1万年堂出版が開催した
読者感想文コンクールの
入賞作品の一部をご紹介します。

金賞

『思いやりのこころ』を読んで

岩本美保さん(33歳・長野県) 一般の部

私がよく覚えている母の言葉は「勉強しなさい」です。父は仕事の都合でずっと単身赴任でした。弟もいたので、母は独りで2人の子供の面倒を見ていて、いつも忙しそうでした。父は家事は母親の仕事と考える人だったこともあり、私は忙しそうな母の手伝いをしようと考えるよりも、”淋しい””勉強しなきゃ”という思いばかりでした。

ずっと将来のことが見えず、何をやりたいのか分かりませんでした。「これをしたい」という気力や熱意がなかったのです。勉強は試験の前になったら友達のノートを見せてもらって乗り切っていました。良い点を取っていれば「勉強している」ことだと思っていました。

短期大学を卒業してから就職しましたが、体を壊して入院してしまいました。まだ22歳という若い時に大変な手術をして、後遺症まで残ってしまいました。その時のショックは大変なものでした。これからどうやって生きていけばいいのだろう……と自分を追い詰めていきました。

病院で働く看護師の生き生きした表情も憧れましたし、自分の体がどうなってしまったのだろうという不安もあって、その時の私の出した答えは「体のことを勉強すればいいのか」というものでした。今までは目的もなく、試験の前だけ要領よく勉強していたからいけなかったんだ、看護師を目指して身を入れて”勉強しよう”と考えました。朝早くから勉強し、夜遅くまで猛勉強して看護学校に入って、看護学校でも頑張って勉強して保健師学校まで入学することができました。やっと何年もかかって保健師になることができた時は、嬉しさよりもホッとしました。

目標をもって勉強し、やっと、保健師として働き始めたのですが、全然上手くいきませんでした。体力的にも精神的にも限界になりましたが、それでも、休み方を知らないので、休むことができないのです。またまた体を壊してしまいました。なりたくてなった、保健師として働いた記憶がしばらくないくらいに、辛い体験になってしまいました。

そんな絶望の中から私に光を与えてくれたのが『思いやりのこころ』です。勉強したけど幸せになれなかった。実家から離れて就職した職場では、辛いことばかりではなくて、優しくて楽しい同僚にも恵まれたので、その人達と離れたくなかった。その職場では「あなたは周りの人にプラスのストロークができていない」とも言われました。

冷静になって考えると、私は人に求めてばかりで与えることができないことに気づきました。自分を変えなければいけないと強く思い、どうすればいいのかと『思いやりのこころ』を必死に読みました。二宮金次郎の農村立て直しで”荒地よりも、人間の心を耕す難しさ”の話は、まさに私に当てはまりました。金次郎が見ている時にだけ頑張っている横着な男は自分です。「仕事をする」とは、こつこつとまじめに、利他の精神で行うのだと理解しました。それこそが今までの自分に欠けていたと深く反省し、後悔もしました。

私の今までの行いにも言葉にも”こころ”がなかったので、この『思いやりのこころ』は全てのページが新たな学びでした。本当に死んでしまうかもしれないと思ったこともあるので、生きたいと真剣になりました。そして「よりよく生きたい」時に、この本の中にある言葉はこれからの生き方を教えてくれました。多くの人に迷惑をかけて、とりかえしのつかないことをしてしまった私が、これから挽回できるか分かりませんがこの本に出会っていなければ出直すことができなかったと思います。

「生きている限りチャンスがある」と誰かが言っていました。「勉強しなければいけない」と思って、心をおざなりに長い間生きてきた時とは、景色も違って見える今日この頃です。もっと早くこの本と出会っていれば、この言葉の意味が理解できていれば良かったと思います。しかし、前を向いて歩いていくしかないのが現実です。心の大切さに気づくことができてもそのことを実践し、生き方を変えていくことはとても大変ですが、年齢は関係ない、と気持ちを切り替えてマイペースにまた進んでいこうと思います。

毎日起こっている凶悪な事件の犯罪者も”勉強”の意味を間違えて生きてしまったのではないかと思います。

色々な試練を乗り越えて思いやりの心を学ぶことができて、生まれて初めて、穏やかな気持ちになれました。また、苦しいことがなかったら思いやりの心も持てなかったかもしれないと思います。独りでは生きていない自分にも気づくことができたので、これからは利他の精神で、感謝と思いやりを持って生きていきたいと思います。