一職を軽視する者は、どんな地位におかれても、不平をもつ 秀吉の心がけ
おそらくカンシャク者の信長より、明朗闊達な秀吉に軍配をあげるだろう。
なるほど家康は、全国を平定し、徳川三百年の基礎を築いたが、なにかしら胸にいちもつある「タヌキオヤジ」の印象を受ける。
そこへゆくと秀吉は、一介の水呑百姓からたたきあげ、天下を取ったが恬淡としている。
負けても勝っても、有頂天にならず、メソメソ後悔もしない。
「太閤さまにまで出世されるには、違った心がけが、あったことと思いますが……」
ある人がたずねた。
「ワシは、太閤になろうなどとは思ったことがない。
草履取りのときは草履取りを一心に努めたら、足軽に取り立てられた。
ありがたいことだと一生懸命仕えたら、侍になった。侍の仕事に夢中になっていると、いつしか侍大将になっていたのだ。ついに姫路一城を拝領するにいたった。
ワシは、一職をうれば一職、一官を拝すれば一官、その職官に没頭して今日にいたったのだ。ほかに出世の秘訣は、なにもない」
人生に目標を立てることは悪いことではない。
けれども目標達成に急なるがあまり、今日一日の努力が宙に浮くことが、おうおうにしてある。
権利だけ要求して義務をはたさぬ者の多い中、与えられた自己の場で、ただ死力を尽くす。〝あの人には見どころがある〟と、新しい重要ポストが与えられる。
そこでまた脚下照顧して、ベストを尽くさねばならぬ。
一職に忠実な者は、何事にも忠実だが、一職を軽視する者は、どんな地位におかれても不平をもつ。不満のある者は成功しない。
与えられた使命を、忠実にはたすことが、成功への道である。
(『新装版 光に向かって100の花束』p.35-36 著:高森顕徹)
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