運命をめぐる遥かなる物語 #10

  1. 人生

【連載小説】運命をめぐる遥かなる物語⑩~出発の国編(最終回)

平凡な中学生の少女が、大切な「何か」を探すため、遙かなる旅に出る物語。
事故で母親を亡くした知子の前に、ある日突然、ソラと名乗る美しい女性が現れる。
理不尽な運命に心を押しつぶされそうな知子の手を取り、向かった先は――。
運命とは?生きるとは?
現代社会を象徴するかのような、不思議な国々をめぐりながら、その謎に挑戦する冒険が、今、始まる!

前回までのあらすじ

最初の「貧しい国」は、全ての罪が金で購えるシステムにより、悪いことをし放題の「心の貧しい人たち」が巣食う国だった。
次の「科学の国」は物質や肉体の研究にのみ囚われ、「本当の私とは何か」を見失っていた。
3番目の「呪われた国」は、不幸はみな宿命とあきらめ原因を省みようとしない、その名のとおり不幸が連鎖する国。
そして次の「歓楽の国」では、ソラの幼馴染カレスが「人生は先の心配をせず、楽しむべきだ!」と主張していた。
自らの正義を貫くためには他の犠牲も厭わない、恐ろしい「正義の国」を後にしたトモとソラは、哲学が盛んな「懐疑の国」を経て、「自由の国」へ。そこは自由とは名ばかりの、自由に囚われた国だった。
ついに、亡き母の生き返りを願った「不死の国」で大事なことに気づいたトモは、ソラと別れ、一人次の国へと向かう。

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第10話 次の国へ

ソラと別れ、知子は歩き出す。
渡されたメモには何も書いていないが、不思議と不安は感じなかった。

(…あれ、雨かな)

しばらくすると、知子は顔を叩く水滴に気がついた。
フードをかぶり、空を見上げる―風があるのか雨雲の動きが速く、中途半端に晴れ間が見える。

(これならすぐに晴れるかな。どこかで鳥の鳴き声もするし)

風や動物の動きを読んで天気を予測する。これも旅で学んだことだ。

「―たの?佐藤さん、傘もささないで」

そのままぼんやりと感傷に浸っていると、誰かに声をかけられた。
驚いて振り向くと懐かしいクラスメイトの顔だ。

クラス内でのグループが違うため、あまり話したことのない彼女だが、さすがに顔と名前くらいは知子も記憶している。

「え?高橋さん!?どうして…ええっ?」

この突然の再会に知子は混乱し、取り乱してしまった。
その様子を見たクラスメイトの高橋さんは怪訝な表情だ。

「傘、忘れたなら貸してあげるよ。いつも折りたたみがカバンに入ってるから」
「あっ!カバン!?」

知子があわてて確かめると、スクールバッグはいつものまま。
中身も教科書がキチンと入っている。
手元にあるメモを再確認すると、どうしたことかソラの文字は全く見覚えのない外国語(?)になっていた。

(えっ、これは…どういうこと?元の世界に戻ってきたの?)

周囲は見なれた景色。
やや郊外の住宅街にアスファルトで舗装された道。
驚いたことに知子は制服も着込んでいた。

「…なんで私、こんなトコに?ここが、次の国なの?」
「ちょっと佐藤さん、大丈夫?気分でも悪いの?」

高橋さんは知子を気づかい、顔色をうかがうような表情を見せた。
傘を貸してくれようとしたり、なにかと世話焼きな性格なのかもしれない。

「ゴメン、ちょっと記憶が混乱してるかも…気分も悪くて」
「本当に顔色悪いよ。体調悪いなら帰ったほうがいいと思うけど」

さすがに登校する気分にはなれず、知子は傘を借り、そのまま家路につくことにした。
登校する生徒たちから逆流する知子は目立つらしく、生徒たちからは好奇心や不審の視線を感じる。なんだか居心地が悪い。

(高橋さん、親切な人なんだ…なんで今まで話さなかったんだろ)

