目的がハッキリすれば、 何を優先すべきか、自と決まる。

『徒然草』が示す、悔いなき人生の秘訣

 毎日が、忙しく過ぎていく。
 なすべきことが、山のようにある。
 そんな時、何に気をつければよいだろうか。

 鎌倉時代のエッセー集『徒然草』は、一人の男の生涯を例に語り始める。

 ある人が、「おまえは、仏教の学問をして、説教師になりなさい」と、子供に言った。
 素直に従った彼は、まず、馬の乗り方を習い始めた。
「法事の時に、馬で迎えに来られたら、どうしよう。まともに乗れなかったら恥ずかしいではないか。落馬したら大変だ」と思ったからである。

 さらに、歌の稽古にも励んだ。
「法事のあとで、お酒が出るだろう。何も芸ができなかったら、招待してくれた人が興ざめするに違いない」と、彼なりに考えた結果であった。

 乗馬と歌は、次第にうまくなっていった。上達すればするほど、おもしろくなってくる。
 しかし、本来の目的であった、仏法を学ぶ時間がないまま、年をとり、大いに後悔したのであった。

 著者の吉田兼好は、こう批評する。

「愚かなのは、この男だけではない。
 大きな目標を立てても、『まだまだ生きていられる』とのんびり構え、目の前のことに心を奪われている者ばかり。
 これでは、何一つ成し遂げられない。どんなに悔やんでも、過ぎ去った歳月は返ってこないのだ。
 しかも肉体は、勢いよく坂を下る車輪のように、急速に衰えていく」

 では、どんな心がけが必要なのか。
『徒然草』は続ける。

まず、生涯に果たすべきことの中で、一番大切なものは何か、よく考え、ハッキリさせることだ。
 それ以外のことは思い切って断念し、最優先すべき目的に向かって努力すべきである」

「それは、一日、一時に縮めても同じである。
 やるべきことが山ほどある中で、何が一番重要かを的確に判断しなければならない。
 それ以外は投げ捨てて、少しでも価値の高いものから順に取り組むべきだ。
 どちらも捨てられないと執着していては、一つも成就しないであろう」

 目的がハッキリすれば、何を優先すべきか、自と明らかになる。
 七百年前の教訓ではあるが、慌ただしい現代にこそ、必要な心がけではなかろうか。

*『徒然草』188段。
*吉田兼好 鎌倉時代後期から南北朝時代にかけての歌人・随筆家。

(『新装版 こころの道』p.126-128 編著:木村耕一)

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