目先に一喜一憂しては、遠大な未来を見とおせない

 イタリア、オーストリアと戦い、連勝のナポレオンが凱旋した。
 イルミネーションや旗行列、たいまつや鐘、祝砲など、国民の慶賀は、その極に達する。
 部下の一人が、うやうやしく祝辞をのべた。

「閣下、このような盛大な歓迎を受けられ、さぞ、ご満悦でありましょう」

 意外にもそのとき、ナポレオンは、冷然と、こう言っている。
「ばかを申すな。表面だけの騒ぎを喜んでいたら大間違いだ。彼らは、少しでも情勢が変われば、またおれを〝断頭台に送れ〟と言って、やはり、このように騒ぐだろう。雷同の大衆の歓迎など、あてになるものか」



 幕末の剣客で名高い千葉周作が、ある晩、二、三の門弟を連れて、品川へ魚つりに出かけた。
 松明を照らして、沖へ沖へと魚を求めてゆくうちに、方角を見失ってしまった。

 どちらが陸か。
 さすがの周作先生も、ろうばいして、多くの松明をどんどん燃やさせ、四方をうかがうが、まったく見当がつかない。
 あせりながら海上を、さまよううちに、たよりの松明が尽きた。

 いよいよこれまでかと観念した。ところが、よくぞ言ったもの。
〝窮すれば転ず、転ずれば通ず〟あたりが真っ暗になるにつれ、闇の中にくっきりと、濃い陸地の影が見えてきたではないか。
 一同、歓呼の声をあげた。

 後日、周作が、その体験を知人の漁夫に話すと、ニコニコしながら、こう言ったという。
「先生らしくもないことです。松明で陸は見えませぬ。松明は足元を照らすもの。遠いほうを見るときは、かえって、その光がじゃまします。そんなとき私たちは、ワザと松明を消すのです」
 松明にたよっている間は、遠い陸地が見えないのだ。

 目先に一喜一憂していては、遠大な未来を見とおすことはできないのである。

(『新装版 光に向かって100の花束』p.129-130 著:高森顕徹)

『新装版 光に向かって100の花束』書籍紹介

『光に向かって100の花束』は、今日まで多くの人に愛読され、66万部突破のロングセラーとなっています。
 古今東西の、失敗談、成功談などから、元気がわくエピソードを集めた100のショートストーリー集。
 1話3分で読める気軽さで、面白いだけでなく、人間関係、仕事の悩み、子供の教育、夫婦仲など、人生を明るくするヒントにあふれています。

『なぜ生きる』書籍紹介

子供から大人まで、多くの人に勇気と元気を与えている書籍です。
発刊から20年たった今でも多くの方に読まれています。
忙しい日々のなか、ちょっと立ち止まって、「なぜ生きる」、考えてみませんか?
『なぜ生きる』のお求めは、お近くの書店や、弊社まで(TEL: 03-3518-2126)
お問い合わせください。

話題の古典、『歎異抄』

先の見えない今、「本当に大切なものって、一体何?」という誰もがぶつかる疑問にヒントをくれる古典として、『歎異抄』が注目を集めています。

令和3年12月に発売した入門書、『歎異抄ってなんだろう』は、たちまち話題の本に。

ロングセラー『歎異抄をひらく』と合わせて、読者の皆さんから、「心が軽くなった」「生きる力が湧いてきた」という声が続々と届いています!

目先に一喜一憂しては、遠大な未来を見とおせないの画像1

目先に一喜一憂しては、遠大な未来を見とおせないの画像2