記憶をたどり、つまらないことを思い出した。
知子が仲良くしているグループの誰かが、他のクラスメイトに陰口を言われたとかナントカで高橋さんのいるグループと疎遠になっていたのだ。

(そんなつまらないこと…ソラが見たらどうするかな。怒り出すかな?ううん、鼻で笑うかも)

借りた赤いチェック柄の折りたたみ傘を見て、知子は軽くため息をつく。
高橋さんは心配して「先生には言っておくから」とまで言ってくれたのだ。
人から聞いた話だけで判断し、仲間外れにされたくなくて『なんとなく』距離をとっていた自分がたまらなく恥ずかしくなってきた。

(私は自分で何も考えてこなかったんだ。ただ、周りの雰囲気に流されて、変に目立ちたくなくて、空気を読もうとばかりして)

◆◆◆◆◆◆◆

久しぶりの家までの道。
何週間、何カ月…下手したら1年以上も歩いていない道なのに、ハッキリと覚えている。
ポストのあるコンビニ、いつも吠えてくる犬、全てが記憶のままだ。

(帰る、帰れるんだ、家に)

先ほどの件で知子の気分は沈んでいたが、やはり家に帰るのは楽しみだった。
つい、いつもより足の運びが速くなる。

15分ほどかけて家に戻り、カギを開けて中に入ると、そこには父の靴があった。

(父さん、いるんだ…。そうか、夜勤明けで寝てるのか)

父に会いたい気持ちもあったが、知子はそれを抑えて自室に戻る。
ドアを開けると、つい「私の部屋だ」と声が漏れた。

中途半端に開いたままのふすま、スリープのままになっていたパソコン。
全てがあの日のままである。

知子は制服のまま押し入れから布団を引っ張り出して倒れ込む。
その枕やマットレスの柔らかさに驚いた。
旅の途中では何度も野宿を経験したし、硬い板間で眠ることもあったのだ。
自分の使い慣れた布団は肌触りもよく、嫌な臭いもしない。

(こんなにいい布団で寝てたんだ。旅をしなくちゃ気づかなかったな…)

もちろん、享楽の国や正義の国のベッドも素晴らしかったが、それ以上に『我が家』という安心感がある。

(でも、ここは次の国なんだよね。私は何かを見つけなきゃいけない)

安心感と旅の疲れか、知子は強い眠気を感じた。
寝れる時に寝る、これも旅で学んだことだ。

雨もあがったのか、窓の外でチチチと鳥が鳴いた。

(あ、制服…シワになる…)

この思考を最後に、知子は眠りに落ちていった。

◆◆◆◆◆◆◆

夕方、目が覚めると父の姿があった。
どうやら夕飯の支度をしてくれたらしい。

「知子、体はいいのか?学校から連絡があってね、驚いたけどよく寝ていたからそっとしておいたんだ。夕飯は食べられるか?」
「そうなんだ…。ただいま、お父さん」

どうやら高橋さんは先生に連絡をしてくれたらしい。

「うん、お帰り。気づけなくて悪かった」
「ううん、お父さんが起きないように入ったから」

知子からすれば万感の想いを込めた『ただいま』であったが、父に変わった様子はない。

(やっぱり、旅に出た日のまま…?なのかな?だとしたらあの旅は夢?)

しかし、夢にしてはおかしな部分もあるのだ。
たしかに持っていた傘がなくなっていたし、なにより日本に戻ってきてから読めなくなったメモ。
これはあの世界からの唯一の物的証拠だ。

(どういうことなんだろう?これだって、本当にあの世界のモノかって言われると…証明できそうもないよね)

