感動を与える名演説の陰には人知れぬ努力があった

一分の原稿に一時間かけるルーズベルト

 演説のうまさで知られるルーズベルトは、アメリカの大統領に、異例の四選を果たしている。名演説の秘訣は、何だったのか。

 ある日、突然、
「明日の歓迎会で、大統領に演説していただきたい」
という依頼が舞い込んだ。
 秘書官が、
「どうなさいますか」
と尋ねても、ルーズベルトは即答しない。
「明日の演説まで、あと何時間あるかね」
「二十時間です」
 彼は、しばらく考えて、
「十五分くらいなら引き受けてもいい」
と、答えるのであった。

 なぜ、「十五分くらいなら」と言ったのか。
 ルーズベルトは、どんな短い話をする場合でも、必ず原稿を書いて臨んでいた。いかに分かりやすく、感銘を与える内容にするか。何度も推敲して書き直すので、一分間の原稿に、最低でも一時間はかかった。
 原稿の執筆に十五時間、休養に五時間という計画を立てたのであった。
 彼は、引き受けるや、一切の面会を断り、夜通し執筆に専念した。
 そして、翌日の演説では、いつものように、聴き入る人々に、深い感動を与えたという。

 雄弁家として名高いウィルソンにも、こんな逸話がある。
 ある人が尋ねた。
「あなたの演説は、とても評判ですが、準備に、どれくらい時間をかけられるのですか」
「それは、演説の長さによります」
「では、議会での長時間の演説は、大変でしょう」
「いや、そういう意味じゃありません。
 五分間の演説の準備に、最も時間をかけます。二週間は必要です」
「……」

 
ウィルソンは、続けた。
「三十分の演説ならば、準備に、一週間くらいかかります。
 もし、何時間でも、好きなだけ話をしてもいいと言われれば、準備はいりません。今すぐにでも始められます」
 短い話のほうが楽なように思いがちだが、彼は、まったく反対だった。
 演説が短ければ短いほど、時間をかけて題材を厳選し、話の流れ、言葉遣いを研究する。
 そこまでの準備がなければ、人の心を動かす話など、到底できない。まさに身を削るような作業を続けていたのであった。

 多くの人々から拍手喝采を受ける演説は、決して才能ではなく、人知れぬ努力から生まれたのである。

*フランクリン・ルーズベルト(1882‐1945)アメリカ合衆国32代大統領。
*ウッドロー・ウィルソン(1856‐1924)アメリカ合衆国28代大統領。
(『新装版 こころの道』p.168-170 編著:木村耕一)

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