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落第生を変えた1日30分の勉強法~資格試験に挑む社会人の皆さんへ

学生時代に限らず、社会人になってからも、資格取得のために勉強している方は多いと思います。

しかし社会人は仕事が忙しく、時間がなかなか取れません。いかに効率的に勉強できるかが合否を分けるといえるでしょう。

合格が難しいといわれる「技術士」の資格試験の中でも、特に難関の4部門に合格した花井広文さんは、大学時代、勉強が苦手だったといいます。

そんな花井さんが、なぜ難しい試験に合格できたのか。
忙しい中でもできる「1日たった30分」の勉強法をお聞きしました。

学生時代は授業についていけなかった

技術士は、科学技術分野で最高位の国家資格であり、高度な技術力を持った技術者の称号とされています。

ゆえに技術士を取得するための試験も難関で、単に記述や計算問題だけでなく、専門的な応用能力と、問題解決能力を確認する論述試験が重要視されています。

技術士試験は全部で21部門ありますが、部門によって難易度に違いがあります。

下記は、平成29年度の技術士試験(二次試験)の部門別合格率を、低い順に並べたものです。

受験部門-合格率

  1. 衛生工学- 6.6%
  2. 情報工学- 7.2%
  3. 総合技術監理- 9.8%
  4. 応用理学 -11.0%
  5. 上下水道- 11.9%
  6. 建設- 12.8%

全体の合格率- 13.3%
もちろん、合格率=難易度と単純には決めつけられませんが、合格率が低いほうが難しいと一般的にはいえるでしょう。

私はこのうち「衛生工学」「総合技術監理」「上下水道」「建設」の4部門を取得しています。合格率の低い上位6部門のうち、4部門の試験に合格しているわけです。

しかし私は、大学時代は勉強が苦手で、授業についてゆけず、2回も留年を経験しました。
そんな落第生だった私が、なぜ難関といわれる技術士を4部門も取得できるまでに至ったのか。

私がやってきた勉強法を、お伝えしたいと思います。

就職してからも低空飛行

私は大学では土木工学を専攻しましたが、応用力学、土質力学などの数学系の科目が苦手で、しばしば単位を落としていました。

理系のくせに数学が苦手なのは致命的で、次第にやる気を失い、2回留年してやっと卒業しました。

唯一、水環境に興味のあった私は、就職先は俗に「水コン」といわれる上下水道が主力の建設コンサルタントに入社し、下水道設計を行う部署に配属されました。

この会社では、課長以上の上司はほぼ全員が技術士を取得しており、自分もいつかは、と思っていました。

しかし毎日夜10時11時までの残業は当たり前。徹夜になることも珍しくない勤務状態で、勉強する時間など取れません。

生来の不器用さもあって仕事上の失敗も多く、公私ともに低空飛行が続きました。

『坂の上の雲』からヒントを得た“乱読・メモ式勉強法”

そんな私の趣味は読書でした。
歴史が好きで、特に司馬遼太郎の著作をよく読んでいました。

仕事に悩んでいた時、出会った小説が、『坂の上の雲』でした。

明治という時代を生きた青年たちの成長が、ダイナミックな歴史の流れとともに見事に描かれている、司馬遼太郎の代表作ともいうべき長編小説です。

その中で、私は、主人公の一人である海軍軍人の秋山真之が行っていた勉強方法に目がとまりました。
彼はのちに、日露戦争における日本海軍の作戦を立案し、日本海海戦を勝利に導いた天才的戦術家です。

秋山の勉強方法はシンプルでした。
彼は多読家で、古今東西のあらゆる分野の本を片っ端から「乱読」していました。

彼が特殊だったのは、どんな名著でも数行しか記憶しなかったことです。

気に入った文句は憶えてしまうか、書き抜いておき、あとは殻でも捨てるように捨ててしまう。
そういう名文句を記憶していて、報告書を書く時などにそれを思い出す。
「これが、真之の生涯を通じてのただ一つの文章修行法であった」と司馬遼太郎は書いています。

自分が学びたい分野への関心が強ければ、新聞や雑誌であっても、参考にできる文章が必ず見つかる、というのが彼の信念でした。

この『坂の上の雲』に記述されているエピソードにヒントを得て、私は以下のことを実行してみました。

自分の専門分野(下水道など)に関連する参考書や専門雑誌、新聞記事などの中から、興味・関心が持てそうな部分をコピーして、手持ちのカバンの中に入れておき、通勤電車の中で読むことにしたのです。

ちょっとした待ち時間や出張先でも読むようになり、気に入った言葉や、文章はその都度メモしておきました。

また、コピーした中で、重要だと思ったものは捨てずに、紙のままファイリングして、ときどき読み返しました。
自宅では一切、勉強はしなかったのです(実際、する時間も気力もない状態でした)。

最初の受験は失敗

そんなことを1年ほど続けた後、技術士試験に初挑戦しました。
上記のこと以外に、受験準備は一切しませんでした。

結果は、やはり不合格でしたが、意外にも手ごたえを感じました。
論文形式の記述問題はまったく歯が立たないだろうと思っていましたが、思いのほかスラスラと書くことができたのです。

