐露し、泣いたことで、勇気がわいてきました。「もう少し、がんばってみよう」。うつが ひどくて、離乳食も作れず、毎日、ベビーフードでしたが、子どもは、ぱくぱく食べてくれました。主人も毎朝、キスをして「行ってきます」と言ってくれるよ うになりました。
うつは一進一退の中、『なぜ生きる』を読みました。子どもを産み、育てるために、今の私は生かされているんだ。苦しくても死んではいけないんだ、と悟りました。

数年後、子どもは発達障害がありながらも、毎日笑顔で元気に保育園に通うようになりました。主人はリストラされましたが、再就職が決まりました。元の会 社は間もなく倒産しました。私はうつがとてもよくなり、子どもも保育園に通うようになったので、ヘルパーの資格を取って、働き始めました。

何もかも、うまくいき始めたような矢先、主人が「うつかもしれない」と言いました。仕事はやはり毎日残業で、土曜休みもほとんどありません。そして、 「仕事のミスが多いから、やめてくれ」と言われたそうです。私は、その日、いつもの精神安定剤を丁寧に飲んで眠りました。それでも、夜中にぱかぱか目が覚 めます。主人はほとんど眠れていないようでした。

主人も私と同じ精神科に通って、薬を服用するようになり、私は、主人に『忙しいパパのための子育てハッピーアドバイス』の最後の章を読んでもらいました。それは、お父さんが自殺した娘さんの手記でした。

読み終えた主人に、「生きててくれればそれでいいから」。私は言いました。

10月29日、結婚記念日の朝、私は、誓いの言葉を主人に言いました。

「富める日にも貧しき日にも、病める日にも健やかなる日にも、お互いに愛し支えます」。主人は「おれも同じです」と照れたように言って、仕事に出かけてい きました。もしかしたら、今日、主人は解雇されるかもしれません。でも、2人で、いえ、3人で生きていれば、幸せなことはこれからもたくさんたくさん起こ るに違いないのです。

「愛しています。心から」

忙しかったパパと、大好きな子どもに。

忙しいパパのための 子育てハッピーアドバイス

忙しいパパのための 子育てハッピーアドバイス

明橋大二(著) 太田知子(イラスト)