「どうしてボクは苦しむのか」「お前が幸福だったからさ……」

「幸福というものが、同時に不幸の源になっている。これもさだめなのであろうか」、とゲーテは嘆きました(『若きウェルテルの悩み』)。

 恋人や健康、財産、名誉など、私たちに喜びを与え、幸福を支えるものは、不幸や涙の原因でもあります。

 これらの支えが倒れたとき幸福もまた崩壊し、悲しみに沈まねばならないからです。

 印象派の巨匠ルノワールは、晩年にひどいリウマチにかかり、指が変形してしまいました。

 それでも、筆をにぎったまま両手を包帯でグルグル巻きにして、執念で絵を描きつづけています。

 才能を発揮できない無念さを、つぎのように語りました。


 手足がきかなくなった今になって、大作を描きたいと思うようになった。ヴェロネーゼや、彼の『カナの婚礼』のことばかり夢みている! なんて惨めなんだ!
(A・ディステル著、高階秀爾監修、柴田都志子・田辺希久子訳『ルノワール』)


 病苦にあえぐ人は、健康の支えが傾いたといえましょう。失恋に泣くのは、恋人に裏切られたから。

 夫や妻を失い、子供に先立たれて悲嘆している人も、生きる明かりが消えて、涙の谷に突き落とされているのです。

 やっとの思いで幸福を手にした瞬間から、苦しみの魔の手が足下から背後から近づいています。

 どんな幸せも、やがて私を見捨て、傷つけずにはおきません。

 この惨事を終わらせるものが、墓場以外にあるのでしょうか。

(『なぜ生きる』p.79-81 著:明橋大二・伊藤健太郎、監修:高森顕徹)

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