運命をめぐる遥かなる物語 #7

  1. 人生

【連載小説】運命をめぐる遥かなる物語⑦~自由の国編

平凡な中学生の少女が、大切な「何か」を探すため、遙かなる旅に出る物語。
事故で母親を亡くした知子の前に、ある日突然、ソラと名乗る美しい女性が現れる。
理不尽な運命に心を押しつぶされそうな知子の手を取り、向かった先は――。
運命とは?生きるとは?
現代社会を象徴するかのような、不思議な国々をめぐりながら、その謎に挑戦する冒険が、今、始まる!

前回までのあらすじ

最初の「貧しい国」は、全ての罪が金で購えるシステムにより、悪いことをし放題の「心の貧しい人たち」が巣食う国だった。
次の「科学の国」は物質や肉体の研究にのみ囚われ、「本当の私とは何か」を見失っていた。
3番目の「呪われた国」は、不幸はみな宿命とあきらめ原因を省みようとしない、その名のとおり不幸が連鎖する国。
そして次の「歓楽の国」では、ソラの幼馴染カレスが「人生は先の心配をせず、楽しむべきだ!」と主張していた。
自らの正義を貫くためには他の犠牲も厭わない恐ろしい国「正義の国」を後にしたトモとソラは、哲学が盛んな「懐疑の国」で出会った男性と、パラドックスに満ちた問答を交わすのであった。

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第7話 自由の国編

懐疑の国を過ぎ、まばらだった木々は深くなった。

蒸し暑い気候、虫が多い。
水溜りでぬかるんだ道は絶えず泥を跳ねる。
うんざりするような土地だ。

(まるでジャングルみたいな…こんな土地まであるなんて)

知子は顔についた泥をグイッとぬぐい、軽くため息をついた。

「見てなよ!ここから峠を越えれば一気に変わるよ!」

運命をめぐる遥かなる物語7話

そんな知子の気持ちを察したか、サイドカーを運転しながらソラが大きな声を出す。
口を開けたために泥が入ったのか「プッ」とツバを吐きだしている。
ちょっと行儀が悪い。

サイドカーはエンジン音をひときわ高くし、坂を上る。
ソラの話によると何かが変わるそうだが、知子には意味がわからない。

(変わるって…あっ)

しばらく蛇行する道なりに坂を上ると、急に視界が開けたのだ。
立ち木は一気に低くなり、斜面に張りつくように斜めに生えている。
地面も一気に固くなった。

「変わった!全然違う!」
「そこまで標高差があるわけじゃないけどね!土壌のせいか、一気に植生が変わるのさ!」

サイドカーの騒音のため、2人の声は大きくなるが、もう口を開けても泥が入ることもない。

「もうすぐ次の国に入るよ!」
「どんな!国なの!?」

サイドカーは峠道を登りきり、先には大きな金網とゲートが見える。
ソラは「自由の国だ」と教えてくれた。

「入国手続きがあるからね。アンタはそこの水道で泥を落としてきな。ひどい格好だよ」

門でサイドカーを止め、ソラは知子の姿を笑う。
かく言う本人も泥まみれの姿だ。

(自由の国、か。アメリカみたいな国なのかな?)

