日本人なら知っておきたい 意訳で楽しむ古典シリーズ #73

  1. 人生

『徒然草』からの生きるヒント 〜この恋だけは、真実だと思っていました(徒然草 第26段)

桜の花と日本人

桜が咲き始めました。ウキウキしてきますね。
桜の花と日本人は、古くから、つながりがあるようです。
『徒然草』には、「満開になった桜」に「恋心」を重ねた一段がありました。
木村さんの意訳でどうぞ。

この恋だけは、真実だと思っていました

(意訳)
満開になった桜は、風に吹かれると、すぐに散ってしまいます。

人の心に咲く花は、桜よりはかなく、移り変わると知ってはいましたが、この恋だけは真実だと思っていました。
私の心に、優しく、温かく伝わってきた、あの人の言葉は、今も、一つ一つ、よみがえってきます。

でも、いつまでも一緒にと思っていたのは、私だけだったようです。
あの人は、私の手の届かぬ所へ嫁いでいってしまいました。

これも、世の習いとはいえ、死別したよりも悲しい思いがするのを、どうにもできないのです。

(原文)
風も吹(ふき)あえずうつろう人の心の花に、なれにし年月を思えば、哀(あわれ)とききし言の葉ごとに忘れぬものから、我が世の外になりゆくならいこそ、なき人の別(わかれ)よりもまさりて悲しきものなれ。(第26段)

『徒然草』からの生きるヒント 〜この恋だけは、真実だと思っていました(徒然草 第26段)の画像1

(『こころ彩る徒然草』木村耕一著 イラスト 黒澤葵より)

小野小町の名歌と兼好さん

──木村さん、ありがとうございました。『徒然草』にこんな段があったとは、意外でした。
兼好さんは、「思いどおりに生きた人」だと思っていましたが、恋に破れたこともあったのでしょうか?

木村:
はい、兼好さんにも、悲しい失恋があったのですね。
恋を「人の心に咲く花」に例えるなんて、すてきな男性だと思います。

胸が焼けるような切なさを感じた時に、小野小町の名歌、

「色見えでうつろうものは 世の中の人の心の花にぞありける」(古今和歌集)

を思い出したのでしょう。

この一節を、自分の文章に織り込んでいます。

目に見える花よりも、人の心に咲く花のほうが、はかなく散りやすい……と、小町が、悲しくささやく声が聞こえてきそうです。

──そうですね。「人の心に咲く花は、はかなく散りやすい……」。
小野小町も兼好さんも、恋した人を、満開の桜に重ねて見ていた、その切なさが、伝わってくるようです。
複雑な感情は、桜のはかない姿と合うのかもしれません。
今年は、一味違うお花見になりそうです。

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『徒然草』からの生きるヒント 〜この恋だけは、真実だと思っていました(徒然草 第26段)の画像2

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