人間ドックや健診で、健康が確認できると安心できます。
けれども「異常の疑い」とチェックが入っていたらどうでしょう。「何にも症状はないし、忙しいし、まあいいや」ですませていませんか。
人間ドックや健診の目的は、軽いうちに病気を発見して重い病気にならないようにすることです。
糖尿病網膜症を例に、せっかくの健診がムダになっていないか確認しましょう。
糖尿病でどうして失明するの?
糖尿病網膜症で失明される方は、随分少なくなりました。
1990年には成人の失明原因の第1位でしたが、2001年から2004年の間では緑内障が1位となり、2007年から2010年にはさらに減って、糖尿病網膜症による失明は全体の15.6%となりました。
つまり糖尿病は、予防と早めの治療によって失明せずにすむ病気です。
けれども、いまだに視力が随分悪くなってから受診される糖尿病患者さんにちょくちょく出会います。
「前から片目が見えなかったんだけど、見えていたほうの目が昨日突然見えなくなって」とようやく受診。
「いつから糖尿病といわれていますか?」と尋ねると、「10年前から毎年、健診で糖尿病の疑いといわれている」とのこと。
どれどれと診察すると、左目の網膜症はかなり進行していて、黄斑部という視力を担当する網膜の大切な部分にまで病気が及んでいます。
右眼では多量の眼内の出血のために目の中がどうなっているか確認も難しい状態でした。
幸い、出血を取る手術で右目の視力は回復されましたが、左目の視力は戻ってきません。網膜そのものが傷んでしまっていたからです。
時間は戻せません。
医学は進歩していて網膜再生の研究も進んでいますが、今のところ壊れてしまった網膜を、車を運転できるくらいの視力に治す治療は、残念ながらないのです。
糖尿病と糖尿病網膜症の関係
目に症状が現れるまでは何年もかかる
糖尿病になっていても、体重が減ったり、やせたり、のどが渇いたりという症状がすぐには出ない場合もあります。
また糖尿病は失明するおそれのある病気ですが、糖尿病になってから目に異常が現れるには何年もかかります。
しかも検査で分かる異常が現れてから、実際に見えにくい症状が現れるまでに、これまた何年もかかるのです。
また見えにくくなるのも、急に見えにくくなる場合とゆっくり見えにくくなる場合があります。
両眼同じように少しずつ視力が落ちていると、気づきにくいのです。
運転免許のある方は、免許更新のときに視力検査がありますが、運転されない場合、視力がかなり悪くなっているのに気づかないこともあります。
「糖尿病が見つかって教育入院を受けた」「教育入院を3回やった」と自慢される方もあります。
「失明するぞと脅かされたけれど、何ともないのに病院に行くのがおっくうで」
「仕事が忙しくてそれどころでなかった」
確かに元気で仕事をされているときは、それどころでないと思われるお気持ちよく分かります。
糖尿病になって、症状が現れるまでに何年もかかることは「症状がないし、まあいいか」と思われる原因でもあります。
だからこそ症状がないうちに健診で異常が発見されたときに、きちんと治療を受けられれば、症状が現れる前に食い止めることができるのです。
健診で指摘されたら精密検査を
健診で初期の糖尿病を見つければ、その時点でしっかり治療することで、糖尿病によるいろいろな症状が出る前に防ぐことができます。
内科で治療を受けながら、年1回くらい、目の検査を受けておけば安心です。
健診の受けっぱなしは、そのチャンスを無にする非常にもったいないことになります。
健診で異常を指摘されたら、しっかり精密検査を受けて必要な治療を受けましょう。
また主婦の方の中には、子育てや家事で忙しく、そもそも健康診断を受けていないという方もいらっしゃると思います。
しかし取り返しがつかなくなる前に、健診の時間を確保されることを強くお勧めします。
まとめ
- 糖尿病になってもすぐに症状が出ないことがあり、さらに見えにくい症状が現れるまでは何年もかかります
- 症状がなくても健診での異常発見時に、放置せずにきちんと治療を受けましょう。
- 初期の糖尿病が見つかった場合、内科で治療を受けながら、年1回の目の検査を受けておくと安心です