世界一おいしいご馳走ができあがりました、と料理人は言った

 世界一おいしい、料理が食べたい〟
 昔、ある王様がこう言って、国中の料理人を召集した。
 王宮で常に、食の贅を極めているので、どの料理も、おいしいとは思えない。
「へたなやつばかりだ。もっと上手な料理人を探しだせ」
 側近が困惑していると、
「私が世界一の料理人でございます」
と、申しでた者がいた。
「余の満足する料理が作れるか」
「おそれながら、それには、私の言うことをお守りいただかねばなりませぬ」
「おもしろいことを言うやつじゃ。守ってやるから作ってみよ」
 王様も、意地になって承諾する。
 それから三日間、昼夜、王様のそばを離れず、ジッとしているだけだった。
「いつ、料理を作るのじゃ」
「はい。そのうちに、必ずお作りいたします」
 三日目にもなると、空腹でヘトヘトの王様に、粗末な野菜料理が運ばれた。
「さあ。お約束どおり、世界一おいしいご馳走ができあがりました。十分にお召し上がりくださいませ」
 むさぼるように、それをたいらげてから、王様は言った。
「こんなおいしいものを食べたことがない。なにを、どんなに料理したのか」
 料理人はそのとき、こう答えたという。
「料理の上手は飢えにあります。空腹で召し上がるものが、一番の、ご馳走でございます」

〝おいしい〟と感ずるのは、飢えという苦しみの軽減されてゆく過程である。
 飢えの苦のないところに、おいしいという楽しみは、ありえないのだ。
 人生もまた同じ。苦しみから逃げまわって生きようとする者は、絶対に楽しみを味わうことができない。
 意気地なしや卑怯者と、真の幸福は、無縁のものなのだ。
 楽の元は苦、といわれるではないか。

(『新装版 光に向かって100の花束』p.168-169 著:高森顕徹)

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