根気よく続ければ、やわらかい水滴でも硬い石に穴をあける

「もう、あきらめようか……」
という迷いが、ふと出てくることがある。
 そんな時には、「雨だれの説法」を聞いてみよう。

 平安時代、明詮という若い僧が、仏法の学問と修行に打ち込んでいた。
 しかし、三年たっても、いっこうに魂の解決ができなかった。
「俺はダメな人間なのかもしれない。今はこれまで……」


 気力がなえてしまった明詮は、修行をあきらめ、下山することにした。
 彼の決意が固いので、師匠も引き止めることはできなかった。
 だが、さすがに、苦楽をともに修行した師や法友と別れるのはつらかった。
 明詮は泣きながら寺を出る。
 ところが、急に大雨が降ってきたのである。やむなく山門の下に腰をおろして、雨がやむのを待っていた。


 屋根から、雨だれが落ちている。
 次から次へと、絶え間なく落下する水滴は、地表の石にぶつかって、パッと砕け散っていく。
「おや、石に穴があいているぞ!」
 硬い石の表面が、くぼんでいるではないか。雨だれのしわざ以外にない。
 それにしても、ほんの数ミリのくぼみを作るのに、何年かかったのだろうか。

 明詮は、雨だれを見つめ、考え込んでしまった。

「やわらかい水滴が、硬い石に穴をあけている……。なんという驚くべき事実であろう。
 そうだ、自分は、二年や三年の努力でへこたれて断念したが、この水にも恥ずべき横着者であった。初心を忘れていた。後生の一大事を軽くみていたのだ。
 たとえ、水のように力のない自分でも、根気よく求めてゆけば必ず魂の解決ができるに違いない」



 雨だれの説法に目覚めた明詮は、決意新たに立ち上がった。
 今、出てきたばかりの寺へ引き返し、師匠に、心からお詫びをしたという。
 前にも増して、真剣に努力精進したことはいうまでもない。
 明詮は、後に、一宗を代表するほどの高僧になっている。

 初志を貫徹することは、なかなか難しい。
 目的の大きさに比例して、道は険しく、苦難も多くなる。
 心が弱くなった時は、冷静に原点を見つめ直す機会を作ったほうがいい。おのずと答えが出てくるはずである。

(『新装版 こころの道』p.142-144 編著:木村耕一)

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