蛇口をひねり、頭から水をかぶると頭をすすいだ水が土の色に染まった。

金網の向こうは道も舗装され、街路樹もよく手入れされている。
建物はコンクリートのようだ。

科学の国ほど未来的でもないが、呪われた国ほど時代を感じさせない。
今まで見てきた国の中では知子にも馴染めそうな風景だ。

「終わったよ。アタシも洗うからもうちょっと待っててくれ。上着を替えたらコイツを着けるんだよ」

ソラから渡されたのはバッチ?のようなモノだ。
見れば『あなたは自由だ』と書いてある。

「自由って、なんだが良さそうな国だけど…」
「だけど?」

いつの間にか髪を洗い終えたソラが、知子の呟きに問いを重ねた。
すでに泥だらけの上着も替えている。

「だけど、自分で見てみなければ分からないよ」

そう、知子だって様々な国を見てきたのだ。
正義の国のように、良いところを見せようとしているのかもしれない。

「自分の頭で考えないとね」

知子の答えを聞いたソラはニッコリと満足げに笑う。

「先入観に惑わされず、本質を見るか。言うほど簡単じゃない。だけど色々と見てみようじゃないか」

知子とソラはバッチを身に着け、ゲートをくぐり抜ける。

そのゲートには『すべての選択肢があなたの手に』と書かれていた。

◆◆◆◆◆◆◆

市街地に入ると、どこかで見たような町並みが続いていた。
雑多な様式で立ち並ぶ民家、あまり景観を考えていない電柱、路上駐車…日本とは建物や車のデザインこそ違えど、知子には懐かしささえ感じる町だ。
ただ、ところどころに『あなたは自由だ』と書いてあるポスターが目についた。

「ちょっと入ってみるか」

しばらく走った後、ソラがサイドカーを止めた。
そこはちょっと小洒落た店の前だ。

(カフェ…っていうのかな?)

看板も何もないがオープンテラスでは身なりの良い紳士が足を組み、新聞を読みながらコーヒーを楽しんでいる。

「なんだろう、あれ?レジの横にある…ポスト?」
「さてね、店に入ると驚くよ」

不思議なオブジェの存在に知子は首をかしげるが、ソラはそのまま入店してしまった。
空いてる席に勝手に座るがいいのだろうか?

店主らしき中年の男性もなにも言わない。

「ここは自由の国。どの席に座るのも自由さ」

知子は「ふうん」としか答えられない。

(ある程度は店の人が案内した方がいいような…?)

ちょっと不思議だが、この国ではこうだと言われては「そんなものか」と思うしかない。
知子もソラに向かい合う形で席についた。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」

いきなり店主がたずねてきて知子は「え?」と周りを見渡した。
テーブルにはメニューもないし、壁などに品書きが張り出されているわけでもない。

「あの、メニューは?」
「ここは自由の国さ、自由に頼んでみなよ」

知子の疑問にはソラが答えた。
だが、その理屈はおかしい。
いくらなんでも自由に頼んで何でも出てくるはずがないではないか。

「大丈夫ですよ。我々にも作れない注文には断る自由がありますから」

戸惑う知子を見かねたか、店主が助け舟を出してくれた。
しかし、自由に好き勝手な注文をするのは意外と難しい。

「ふむ、それじゃ私はコーヒーとサンドイッチを頼もう。トモはどうする?」
「あ、じゃあそれで!」

店主は「かしこまりました」と笑い、厨房に戻った。
知子はその姿を見てホッと息を吐く。

「ありがとう、ソラ。自由に頼んでもいいって言われても…急には思いつかないよ。断る自由なんて言われたらプレッシャーだし」
「だろうね。自由の中で選択するには経験則が必要さ。アタシは入り口でコーヒーを飲む紳士や店構え、あとは店内の香りからコーヒーを提供する店だと判断した。なら食事は軽食までだろう?」

思わず知子は「すごい、探偵みたい」と感心してしまう。
だが、ソラは「どうだろうね?」と苦笑いだ。

「いいのかい? 無理してコーヒー飲まなくても甘いジュースだってあるだろうさ」
「コーヒーだって、わりと飲んでたよ」

子供じみたからかい方をするソラに知子は少しうんざりした。
彼女はとても頭がいいのに、たまに同級生の男子のように意地が悪い。

「でもさ、メニューがないなんて不便じゃない?代金だって分からないのに」
「それも自由なのさ」

知子はソラの言葉を聞いてビックリした。
先ほどと同じで、やはりその理屈はおかしい。

「そんなのおかしいよ。じゃあ、払わずに出ていっちゃう自由もあるじゃない?」
「そりゃそうだ。でも、店だって支払いを求める自由もある」

なんだかこんがらがってきた。
自由と言われても限度があるだろう。

「それじゃあ、自由自由でぶつかるじゃない」
「そうだね。そんな時はアレの出番さ」

ソラはレジの横にあるポストのような機械を指で示した。

「アレはなんと言うかな…説明が難しいが、自由の判定機だ。互いの自由がぶつかった時に『どちらがより他社の自由を侵害しているか』を判定してくれる。勝ったほうの自由が優先さ」
「なにそれ?」

