世界中の財宝を集めても、わが子に勝る宝はない ――万葉の歌人 山上憶良

 銀も 金も玉も 何せむに 優れる宝 子にしかめやも
(『万葉集』)

『万葉集』の代表的な歌人・山上憶良には、子供を思う心を詠んだ歌が多い。
「子供は、最高の宝だ。人々は、銀や金や玉などを宝物だと言って喜んでいるが、そんなものとは比べものにならない」

憶良は、たとえ世界中の財宝を集めても、わが子に勝る宝はない、と高々と宣言している。

憶良が、父親としての気持ちを詠んだ、次の歌も有名である。

 瓜食めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲はゆ
 いづくより 来りしものそ まなかひに もとなかかりて 安眠しなさぬ

(『万葉集』)

「おいしいものを食べると、〝子供に持って帰ると喜ぶだろうな〟という思いがわいてくる。
 瓜や栗を、うれしそうに食べる子供の笑顔を想像するだけで、幸せな気持ちになるのだ。
 親子とは、なんと深い結びつきなのだろうか。あの子らは、どこから来たのだろうか。
 とても、この世に生まれてからの五年や十年の関係ではないだろう。
 遠い過去世から深い因縁があったとしか思えないほど、かわいくて、かわいくてならない。

 布団の中に入っても、子供の姿が目の前にしきりに浮かんできて、なかなか眠れない夜であることよ」

憶良が、こんなにもストレートに心中を表していることに驚かざるをえない。
現代ならばいくら子供がかわいくても、男性が公の場で発表することは、なかなかできない。
万葉の時代のほうが、今よりずっと人間味のある社会だったのではなかろうか。

憶良には、老いと病で苦しんでいる時に詠んだ長歌がある。
分かりやすくまとめると、次のような意味になる。

「私の一生は、苦しみの連続でした。
 まるで、痛い痛い傷口に、さらに塩を振りかけるようにして、つらいことが重なりました。
 しかも、年老いた私の身に病気まで加わってきたのです。
 一日中、嘆いてばかりいます。いっそのこと、死んでしまおうかと思いました。
 しかし、五月のハエのように、うるさく騒いでいる子供たちを見ていると、死ねませんでした。
 この子らを見捨てて、どうして死ねましょうか。子供を見ていると、胸が熱くなるのです」

子供は親がいなければ生きてはいけない。だが親に「生きる力」を与えるのも、また、子供である。
「あの子のために」と思えば、どんな苦難をも乗り越える力がわいてくる。


*万葉集 現存最古の歌集。奈良時代末に成立。全二十巻。
*山上憶良(六六〇‐?)

(『新装版 親のこころ』p.92-94 編著:木村耕一)

『新装版 親のこころ』書籍紹介

平成15年に発刊され、大反響を呼んだベストセラー『親のこころ』が、持ち運びやすいスリムなソフトカバーになりました。
歴史上のエピソードと、2000通の応募作品から選んだ体験談の二部構成で、古今変わらぬ親子の絆をつづります。
収録されている親子のエピソードと体験談は、いずれも涙なしでは読めないものばかり。親子で読むのにもお薦めです。

『なぜ生きる』書籍紹介

子供から大人まで、多くの人に勇気と元気を与えている書籍です。
発刊から20年たった今でも多くの方に読まれています。
忙しい日々のなか、ちょっと立ち止まって、「なぜ生きる」、考えてみませんか?
『なぜ生きる』のお求めは、お近くの書店や、弊社まで(TEL: 03-3518-2126)
お問い合わせください。

話題の古典、『歎異抄』

先の見えない今、「本当に大切なものって、一体何?」という誰もがぶつかる疑問にヒントをくれる古典として、『歎異抄』が注目を集めています。

令和3年12月に発売した入門書、『歎異抄ってなんだろう』は、たちまち話題の本に。

ロングセラー『歎異抄をひらく』と合わせて、読者の皆さんから、「心が軽くなった」「生きる力が湧いてきた」という声が続々と届いています!

世界中の財宝を集めても、わが子に勝る宝はない ――万葉の歌人 山上憶良の画像1

世界中の財宝を集めても、わが子に勝る宝はない ――万葉の歌人 山上憶良の画像2