ここは、わが子を育てるのに、ふさわしい所ではない  孟母三遷の教え

孟子は、今から約二千三百年前の人である。
中国の代表的な思想家と言っていい。
彼の母は、教育熱心な人、として知られている。
故事成語辞典を見ると、「孟母三遷の教え」「断機の戒め」の逸話が出ている。

幼いころ、孟子の家は、墓場の近くにあった。そのため、いつも葬式の真似事をして遊んでいた。
母は、「ここは、わが子を育てるのに、ふさわしい所ではない」と言って、町の市場の近くへ引っ越した。

ところが今度は、商売の真似事ばかりして遊ぶようになった。
またもや母は、「ここも、わが子を育てるのに、ふさわしい所ではない」と言って、学校の側へ引っ越した。

孟子が勉強の真似事ばかりして遊ぶようになったので、「まさに、わが子を育てるのにふさわしい所である」と、母は喜んだ。
これを「孟母三遷の教え」という。

一言で〝引っ越し〟と言っても簡単なことではない。大変な負担を伴う。
子供の将来のことだけを考えて短期間に繰り返し断行できるのは、やはり「親」なればこそであろう。

孟子が少し大きくなってからのこと。遠方へ勉学に行っていたが、途中で家に帰ってきた。
母が、ちょうど機織りの仕事をしていた時であった。
「勉学は、どれくらい進みましたか」「いいえ、元のままです」

すると、母は、刀を持ち出し、自分が織っていた織物を、スパッと切り裂き、「おまえが学問を途中でやめるのは、織りかけていた織物を、途中で断ち切るのと同じです。何の役にも立ちません」と、厳しく教えた。
「断機の戒め」である。
驚いた孟子は、発奮して勉学に励み、やがて天下に名を成す学者になったという。

親ならば、当然、子供に優しい言葉をかけてやりたい。その思いを、ぐっと抑えて、厳しく突き放す母は、どんなにつらかったことか。
真剣に、子供のことを思っている心が伝わったからこそ、孟子も立ち直ったのであろう。

(『新装版 親のこころ』p.80-82 編著:木村耕一)

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