わざわざ機械なんか使わなくても店がコーヒーの値段を決めればいいだけではないか。
なんと奇妙な国なのだろうと知子は笑わずにはいられない。

◆◆◆◆◆◆◆

「あの、ちょっといいですか…?」

ソラと雑談をしていると、声をかけてきた者がいる。
知子と同年代くらいの少女だ。
トレイにコーヒーとサンドイッチを持っているところから、店員なのだと察することができた。

「ああ、ありがとう」

ソラが礼を言い、コーヒーにミルクを入れても少女はテーブルの側にいた。
さすがにこれは不自然だ。

「お嬢さん、何か話があるならテーブルにおつきよ。まだ椅子はあるからね」

ソラは少し気取って少女に声をかける。
少女は少し戸惑い店主の方を見るが、店主は張り出されているポスターの文言を指で示したのみだ。
そこには『全ての選択肢はあなたの手に』と書いてある。

「もちろん、席につくのは自由だし、つかないのも自由だ。私がこうして誘うのも自由。そうだろう?私達は旅の途中でね、お茶でもご一緒しないかい?」

少女は意を決したようにうなずき「マリーといいます」と名乗り席につく。
すると店主がやや緊張した様子のマリーの前にコーヒーを置いた。

「あ、お父さん…?」
「娘にコーヒーを出すのも自由だし、飲むのも自由さ」

どうやらマリーはこの店主の子のようだ。
顔立ちはあまり似ていない気もするが、優しげな雰囲気は共通している。

「それで、マリーさんはアタシたちに何か聞きたいんだろう?まあ、世間話でもかまわないけどね」

ソラがマリーをうながすと、マリーはコーヒーカップに視線を落とし、ためらいがちに「さっきの」と話し始めた。

「自由に選択するには経験が必要だって話です」

それからポツリ、ポツリとマリーは悩みを打ち明けた。
今年学校が卒業なこと。
進学か、就職か、はたまた違う道を歩むべきなのか悩んでいること。
誰に相談しても『自由だ』と言われるのみで途方にくれていたこと。
この国ではなにも決めず、在学し続ける自由も、働かない自由も、はたまた全てを放り出して他の国に行く自由だってあるが、それを選ぶこともできないこと。

「いつの間にか私は『自由に選ぶ』ということが分からなくなってしまって…そんな時にさっきの話が聞こえてきたんです」

知子はマリーにちょっと同情してしまった。
自分の進路で悩んでいるときに『好きにしなさい』とだけ言われたらどれだけ心細いだろうか。
そもそも、好き放題にできたら相談などしない。

「ふうん、なるほどね。自由であることが不自由になっているわけだ。自由に囚われている」
「…自由に、囚われる?」

思わず、と言った様子でマリーがソラの言葉を繰り返した。

たしかに自由と不自由は正反対の言葉だ。
それに『自由に囚われる』とは少し難しい。

「さっきのトモがそうだろう?知らない店で自由に注文しろって言われても戸惑うだけだ」
「まあね、メニューはあったほうが親切だよね」

さすがに「これください」「できません」が続けば客も店員もストレスが溜まる。
メニューを置けばそれで済む話だ。

「そうさ、ある程度選択の幅が狭い方がやりやすいこともあるだろう?でも、この国は自由にこだわり囚われているから、選択肢(メニュー)を作るということができないんだ」

ソラはゆっくりとした動作でコーヒーを飲み「前はここにもメニューがあったけどね」と、ため息をついた。
どうやら以前にも、この店に来たことがあるようだ。
ひょっとしたら店主とも知り合いなのかもしれない。

「自由で何をしてもいいと言われても…私は、私が何をしたいのか、どうなりたいのか、よく分からないんです」
「自分が何をしたいのか?どうなりたいのか?それを知ることは容易じゃないだろうさ。旅人は地図とコンパスで道を知る。人生にだって道標は必要だ」