どれだけ考えても結論は出そうにない。

あまり父を待たせても心配されてしまう。
知子はいったん思考を止め「食べれそう」と返事をしてテーブルに着く。

ほどなくして父が夕飯を用意してくれた。
コロッケ、ポテトサラダ、みそ汁にご飯。特別なことのない、当たり前の夕食だ。

「ありがとう、いただきます」

挨拶をしてハシをとる。
思えばハシも久しぶりの気がした。

「知子も疲れが出たんだろう。あまり無理をしないようにしてくれよ」
「ううん、本当になんというか…今朝はちょっとおかしくて」

まだまだ思考はまとまらないが、しっかりと休んで知子は落ち着きを取り戻していた。
観察をし、父との会話に意識を傾ける…記憶の父と、目の前の父、特に差異は感じられない。

「―でね、高橋さんが傘を貸してくれて」
「ふうん、傘も差さずにねえ」

父が用意した夕飯は、近所の商店街で購入したお惣菜を並べただけのものだ。みそ汁もお湯で溶かすだけのインスタント。
旅に出る前の知子がウンザリしていた食事―だが、今の知子にはそれすらも懐かしい思い出となっていた。

「あまり続くようなら医者に診てもらったほうがいいかもな。いや、その…無理強いをするわけじゃないけれど」
「ううん、ありがとう。自分じゃよく分からないけど、続くようなら相談するよ」

こうしてみると、父がいかに知子に気を遣っているのかよく分かる。
大切な人を亡くしたのは父も同じ、自分も大変なのに知子を励まし、弱さを見せないようにしていたのだろう。

(それなのに私は自分のことばかりで…なんでお父さんの気持ちを考えてあげられなかったんだろ)

情けなくて、涙が出そうだ。
旅で色々な人と出会い、触れ合った経験は知子に様々なことを教えてくれるようだった。

「どうしたんだ?やっぱり具合が良くないのか」
「ううん、なんでもないよ。私さ…明日、高橋さんにお礼を言わなくちゃ」

その後も父との会話は気づきの連続だった。
いかに自分が恵まれていたか、助けられていたか、何度も気づきハッとしてしまう。

(バカだったな。私は、独りぼっちじゃなかったんだ)

以前の知子は『自分は不幸だ』と思い込むことで周囲が見えなくなっていた。
思い込みで自分の殻に閉じこもり、自分のことしか考えられなくなっていたのだ。

食事を終え、父が「知子とこんなに話したのは久しぶりだ」と複雑な表情を見せた。
きっと、鏡を見たら知子も複雑な顔をしていたに違いない。

◆◆◆◆◆◆◆

翌日から、知子は部活に顔を出すことにした。
ブランクのせいか、成績は伸びなかったが問題にはならなかった。
知子は『今できること』を考えて、できることから始めたのだ。

また、先の件で親しくなった高橋さんを通じて新しい友人もできた。
元のグループには露骨に嫌な顔をする者もいたが、今の知子には気にもならない。

『ソラだったら、どうしただろう?』

そう考えると、今まで怖かった一歩を踏み出せる勇気となった。
あいかわらず仲間はずれやイジメは怖かったけれど、あの旅で突きつけられた銃口と比べればなんてことはない。

『あの旅では信じられないような冒険もしたんだ』

その経験が、知子を支える背骨になっている。
くぐりぬけた数々の冒険が、知子に『頑張ればできるかもしれないこと』を教えてくれた。
それは多くのチャレンジに繋がり、毎日が忙しくなった。

「トモって何か変わったね」
「元気なくてさ、みんな心配してたのに急に大人になった感じ」

部活帰り、友人たちがそんなことを口にする。
それはそうだろう。知子は彼女たちの知らない間に何カ月も旅をしたのだ。

(さすがに言えないけどね)

知子は「色々吹っ切れたかも」とクスリと笑う。
それを聞いた友人の一人が「何それ!?ヤバくね?」と大げさに驚いた。
何がヤバいのか知子に意味は分からないが、とにかくおかしくて一緒に笑ってしまう。
友人との会話も、いつの間にか自然に笑えるようになってきた。