「自分にとっては初めての受験だったが、1年間やってきたことが確実な効果になって表れている」「もう少し頑張れば自分も合格できるのではないか」と自信になりました。

その後、専門分野だけでなく、趣味で読んだ本や雑誌でも、感動した名文をメモして蓄積する、という習慣がついてきました。
これは後述しますが、その後の人生で、大いに役立ちました。

2回め以降から合格率は100%に

それから1年後、再び技術士試験を受験。ついに合格を果たしました。

先述の“乱読・メモ式勉強法”を続けたほかは、過去に出題された問題を参考にして、自分なりに考えた予想問題と回答を2問作成しました。

それが、2問とも、ほぼ同じ問題が実際に出題されたのです。

問題を見た時は、さすがに手が震えました。
実は、予想問題を考える手法も、『坂の上の雲』からヒントを得ました。これについても後で述べたいと思います。

その後、3回の技術士試験、1級土木施工管理の試験などを受験しましたが、すべて合格しました。
1回めを除いた合格率は、100%です。

勉強時間のほとんどが、通勤や出張などの移動時間中の「読書」でしたが、1日平均30分しかないとしても、1年間で200時間近くになります。
小さな習慣の積み重ねが、大きな結果につながることを実感しました。

要点以外は大胆に切り捨てる

先ほど、出題を予想する方法も『坂の上の雲』からヒントを得たと書きました。

天才的といわれる秋山真之の発想の特徴について、司馬遼太郎は、「物事の要点は何かということを考える」ことだと書いています。

秋山が実践した要点の発見法は、過去のあらゆる型を徹底的に調べることでした。

彼の海軍兵学校時代、期末試験はすべてその方法で通過しました。

授業で教えられた多くの事項を一通り調べ、次にその重要度の順序を考えて整理する。
その際、過去に出題された問題から教官の出題癖を加味して、重要でないと判断した部分は大胆に切り捨て、要点だけに精力と時間を集中しました。
その方法で、秋山は、卒業まで首席を通したのです。

人間の頭に上下などはない。要点をつかむという能力と、不要不急のものは切り捨てるという大胆さだけが問題だ。

と秋山真之は作中で言っています。

実はこれ自体が特殊な才能で、誰にでも簡単にできることではありません。
しかし私は「人間の頭に上下などない」という言葉に勇気づけられ、“自分にもできるかも!”と思ってしまったのです。

予想問題の作成が実力の底上げに

秋山真之の「要点の発見&問題予想法」を実践すべく、私はまず過去の技術士試験で出題された問題を収集しました。

今ならインターネットで簡単に入手できますが、この頃は書店で過去問集を探すのにも苦労したものです。
その過去問を、類似したものごとに整理すると、大まかな傾向が分かってきました。

例えば、大きな事件・災害(阪神大震災など)や、法律や技術指針などの改定があった翌年に、それに関連した問題が出ていました。
また、2年続けて類似した問題が出ることは、ほとんどありませんでした。

その傾向をもとに、2問の予想問題を作成し、試験直前はそれだけに集中して勉強しました。時間も能力も足りない中、それが精一杯だったということもありました。

それで前述のとおり、2問ともほぼ予想が的中し、合格につながったのです。

過去問を調べたことは、それ自体が勉強になり、実力の底上げに直結したことはいうまでもありません。
むしろ、的中したことよりも、そこまでに至った過程が重要だったのかもしれません。

余談ですが、この時の経験から、過去を徹底的に調べたら、未来が見えてくることも知りました。

またこの時、印象に残って憶えていたある名文が思い出されました。

過去の因を知らんと欲すれば現在の果を見よ。未来の果を知らんと欲すれば現在の因を見よ。

(過去の原因を知りたかったら、現在の結果を見なさい。未来の結果を知りたければ、現在の原因を見なさい)

これは2600年前の釈迦の言葉です。

この言葉には大変深い意味が感じられ、私が知らされたこととは、内容もレベルもまったく違っているかもしれません。
しかし、その後の人生の大きな教訓となったことは間違いありません。

足し算思考であきらめずにチャレンジ

最後に、もう一つ、名文を紹介します。今でも自分の大きな励みになっている言葉です。

智恵をふり絞り体を酷使し、その中で敵より茶一匙分でも多く考え働く、その積み重ねしかない

出典は忘れてしまいましたが、ある戦国武将のセリフとして出ていたのを書き留めておいた文章です。
わずか茶一さじ分でも積み重ねる。これは究極の「足し算思考」でしょう

技術士2次試験は、真夏に長時間に渡って行われる過酷な試験です。そして1点の違いが合否を分けることもあります。

最後の最後まであきらめず、油断もせず、自分のできる限りのことを尽くして0.1%でも合格の確率を上げようとする執念が大事だと、この言葉が教えてくれました。

社会人になってからも、一生が勉強といわれます。私もむしろ、技術士になってから本当の勉強が始まったと思っています。

このささやかな体験文が、茶一さじ分でも読まれた方のお役に立てば幸いです。