ソラは真摯にマリーに向き合っている。
それはきっと、マリーと、父親の店主が望んだことなのだろうと知子は思う。

「大切なのはなんでもできる自由じゃない。限られた選択肢や目標の中で自分で考え、自ら選択をすることが重要なんだ。その選択の自由こそが大事だとアタシは考えるが、どうだろうか?」

マリーはソラの話を聞いて途方に暮れている。
それはそうだろう。普通はいきなりこんなこと言われても困るだけだ。

(私もはじめは驚いたなあ)

相手の理解を考えず、一方的に自説を展開するのはソラの悪癖だと知子は思っていた。
だが、それも彼女の魅力だと今では思う。

「いくつかある目標の中から正しい選択をするのが『経験』であり『知恵』なんだよ。マリー、少し整理しよう。君の好きなもの、苦手なこと、自分に何ができるのか、どうなるのが幸福か、まずはよく考えるんだね」

マリーは「よく考える」と言葉を繰り返した。
それは知子が初めにソラから伝えられたことだ。

「一つの道標としてアタシが君に伝えるのなら、善いことすれば幸せに、悪いことをすれば不幸に、自分のやった行為の結果は必ず自分に現れる。よく生きることが大事だと私は考えている」

◆◆◆◆◆◆◆

ソラはここで、知子に「トモはどうだい?」と水を向けてきた。
いきなりのことに驚き「あー、えーっと」と意味のない言葉が口から出る。

「私は『考え中』だよ」
「ふうん、何を考え中なんだい?」

ソラはニヤリと笑い、こちらを追いつめてくる。
マリーの視線もあり、少し恥ずかしい。

運命をめぐる遥かなる物語7話

「私はね、ソラの言葉を考え中。悪いことをすれば不幸があるって納得できない部分もあるし…だって、不幸な人が悪人って決まってないじゃない」

やはり知子が思うのは母のことだ。
気持ちの上では受け入れつつある母の死も、その理屈では納得できないことはある。

「私は色んな国を見てきて、自分が『正しい、善いことだ』と思っていたことで他人を傷つけることがあるって知ったし」

これは、正義の国で見てきたことだ。
正義のために縛られていた母子を思い出すと、今でも胸が痛くなる。

「それに、人には本当に正しいこととか、幸せとかは分からないって教えてくれた人もいたし」

懐疑の国で食べた不思議な果物の味は今でもハッキリと思い出せる。
不可知論は今でもよく分からないが、それでも『一つの考え方』としては知子の印象に残っていた。

「色んな国を見てさ、私の出した答えなの。まだ『考え中』って。だって『自分で考えること』が大切なんでしょ?」

これは知子が自分で出した答えだ。
ソラと出会い、旅をして、知子が自分の中の変化に戸惑いながらも出した、精一杯の答え。

いま口に出して整理をしたら納得した。
この戸惑いも含めて『考え中』なのだ。

ソラは知子の言葉を聞き、嬉しそうに目を細めた。

「私も一緒だった。よく分からないけどモヤモヤ悩んでて、誰にも相談できなくて…今でも悩むけど、その…」

しどろもどろになってしまったが、それでもマリーは「うん、私も考える」とうなずいてくれた。
その言葉を聞き、知子はなぜだか無性に嬉しくなる。
この喜びこそが、ソラが旅する原動力なのかもしれないと知子は感じた。

