1万年堂出版が開催した
読者感想文コンクールの
入賞作品の一部をご紹介します。

銅賞

『思春期にがんばってる子』を読んで

佐久間智美さん(20歳・神奈川県) 一般の部

新聞の中にこの本の広告を見つけた時、私は今までずっと探し求めていたものにやっと出会えたかのような気持ちになった。心の時代とも言われる現代には、癒しや自己啓発など「心」をテーマにした本があふれている。その中で私も助けを求めて手当たり次第、様々な本を読んできた。しかし、私の心の叫び声に答えてくれる本はなく、1冊読み終わる度に物足りなさを感じていた。そんな中で見つけたこの『思春期にがんばってる子』、私は迷わず手に取り、そして一気に読み終えてしまった。私はこれほどまでに自分の気持ちがそのまま表されている本は他にないだろうとさえ思った。

「傷ついている人や、疲れている人に、『がんばれ』『甘えるな』などの毒性の強い言葉は、禁句です」
これは私が、私の両親に一番分かってほしいと思っていることであった。私は現在、社会不安障害と呼ばれる神経症の1つと闘っている。私の支えは病院から出される薬とカウンセリングの2つだけである。私は人と関わること、人前に出ることを苦手とし、このような状況に置かれると強い不安を感じる。だから今は主に家族としか接することのできない生活を強いられている。

毎日何とはなしに生活しているが、心の中には生きていることへの疑問、自分という存在を否定する気持ちなどがいつでも渦巻いている。私はどんな時でもそれなりにがんばっている。がんばって生きている。それなのに両親は私のことを「怠けている」「逃げている」「おまえは弱い」と言う。さらに「うちではこんなに甘やかしているのにこれ以上一体何が不満なの?」とも言う。

私はこのような言葉を聞く度に打ちのめされてしまう。生きているだけでも精一杯なのにこれ以上何をどうがんばればいいと言うのか、私には分からない。なぜ今のままの私を受け入れてくれないのか、なぜ私の存在を否定するようなことばかり言うのか、考えれば考えるほど怒りというよりも悲しさを覚える。「がんばれ」「甘えるな」と言う前に、私の置かれている状況をもう一度考えてほしいと思う。そして、それができないのなら、せめてそのような言葉は使わないでほしいと思った。

私はこの本を両親に自ら読んでほしいと思った。両親が私の気持ちを本当に知ろうとしているのなら、この本のような思春期の子供の気持ちを書いた本を自ら探して読むはずだと私は考えたのである。しかし残念なことに私の両親は自分から動こうとしなかった。耐えかねた私は、母にだけはこの本を読むことを薦め、本を託した。私はこの本を読むことで少しは母が変わってくれればと期待していた。

実際にこの本を読み終えた後で、母は少し変化したように私には感じられた。と言うのも「ありがとう」「ごめんね」などの言葉を惜しむことなく、私に対して使うようになったのである。家事を手伝った時には「ありがとう」、約束通りにならなかった時には「ごめんね」。母はそう言うようになったのである。「ありがとう」や「ごめんね」は人として最も基本的で、大切な言葉である。だからこそ、この言葉を惜しまずに使ってくれるということは何よりもうれしいことであった。「ありがとう」と言ってもらえると、私はここにいていいのだなと自然に思えるようになる。そう思えることが、不安定な思春期の私たちには必要なことなのだろう。

私はこの本を読んで、苦しみやつらさを分かってくれる人は必ずいるのだなと思った。人は何かでつまずき、そこから抜け出せなくなると「自分は1人だ」「この苦しみを分かってくれる人はいない」と思いがちであるが、必ずどこかに自分の味方になってくれる人がいるのではないだろうか。その味方になってくれる人は、時には自分の身近な人であったり、時にはこの本のように少し離れた所にいたりと様々かもしれない。けれども、必ず分かってくれる人はどこかにいる。私がそう思えるようになったのは、もちろんこの本に出会えたからである。

この本に出会えたことは、私にとって最高の贈り物となった。いつの日か自分の力で社会に出て行けるように、1日1日を大切に生きていこうと思った。

見逃さないで! 子どもの心のSOS 思春期に がんばってる子

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明橋大二(著) 太田知子(イラスト)