日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #130

  1. 人生

『徒然草』からの生きるヒント〜頼みにできるもの(徒然草 第211段)

読書には、いろいろな楽しみ方がありますよね。

以前読んだ本を取り出して、改めて読んでみるのも面白いです。
前とは違う発見や、受け止め方をしている自分に気づくこともあります。自分自身を見つめるキッカケになりますね。

今回ご紹介する『徒然草』は、読むたびに、感じ方が変わるな……と思う一段です。皆さんはいかがでしょうか。

木村耕一さんの意訳でどうぞ。

頼みにできるもの

(意訳)
この世のことで、頼みにできるものは、何一つありません。

愚かな人は、何かを深く頼みにするから、裏切られた時に、恨んだり、怒ったりするのです。

自分に権力や勢いがあっても、頼みにできません。強い者が、真っ先に滅ぶからです。

財産がたくさんあっても、頼みにできません。火災や地震などで瞬間的に消え失せるからです。

学問や才能があっても、頼みにできません。孔子(こうし)のような優れた人でも、時勢に恵まれず、どの国を巡っても職に就けませんでした。

人徳が身についても、頼みにできません。徳が高いことで有名な顔回(がんかい。孔子の弟子)の一生は不幸でした。

主君から信頼されていても頼みにできません。すぐに主君の気が変わって、罰せられたり、殺されたりするからです。

使用人が自分に従っているからといって、頼みにできません。自分に背いて、逃げていくことがあります。

他人の好意も、頼みにできません。必ず心変わりするからです。

約束も、頼みにできません。誠実さがある場合は少ないからです。

【原文】
よろずの事は頼むべからず。愚かなる人は、深くものを頼む故に、恨み怒ることあり。
勢いありとて頼むべからず。こわきもの、まず滅ぶ。
財多しとて頼むべからず。時の間に失いやすし。
才ありとて頼むべからず。孔子も時にあわず。
徳ありとて頼むべからず。顔回も不幸なりき。
君の寵(ちょう)をも頼むべからず。誅(ちゅう)を受くること速かなり。
奴(やっこ)従えりとて、頼むべからず。そむき走ることあり。
人の志をも頼むべからず。必ず変ず。
約をも頼むべからず。信あること少なし。
(第211段)

『徒然草』からの生きるヒント〜頼みにできるもの(徒然草 第211段)の画像1

(『月刊なぜ生きる』令和3年3月号「古典を楽しむ」 意訳・解説 木村耕一 イラスト 黒澤葵 より)

しばらくの間のこと

木村耕一さん、ありがとうございました。

初めてこの一段を読んだ時、「兼好さん、何一つ頼りにならないなんて、ひどいじゃありませんか。夢も希望もないじゃないですか」と思いました。

しかし生きていると、ウソをつかれたり、誤魔化されたり、裏切られて、苦しむことがあります。
思いどおりに振る舞う威勢のよい人をうらやましく思ったり、上司にうまく取り入って、世の中をスイスイと渡っていく人を「ずるいな」と悔しがったり……。
また、病気になったり、けがをしたり……。

そういう経験してから、この一段を読むと、受け止め方が変わっていました。

確かに、いろいろなものは「続かないな……」と知らされます。

威張っていて、苦手な人だなと思う人でも、しばらくの間のこと。
気が合う友だちと、ずーっと一緒にいたいと思っても、離れ離れになることもあります。
親子、夫婦、兄弟でいられるのも、しばらくの間なんですね。
そうと知ると、1つ1つの出会いを大切にしたいと思いました。

兼好さん、生きるヒントをありがとうございます。

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