賑やかに歩いていると、いつも食材やお惣菜を買う商店街の精肉店が目に入る。

「あ、ゴメン。先に行ってて、夕飯の買い物しなきゃ」

友人たちに断ると「あ、私もハムカツ食べよ」などと数人がくっついてきた。
部活帰りの買い食いは校則で禁じられているが、お店もかたいことは言わない。

「えっと、どうしようかな…」
「知子ちゃん、今日はかしわ(鶏肉)がオススメだよ」

すっかりと顔なじみになったお店のオバさんが声をかけてくれた。
確かに普段より若干安い。
今では知子が食事を用意することも増え、こうして食材も購入するのだ。

旅から帰ってきた知子から見れば、日本のキッチンは機能的で驚くほど便利だった。
調味料も豊富で料理も簡単に作ることができ、サッと用意するだけで父も喜んでくれる(ただ、ワイルドな料理だね、とはよく言われる)。

(考えてみれば、この鶏肉も生きてたんだよね。肉になってるとこしか見ないけど、間違いなく生きてた鶏なんだ)

鶏肉を見て、ついそんなことを考えてしまう。
初めてソラが鳥をさばいたのを見たときは目を回した知子だが、それがなければ『鶏肉』は『鶏肉』の姿しか知らず、生きていたことも想像できなかったはずだ。
それは便利だけど、何となく不自然なことの気もする。

ソラはよく『善いことすれば善い結果が、悪いことすれば悪い結果を招くだろう』と言っていた。

(他の動物を殺して肉を食べる、これは悪いこと?)

それはまあ、悪いのかもしれない。
だが、あの日…知子が帰ってきた日に父が出してくれたコロッケはどうだろう?
あのコロッケだって肉は入っていた。
だけど、娘のために忙しい父が夕飯を用意してくれるのは悪事だろうか?

(そうじゃない、悪くない…はず)

何が善で、何が悪か。どれだけ考えても答えは分からない。
だけど『自分が悪いことをしているかもしれない』と考えるのは、とても大切なことかもしれないと知子は感じていた。

鶏肉を買い、友人たちと別れて帰宅をする。
父は夜勤でいないため、知子はテレビを見ながらソテーした鶏肉を食べた。

なんの気なしでつけた報道番組では、今日も様々なニュースが流れている。
外国で起きた大規模なデモ行進、貧困に苦しむ母子家庭、遠い県で起きた殺人事件や、災害での長びく避難所生活。
有名なアイドルが飲酒運転なんてものまである。

いつもなら聞き流すか、つかの間、心を痛める程度の『ありふれたニュース』ばかりだ。
でも、それらは知子に『考えるきっかけ』を常に与えてくれる。

(自分で考えるのが大切なんだ。今は分からなくてもいい)

世の中は自分のチカラではどうしようもないことで満ちあふれている。
だけど、考えることはできるのだ。

「そうだ、ここは『次の国』なんだ。私はここで見つけなくちゃいけないんだ」

そう、知子は約束したのだ。
あの不思議な世界の友人と。

「そう、まずは今!できることから始めなくちゃ」

知子は立ち上がり、食器を洗う。
今は何を探しているのか、それすらも分からない状態だ。
だけど一生懸命に生きれば答えに近づける気がする。

「運命は決まってない!切り開けるはずなんだ!」

これはこの冒険で手に入れた『知子なりの答え』の一つなのだ。

◆◆◆◆◆◆◆

それから、もう何年も経った。

中学生だった知子も大学生となり、20才となる。
知子は隣の県で一人暮らしを始め、それなりに充実した学生生活を送っていた。

あの旅のことは忘れたことはない。
だけど、いつの間にか記憶から色が抜け、思い出はセピア色になっていた。

(なんだか懐かしい風景だなあ)