◆◆◆◆◆◆◆

しかし、今まで無表情だった店主がテーブルに近づいたことで空気が変わる。
店主はコーヒーのお代わりを淹れるフリをしながらメモをソラに手渡した。

メモには『バッチを外して店を出ろ』とある。
店主はアゴでレジの脇を示す…例の自由判定機だ。

知子は事情が飲み込めず「えっ?えっ?」とキョロキョロとしてしまう。
だが、ソラにはそれだけで十分に伝わったようだ。

「やれやれ、そんなことかい。自由の国が聞いて呆れるよ」
「すまんな。コーヒー代はつけといてやる」

ソラは店主と軽口を交わし「支払わない自由を行使するとしよう」と片目をつぶってみせた。
やはり知り合いだったようだ。

「ありがとう、ソラ。今の国じゃなかなか反抗期の娘と話し合う自由が行使できなくてね」
「あいよ。友人に会いに来る自由を行使しただけさ。奥さんによろしく」

ソラと知子はバッチを外し、席を立つ。
最後にソラは「おっと、食べそこねた」とひと切れのサンドイッチをつまみ上げた。
どこまでもマイペースだ。

「またね、マリー。私は知子、ソラと旅してるんだ」

別れ際に名乗るのを忘れていたことを思い出し、知子はマリーに自己紹介した。
なんだかおかしくなって二人でクスリと笑ってしまう。

「またね、トモコ!」

マリーとは数十分しか会っていない。
だが、知子にはなんとなく分かるのだ。
身近な人に相談できず、全くの他人に悩みを打ち明けたマリーの気持ちが。

店を出て、ソラがサイドカーのエンジンをかけると、ちょうどパトカーが止まり、警官がなにやら店主に質問しているようだ。

「ふん、自由を守るための発信器に盗聴か。自由ってのはなんだろうね」
「ええっ!?今ので警察が来たの!?」

驚いた知子は思わず大声を出してしまう。
ソラは「あっバカ」と注意をしたがもう遅い。

「そこの二人、止まりなさい。あなたたちには他者の自由を侵害した容疑が―」

警官の制止を最後まで聞かず、ソラはサイドカーを急発進させた。
サイドカーは今まで聞いたことのない唸りを上げ、スゴいスピードで走る。
知子は悲鳴を上げようとしたが、風圧で口から「あばば」と変な声が出たのみだ。

「捕まるとコトだ!飛ばすよ!」
「ちょ!?まずいよ!」

後ろから「そこのサイドカー止まりなさい」と拡声器の声が聞こえる。
やけにサイレンがうるさい。

「あっはっは!このままゲートを抜けてやるか!」
「そんなの無理!無理だって!」

閉まりかけのゲートを見て、ソラの口が嬉しげに歪む。
挑戦的で獰猛な笑みだ。

(まさか、突っ込むの!?絶対無理―)

知子は目を固く閉じ、なにか自分が奇声を上げた気がした。

◆◆◆◆◆◆◆

「あっは、どんなもんだい」

次に目を開けると、峠の低い木々が目に入ってきた。
ソラは誇らしげにニヤニヤしている。

「もう!無茶しないでよ!」

知子は抗議をするが、ソラは「悪い悪い」と全く悪びれていない。

「自由について論じただけで捕まっちゃたまらないよ!そうだろう!?」

知子は呆れつつ「まあね」と応じた。

ソラは自分が正しいと信じ切っているのだろう。
警察の制止を振り切って国境を突破したことは彼女の中で悪ではないらしい。

このまま不快な森に逆戻りかと知子はうんざりしたが、どうやら先ほどとは道が違う。

「さて、このまま行くと…不死の国か。晴れてるからよく見えるね」
「不死の国?」

ソラは指でかなり高い位置を示す。
その先を見て知子は驚きで言葉を失った。

なんと、大きな岩のようなものが宙に浮かんでいるのだ。
この世界に来て不思議なものはたくさんみてきたが、これはケタが違う。

「アタシも行ったことはないんだけどね、話は聞いたことがある。死者を蘇らせる技術があるとか、死者に会える秘術があるとか…話半分にしても与太話だね。恐らくは交霊術的な宗教、もしくはユートピア信仰のたぐいだろう」
「死者を、蘇らせる?」

その言葉を聞き、知子の心臓はドクンと高鳴った。

死者が生き返るはずがない。
だけど、ここは岩が浮いているような不思議の世界なのだ。
どんなことでも起こりえる―知子にはそう思えてならない。

「さすがにあそこは行けないね。あそこは一種の聖域だ。カレスでさえ入国をあきらめたらしい…っと、トモ、どうした?」

自分を気づかうソラの声が、どこか遠くに聞こえる。

知子の意識は、宙に浮かぶ不思議な岩にくぎ付けになっていた。

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