母の七回忌の日、知子は久しぶりに夢を見た。
そこはどこか見覚えのある、広い広い草原。
そこでパジャマのままたたずむ知子はとても奇妙に違いない。

「や!」

ひどく雑な挨拶をする女性がいる。
背が高く、赤い髪が印象的な美しい女性だ。

「ソラ!久しぶりだね!」
「ああ、覚えていてくれたか。また迷ったのかい?それとも答えが見つかったのかな」

もう何年ぶりか、久しぶりの再会だというのにソラに変わった様子はない。
まるで先週会ったような軽い挨拶だ。

「どうだろうな、答えは見つかってないような…。でも、あの旅の意味は分かってきたんだ」
「ふうん、どんな?」

ソラはお手並み拝見とばかりにニヤニヤとしている。
この挑戦的な態度も変わらない。

「ソラはいつか言ったよね、『よく生きる』って。何が善くて、何が悪いのか…。私には難しいけど、自分なりに頑張ってるんだ。よく生きるために」
「自分なりに、よく生きるか」

ソラは知子の答えを笑わず、頷きながら聞いている。

「でも、よく分からないことばかりなんだよね。何を探しているのか、それすらも分からなくなる時もあるし」
「そりゃ誰でもそうさ。でも自分なりに答えを出したアンタは立派だよ。出した答えが変わってもいい、自分で考えて、見つけることが大切なんだ」

ソラに褒められると、なんだか昔に戻ったようだ。
残念ながら小柄な知子の背はあまり伸びず、視点がほとんど変わらないのも一因だろう。

「運命は切り開けるのさ、間違いなく。今のトモなら必ず見つけられるはずだよ。生きる意味をね」
「…うん、そうだね。とても難しい。だけど、いつか見つけるよ。それでまた会いに来る。次の答えを聞いてもらうために」

ソラは知子の言葉を聞き「楽しみだ」と歯を見せて笑った。
それはまるで少年のような、知子の好きな笑顔だ。

遥かなる物語

それから、知子はソラと時間が来るまで話した。
何しろ数年ぶりなのだ。話題が尽きることはない。

特に知子がバイトをして買ったバイクの話になるとすごく盛り上がった。

「大学は不便なトコでさ。無難なビッグスクーターだけど、荷物がたくさん乗るのが気に入ってるんだよね」

本当はサイドカーが欲しかったけど、日本の道路事情や予算を考えると諦めざるを得なかった。
でも、今ではなくてはならない生活の足、大切な相棒だ。

「ふうん、いいじゃないか。次の旅はツーリングも悪かない」
「あ、それはいいね。景色がいいところに行きたいな」

何ともない会話。
だけど大切な次への約束だ。

「じゃ、また」
「うん、またね」

◆◆◆◆◆◆◆

そこで知子の意識は覚醒し、実家の布団で目が覚めた。

この夢はなんなのか、別の世界なのか、自分の想像が創り上げたものなのか。
同じような体験をした人がいるのか自分なりに調べたが、どれもイマイチしっくりこない。
邯鄲(かんたん)の夢というのが近い気もしたが、それだって違うものだ。

(分からなくてもいいんだ。私は自分で考えて、答えを見つけるんだから)

出勤前の父が用意してくれた朝食を共にとり、後片づけをする。
父は悪がったが、会社員よりも大学生のほうが時間に余裕はあるし、このくらいは当たり前だ。

「知子は変わったな、立派になった。今の姿を母さんにも見せたかったよ」
「うん、私もお母さんとはまだまだ話したいことがたくさんあったけどね。心配かけないように頑張らないとね」

父は嬉しそうな、寂しそうな、複雑な表情だ。
知子が帰ってきたあの日に見た、あの表情だ。
きっと、知子も同じ表情に違いない。

父を見送り、知子は母の遺影の前に座った。
七回忌のために用意した仏花はまだ瑞々しい。

「お母さん、ソラにまた会えたよ。考えてみたら、あの旅はお母さんがくれたものの気がするんだ…だから、ありがとう」

もちろん、答えは返ってこない。
遺影の母は穏やかに笑ったままだ。

「行ってきます。次の答えを探しに。またね、お母さん」

遺影の母に別れを告げ、玄関を開ける。
季節は梅雨入り前、春の陽気は暑いほどだ。

「運命は、切り開ける。きっとね」

見上げると透き通るような晴天。
一つだけ、はぐれ雲が浮かんでいた。

運命をm

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